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ネガイシステム  作者: ぼんべい
三章 ヘヴィな話、ヘヴィな現実
24/62

3ー6

 その夜。

 七時過ぎに母親は帰ってきた。せめて土日は姪と一緒に過ごしたい。姪の為にもそうしたかったし、自分自身の為にもそうしたかった。けれど流石に丸二日仕事を休む訳にはいかない。その妥協点が日曜日は極力休み、土曜日は出社はやむを得ないものの、せめて夕飯は家に帰って心愛と食べよう、というものだった。

 「たっだいまー、心愛、いい子にしてたぁ?」

 「おかえりー、お母さん!はーい、いい子にしてたよぅ。」

 スーパーの袋を置きざま、駆け寄ってきた心愛を抱き上げる女社長。

 「よーし、いい子だぁ。今日は唐揚げ買ってきたから、一緒に食べよ?」

 「うん、心愛唐揚げ大好き!」

 それから母親は着替えると化粧を落とし、袋から出したものを電子レンジで温め直してテーブルに並べる。手作りでは無かったが出前よりは家庭料理らしい雰囲気にテーブルが彩られる。

 「今日はいい子にしてた?」

 食事をしながらの親子の会話。

 「うん、してたよ。あのね、メロディ塗り塗りしたの!」

 「そう、後で見せてね。」

 「うん!あ、そうそう、お母さん、なんで帰ってこなかったの?」

 質問の意味がわからず、唐揚げで口の中をもごもごとさせながら母親が聞き返す。

 「帰ってなんてこれないわ。お母さんはお仕事がとってもとっても忙しいの。」

 やっぱり寂しいのかしら。でも、この大事な時期に土曜日までは休めない。そんな事を母親は考え、こうフォローを入れる。

 「明日は、お休みだから一緒にいましょうね。そうだ、動物園、いこっか。」

 「えー、だって、お兄ちゃん、ずっと待ってたよぉ?」

 しかし、心愛は意外な事を言い出した。

 「なに?お兄ちゃん、って。」

 「お母さん、呼んだんでしょう?お兄ちゃん。お家でね、ずっと待ってたんだよ?」

 さー、っと母親から血の気が引いた。箸をがん、と置くと体を硬くして心愛に問いただす。

 「心愛、何があったの、ちゃんと話して。」

 「えっとね、お手紙、預かってるの。」

 少しだけ心愛も緊張を示したが、母親の豹変はよくある事、また自分ペースで話し続ける。テーブルから降りると忘れないようにとソファーの所に置いておいた長谷川からの手紙を持ってきて、母親に手渡した。

 「はい。」

 せり上がる不安と恐怖を必死に押し込みながら母親はそれを受け取り広げた。

 そこには次のように書かれていた。


 『僕も向こうの世界で願い事をしてこの世界へ来ました。

 あなたの三億を目指す財産と大切な姪(心愛ちゃん、ですよね?)、

 それから僕の国について、お話したいと思っています。

 月曜日の午後二時に会社に伺います。

 心愛ちゃんはとっても可愛いいですね。』


 「おかあ、、、、さん?」

 手紙を握る母親の手が小刻みに震えている。従業員からは鉄の女とも言われる彼女が見せる動揺。さすがに心愛も心配しだす。

 くしゃり、と手紙を握りつぶすと、母親は小さく首を振りながら再び心愛に尋ねた。

 「今日、何があったの。誰が来たの。話して。」

 「えっと、、、」

 おずおずと心愛は話し出す。

 「お兄ちゃんが来て、一緒に塗り絵やったの。お母さんに呼ばれたって言ってた。それだけだよ?」

 「本当にそれだけ?何かされなかった?」

 何かされる、の表現に思い当たる事が無いのか、心愛は首を傾げる。

 「じゃぁ、塗り絵だけして、帰って行ったの?」

 「あ、ジュースも飲んだ。そうだ、ジュースもらったよ。メロンジュース。おうちで作ったって言ってた。」

 「お兄ちゃんは、優しかった?」

 「うん、とっても!」

 昼間の事を思い出し、憂鬱そうな母親の事など忘れ少しはしゃぐ心愛。その様子を見て、心愛を懐柔したのか、と母親は判断する。

 「お願い、心愛。お母さんと約束して。」

 ぐいと体を乗り出してまっすぐこの世界での自分の姪を見詰めながら、母親はいつになく真剣に言った。

 「もう、そのお兄ちゃんには会わないで。もしまたそのお兄ちゃんが家に来たら追い返して。家にあげちゃ、絶対ダメ。お話してもダメ。それから、お母さんに電話して。」

 「え、でも電話しちゃダメだって、いつも。」

 「ううん、今はいいの。そのお兄ちゃんが来た時だけは、お母さんに電話して。」

 「うん、わかった。でも、お兄ちゃん、一緒に塗り絵してくれただけだよ?」

 「いいから電話して!それから、絶対に家にあげちゃダメ!」

 不意にリビングに響いた大声にびくんと心愛は体を震わせた。それから泣きそうになったが、頑張ってそれを我慢する。

 「ごめんなさい。」

 吐き出すように母親は謝る。

 「でも、お願い。もうそのお兄ちゃんには関わらないで。」

 こくん、と心愛は頷いた。

 母親は立ち上がるとテーブルをまわり心愛の隣の椅子に座った。

 それから、ぎゅ、っと、愛する姪を抱き締めた。

 強く、強く抱き締めながら、こう囁いた。

 「大丈夫。心愛。あなたは私が、お母さんが絶対守るわ。」

 心愛は、お母さん、と、小さく呟いて答えた。

全体的な表現力は低いですけど、このレベルの表現力にしてはよく書けたかな、と思ってます。動揺の表現とかがワンパターンなのでそれを打破していきたいです。キャラの感情設定がしっかりしてるとそれを浮き彫りにする事や掘り下げる事に集中すればいいので書きやすいですね。

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