表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネガイシステム  作者: ぼんべい
三章 ヘヴィな話、ヘヴィな現実
20/62

3ー2

 ○ ○ ○


 定期試験はそつなく終わった。

 解放感から騒いだり、駄目だったよぉと叫んだり、よっしゃ、と喜んでる他の生徒達を尻目に長谷川は家路を急ぐ。ミキモトの事を待ちながら。

 途中、校舎から出る前に一条とアンドウが廊下の遠くで話をしているのがたまたま見えた。制服姿のアンドウのシルエットからはあの時見たベビードールやそれを脱ぎ捨てた時のシルエットは想像出来なかった。そしてアンドウは一度も長谷川を見なかった。

 波長が合う、というのも一条とアンドウが一緒に居る理由ではあるのだろうが、『嘘を付けない』という制約を負ったアンドウにはその境遇を理解してくれる一条や友達に多大な配慮をしてくれるミキモトぐらいしか傷付く事なく一緒にいられる人が居なかったのだろう。

 定期試験の終了に一喜一憂する生徒達。でもその中に学校という枠組み、あるいはこの世界という枠組みでは解決出来ない悩みや問題を抱え歯を喰い縛っている人間がいる。そういう事実を認識する事は長谷川に課題に立ち向かう新たな勇気を与えてくれた。

 そして、出来る事ならそういう人達のなんらかの力になってあげたいものだ、とも、思わせる。長谷川だって子供じゃ無い。何かが出来るなんて思ってはいない。でも、子供じゃ無いんだ。何も出来ない、とも、思っては居なかった。

 いつもの所ぐらいでミキモトが長谷川に声を掛ける。

 「あの。」

 「やあ。」

 そして二人の言葉が重なる、

 「「今度はアンドウさんからなんです。」」

 驚いた顔で長谷川を見るミキモト。

 「知ってたんですか?」

 「まぁね。今日は公園でいいかい。ジュース、奢るよ。」

 「はい。」

 自分には缶コーヒー、そしてミキモトにはリクエストに答えてお茶を買うと長谷川は公園のベンチに座った。

 落日前でまだ明るく、幼い子達が三人程砂場で遊んでいた。ミキモトがうれしそうにそんな子達を眺める。

 「子供、好きなんだな。」

 「はい。だって、可愛いじゃないですか。」

 「そうだね。」

 「これ、手紙です。今日はいつもの缶コーヒーじゃ無くて良かったんですか?」

 「ありがと。まぁたまにゃいいだろ。」

 心無しかミキモトの口調や雰囲気が砕けているように長谷川は感じた。もしかしたらこの間の告白ですっかり二人は仲良しだと思っているのかもしれない。まぁ、それならそれで悪くない話だ。

 「住所、ですか?」

 手紙を広げ読んでる長谷川に体を預けるようにしながらミキモトが覗き込んでくる。

 「ああ。」

 慌ててそれを畳む長谷川。

 「あ、何で隠すんですか。あぁー、もしかして、アンドウさんとそこで逢引する、とか、なんですか?」

 「(いや、逢引はもう前回終わってて。)はは、違うよ。」

 「あー、わかりました。長谷川くん達、探偵してるんでしょ?」

 「探偵?」

 「人探しとか、不倫調査、とか。」

 「(あながち間違ってねーかな)まぁそんなもん、かな。違うけど。」

 「えー、絶対正解だって思ったのに。」

 「なぁ、ミキモト。」

 不意の真剣な長谷川の問い掛けに緊張気味にミキモトは返事をした。

 「はい。なんでしょう?」

 「蒸し返すようで悪いんだけど、さ。その前の話の親友の、ご両親はそれからどうしたんだ?」

 期待していた事と違う質問が来たからか、それとも当時の事を思い出したからか、少し悲しそうにした目を俯かせてミキモトは答えた。

 「父親はすぐにフランスから帰って来ました。そしてすぐに会社を辞めて母親と一緒に何処か遠くの地へ引っ越して行きました。それからどうなったかはわかりません。父親は、その引越の前に私に言いました。」

 そこでミキモトは話を区切った。長谷川は黙って待つ。

 ミキモトは一口お茶を飲んだ。

 それからまた少し黙った。

 そしてもう一口飲もうとしたのかペットボトルを持ち上げようとしてすぐそれを降ろして、そして続けた。

 「お前のせいだ、ずっと一緒に居たお前のせいだ、お前が殺したんだ、って言いました。」

 絶句。

 長谷川には言葉が無かった。その父親も状況に相当追い詰められてはいたのだろうが、彼は一番してはいけない事をしてしまった。その行き場の無い怒りを身近な弱者、ミキモトにぶつけてしまった。

 ミキモトは目を閉じる。そこに一筋の涙。

 やがて体の力が抜けたように傾いて。

 長谷川に体を預けた。長谷川はミキモトのなすに任せた。ミキモトはそれ以上、泣く事は無かった。でも三分程そうやって長谷川によりかかっていた。

 それからミキモトは目を開け体を起こす。そこで長谷川は謝った、

 「悪かった。変な事を聞いてしまった。」

 「いえ、いいんです。私、一番これを聞いて欲しかったですから。」

 「なら、聞いてあげられてよかった。」

 「はい、ありがとうございます。」

 それから二人共手に持っている飲み物を少し飲んだ。子供たちは相変わらず砂場で遊んでいて、まだ日は落ちる気配は無かった。

 「ジュース、ありがとうございました。私、もう帰りますね。」

 と、立ち上がりながらミキモト。その時はもういつもの元気な小柄な少女に戻っている。

 「伝言はありません。それじゃ。」

 「ああ、ありがと。」

 少し歩いてから、ミキモトは振り向いて長谷川に言った。

 「今度こそ、何やってるのか当ててみせますからね!」

 「楽しみにしてるよ。」

 長谷川は片手を上げてそれに答えた。


話の切り替えの所に切り替えを示す文章を入れたらもっとめりはり付いてよかっただろうと思います。それと、全編通してですが、長谷川の感情表現が出来てないですよね。異世界に来て自分の世界の記憶が曖昧な長谷川は全体的に消極的なのですが、ならばそれをきちんと表現するべきでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ