1ー1
話は変わり、ここはこの世界今の時間、そして『シュリーズ』という名前の家電の量販店の中。
四階建ての店内には所狭しと商品がひしめき合い、特別価格を教えてくれる赤字の値札が乱立する。『家電の量販店』の名前通りの家電のコーナー、お菓子、駄菓子、食品のコーナー、ゲームのコーナーに日用雑貨のコーナー。各フロアに配分されているコーナーはまさにデパートのミニチュアだ。
そんな中、スポーツ用品のコーナーで物色してる高校生男子が二人。
「を、このラケット、いけんじゃね?」
タンクトップにモヒカン頭、良く言えば素直だが悪く言えば単純に見える純粋な瞳を輝かせ、見るからにスポーツオンリーな言動を見せている男子高校生は通称『ユージ』。
「へぇ、メーカー物なんか無いと思ってたけれど、そういったのもあるんだね。」
一方、こっちの通称『サオトメ』はライトブルーのシャツにジーパン、爽やかな髪型と笑顔は好青年を印象付けるが、雑学王と呼ばれる事もある程の博識だ。
「あ、ラッキぃ、グローブあんじゃぁーん。俺、格闘技やりたいんだよね。」
ユージがぶら下げてあった格闘用のグローブを手に取り興味津々に見詰めると、早くもそれを手にはめてぶんぶんとシャドーボクシング『もどき』を始める。
「へぇ。いいんじゃない、ユージならきっとすぐ上達すると思うよ。でも、店の中では辞めた方がいいかもね。」
さわやかな笑顔でサオトメは注意するが、
「俺、キックボクシングとかやりてぇーんだよね。」
と、ユージは気にしない。
「いいと思うけど、店内じゃ辞めた方がいいと思うよ。」
あくまでさわやかに、サオトメは苦笑を浮かべる。
「一条とか、こいつでおもっきし殴ったったらスカっとするだろぉなぁー。」
蹴りの真似まで始めながらユージ。
「そうかもね。」
賛成しながらサオトメは一条という名字のクラスメイトを思い出す。
お嬢様で高飛車で他人に対して高圧的なそのクラスメイト。皆から嫌われ、特に自分たちが嫌ってるそのクラスメイト。
情報を仕入れたりする時やその情報を引き出したりする時とはまた違った瞳を、その瞬間サオトメは見せた。しかし、もちろんユージはそれに気付かなかった。
その頃、一キロ程離れた所にある裏道の薄汚れた自動販売機。
かちゃん。かちゃん。・・・かちゃん。
そこではまたまた男子高校生が一人、なかなか受け入れてくれない百円玉を拾い上げては押入れ、また拾いあげては押し入れている。
「くっそ、やっぱはいんねぇーなぁ、ここ。」
ゆっくり、入れてみる。やはりダメ。今度は素早くぱっと入れてみる。やっぱりダメ。
恨めしそうに男子高校生は自販機に飾ってある商品の一つを睨む。コンビニ限定で発売されたその缶コーヒーは、何故か自販機ではこの薄汚れ見捨てられてると誰もが思っているこの自販機でだけ販売されていた。
(あぁー、あのコク、カオリ、深いアジわい!ちきしょぉ、なんでコンビニ限定販売なんだよ!)
悔しさを(もちろん心の中で)思いっきり爆発させているこの男子高校生、彼こそがこの物語りの主人公、長谷川君。通称、『ハセ』。まぁ別の愛称で呼んでる奴もいるが、それはまた物語りが進んだ時に。
いきなりネタバレで申し訳ないが、彼、なんとこの世界の人間では無い。
異世界からある理由でこの世界に飛ばされてきた、『異世界の人間』なのだ。
まぁ彼からしてみれば飛ばされたこの世界こそが『異世界』なワケだが。
ここで簡単に彼のいた世界について軽く説明しておこう。いや、本当に簡単に説明するだけなのでまぁ軽く読み飛ばしておいてくれたらそれで充分。
まず世界観だが、魔法もあれば科学もある。でも、世界的な連携はほとんど取れていない。
つまり、この世界で例えれば各国にそれぞれ飛び抜けた特技があるが、それは主にその国だけに留まっていて世界中には広まっていない、というような感じになる。
日本は刀を使えるとても強い武人ばかり、ロシアは超巨大魔術帝国、一方アメリカでは超最先端科学技術で人工衛星を飛ばしたりしている、でも国連だったりEUだったりといった国家間の連携はほとんどなく、国際的な貿易だったり企業進出とかいったものも珍しい、という雰囲気。
そしてそこに住んでいる人間だが、基本的にはこっちの世界の人間と大差無い。けれども、能力の上限がこっちの世界の人間よりもはるかに高い。
身体能力が優れている人間は鍛えればジャンプで壁を乗り越えたり、水中に数時間潜っていられたり、この世界の伝説『忍者』のような事がリアルに出来たりする。
計算が早い奴はこの世界でスーパーコンピューターでするような演算を暗算ではじいてしまったりする。
まぁそれらは特殊例で一般的な人間はこちらと余り大差は無いしあったとしても少し優れてる程度だ。
彼らはそんな自分たちの能力を磨き上げ、それぞれの国で与えられた環境の中で必死になって生きている。
(あぁー、ダメだ、こりゃ。しゃーねぇ、コンビニまで歩くか。)
などと毒突く長谷川は物語りを考える能力に少し優れていた。物語りと言っても小説だとか落語だとかそういうのでは無く、作戦の事だ。状況を分析し望む結果が出るように作戦を練る。その作戦がかなり有用だったが為に『悪魔の物語り書き』などと敵側からは恐れられていた、が。
「ちっきしょ、だりぃなぁ。」
吐き捨てるように言うと転がっていた空き缶を蹴っ飛ばす。その姿はやさぐれ高校生にしか見えなかった。
「・・・長谷川君。」
と、ここでそんな彼を後ろから見つめる視線が一つ。
黒髪ショートで小柄の可愛い雰囲気の女子高生、通称『ミキモト』。
とびきりの美人ではないけれど不細工でも無い、笑った顔の無邪気さが好印象を振りまく女の子。勉強も平均、運動も平均、でも精一杯今を生きてる、そんな健気な女の子。それがミキモト。
彼女はこの近くに住んでいる為に頻繁に長谷川がこの自動販売機相手に格闘している姿を見ているが。
「・・・いい加減、諦めたらいいのに、その自販機使うの。」
フツーの人間のフツーのツッコミをフツーに入れる。
そう、ミキモトが長谷川を見ているのはたまたまに過ぎない。別に好きだのストーカーだのといったそういう展開では無かった。
かと言って嫌いか、と問われれば、それは違う、と答えざるを得ない。まぁこの辺りの二人の関係も物語りが進んでいく中で語られていくだろう。
さしあたってミキモトの関心はこれから会う二人の女子高生の方にある。
「お待たせ。」
待ち合わせ場所の駅前で小走りにその二人に近寄るとミキモトは声をかける。
「ふん。相変わらず遅いわね、ミキモト。」
長い髪をかき上げながら見下すように言い放つこの女子高生こそがさっきサオトメとユージの会話に出てきた『一条』本人だ。
ゴスロリ、とまではいかないもののそのテイストをあしらった服をスタイルの良い体で着こなす彼女は喋りさえしなければモデルとも思わせられる程の魅力を放つ。
しかし、それを態度が完全にぶち壊している。もっとも、だからこその根強い男性ファンがいるのも事実だが、彼女は彼らの存在そのものを全く意に介さない。
「あ、ミキモトちゃん、そのリボンかわいいぃ~♪」
少し屈むようにしてミキモトの胸元のリボンの飾りを覗き込むのは通称『アンドウ』。太っているワケでは無いが全体的に丸みのあるシルエットとそれを魅せるふわりとした服装はゆるやかな長い髪も手伝って甘いふんわりした雰囲気を醸し出す。
そしてこの喋り方。彼女の場合は喋り方が彼女の魅力をさらに引き立たせているが、完全に男に媚びを売っているようなその態度に好意を持つ者半分、敵意を持つ者半分、といった始末。
「ありがと、お気に入りなんだ、このリボン。」
「庶民は安物でも輝けるから楽でいいわよねぇ。」
「一条ちゃんのその鞄もかわいい~♪」
「あ、ほんとだ、新しいの買ったんだ?」
「お父様からの贈り物ですわ。」
ポジション的に言えばボケ二人、ツッコミ一人。一条?もちろん、彼女はボケポジションに入る。性格はツッコミかもしれないが、もう人生の基準が人から外れ過ぎていて完全にボケ入ってしまっているのだ。
「ボケ入る、って、意味がちがくてよ。」
「え?なんの事?」
「ふん。なんでもなくてよ。」
驚いて聞くミキモトに一条はしれっと答える。アンドウは早くもこれから行くお店に心が移ってしまっている。
「ねぇ、早くいこ、いこ!」
二人の服の裾を掴みアピールするアンドウ。
「そうね、いこっか。」
「行きましょう。」
こうして(学校では浮いている)仲良し三人組はショッピングに向かって歩き出した。
この部分も本編書き上がった後に書きました。アニメみたいに次々とシーンが変わる感じで軽く人物紹介を、と思ったのですが文章力追いつかず。つ、次こそはまともな感じで書くぞ!あと途中の異世界の世界観説明はなんで書いたんでしょうね、当時の僕。書くにしてもただ説明じゃない方法があったと思うが・・・