1ー2
その三人の目的地であるデパートとは逆方向、公立『麻宮第一高校』。今迄に紹介させてもらった高校生達、ユージ、サオトメ、長谷川、そしてミキモト、一条、アンドウ、全員が通っている公立高校の進路相談室では一組の先生と生徒が真剣に話あっていた。
「うん、この結果だったら志望校、大丈夫だわ。」
資料に目を通しながらその先生、アヤメ先生は生徒に向かって言った。
「ありがとうございます。もしかしたら志望校のランク上げるかもしれません。」
直立不動のその生徒の言葉にアヤメ先生は、
「そうね。まだ二年の夏前だもの。あと一年半あるわ、充分もっと上、目指せるんじゃないかしら。」
と、応援する言葉をかける。
アヤメ先生は二十代半ば過ぎの女性の先生だ。自分の意見をきちんと主張する強気な性格だったが、生徒想いで評判が良かった。今もこうして休日に補習に来ている、それも足りない学力を補う為の補習じゃ無くてさらに上を目指す為の補習を受けに来ている生徒との面談を設けている。
「はい。夏休み明けの試験の結果で、また考えてみるつもりです。」
「でも、ね、カガミ君。ちょっと頑張り過ぎじゃないかしら。」
「・・どういう意味でしょうか。」
「うーん、なんて言うのかな。ちょっと頑張り過ぎなんじゃないかなって、先生思っちゃって。」
「・・・どういう意味でしょうか。」
面談の目的の一つはもちろん学力の確認だったが、アヤメ先生にはもう一つ別の目的があった。これが先生を生徒想いと表現させる理由でもある。
「別に頑張るっていうのは、悪い事じゃ無いと思うのよ?他の頑張ってない子に、それこそカガミ君の爪の垢でも煎じて飲ませてあげたいぐらいだわ。・・って、今のは聞かれると先生怒られちゃうから、黙っておいてね。」
真剣な話の時は真剣に生徒に向かい、おちゃらける時は笑顔を見せる。そういうメリハリで生徒との心の距離を縮めていく。それがアヤメ先生の手法の一つだった。先生は続ける。
「なんか、ね。先生にはカガミ君がそこまで頑張る理由が見付からないのよ。」
「・・・。」
カガミと呼ばれたその生徒は何も答えなかった。いや、何も答えられなかった。表情も変える事無くただアヤメ先生を見詰めかえす。
「いや、無理してるんじゃなかったら、別にいいのよ?ただ、何か悩みを抱えてたり、何か他人には言えない事とかあるんだったら、先生、いつでも相談に乗るわよ?」
常に生徒の目線で生徒を見詰め、異常があれば優しく語りかける・・・アヤメ先生は教師という仕事の半分はこうする事だと思っていた。
「ありがとうございます。大丈夫です、先生。僕は別に悩みとか、ありませんから。」
「そう、ならいいんだけど。」
カガミの口調に差し迫ってる危機は無いのかな、と思ったアヤメ先生は半分安心して、もう半分は安心しきれずに、手元の資料に目を落とした。
それを見たカガミも顔を逸らす。窓の外にグラウンドが見え、陸上部が練習をしている。
スターターピストルの音に合わせて走り出す部員達、どうやら女子部の練習みたいだ。その中で一人だけが他より三歩程も先に飛び出し、さらに加速する。
(ウメノハラ、か・・・我が高始まって以来の天才陸上選手、性格は大人しく学力も優れているワケでは無いが、一度走り出すと誰よりも早く、どこまでも走って行くと言う。)
「どうしたの?カガミ君。」
「あ、いえ。女子陸上部が練習しているんです。ウメノハラ、相変わらず早いなぁって思いまして。」
「そうね。期待の星だものね、彼女。ある意味、カガミ君と同じかしら。」
「え?僕と同じ、ですか?」
「そう。皆の期待を一身に背負ってる。そしてその期待に答えようと精一杯頑張ってる。」
「いや、僕は何も期待に答えようってわけじゃぁ・・・」
言い淀んだカガミが再び外を見る。ウメノハラは相変わらずトラックを猛烈なスピードで駆け抜けていた。
こんな書き方をしてしまうとまるでカガミがこの話の主人公であり中心人物であるかのような印象を与えてしまうが、主人公は間違いなく長谷川で、物語りは彼を中心に進んで行く。カガミの扱いはむしろモブに近い事を宣言しておく。
「いちいち言うな、だから僕は何も期待に答えようってわけじゃないんだって。」
「わかったわよ、二度も言わなくていいわ。」
「あ、いや、その・・・」
「それより、一条さん達とは仲直り出来たの。」
アヤメ先生の質問にカガミはきっぱりと、
「いえ、仲直りするつもりはありません。っていうか、別にそもそも喧嘩なんかしてませんし、それ以前に仲良かった事なんかありませんし。」
と、言い切る。
ここに二組の仲良しグループ。まずは男四人のグループ、メンバーはもちろん、長谷川、カガミ、ユージにサオトメ。幼なじみメンバーで休日もよく一緒に遊ぶ。
もう一つは女三人のグループ、一条、アンドウ、それにミキモト。どちらかといえば皆から嫌われている一条とアンドウの二人にパシリのように従うミキモトの構成具合はまぁ自然の成り行きと言えば自然の成り行きだが。
「うーん。」
アヤメ先生は思わず唸ってしまう。この二グループ、とにかく仲が悪い。今は落ち着いたのか『互いに無視』状態だが、ちょっと前までちょっかいの応酬が激しかった。それがクラスを巻き込んだりしてよく職員会議でアヤメ先生は状況の説明と監督不行届の釈明をしたものだった。
(まぁ、こういう事には時間がかかるのかもね・・・難しい年頃でもあるし、ね。じっくりと腰を据えて見守ってみようかしら。)
そう思うアヤメ先生であった。
キャラ把握しきれませんよね、これ。アニメじゃないんだし。小説ならではの表現にこだわりきれない僕涙目。キャラの登場のさせ方は少しづつ登場させるとか、何か方法を模索したいです。