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ネガイシステム  作者: ぼんべい
二章 女の子のラインは皆違う
11/62

2ー2

 喫茶店に入るといつも通り長谷川は片手を上げてマスターに挨拶をして奥の席に座り、自分はコーヒー、ミキモトにはメロンソーダを頼む。それからミキモトが差し出した手紙を受け取りながら長谷川は聞いた。

 「で。伝言は?」

 「その前にそろそろ教えてくれてもいいんじゃないですか。」

 「何を?」

 「何をしてるんですか。」

 「ワルモノタイジ。」

 「はぐらかさないでください。」

 「じゃー、悪い宇宙人でも撃退してるって言ったら、信じてくれる?」

 手紙に目を通しながら、あながちそれは嘘じゃないな、と長谷川は思う。

 「はぐらかさないでください。」

 そういうミキモトの目は真剣だった。しかし、運ばれてきたメロンソーダを飲んだ顔はただの可愛い女子高生のそれになる。

 そのギャップを長谷川はこっちの世界の人間の二面性だと思っている。ネットのような広範な情報網が基礎設備インフラとして備わっていたり、地域交流のような付き合いが少なからず楽しまれるこの世界では、それに接してきた子供達は子供ながらの素直な感情表現と、溢れる情報を処理する為の一部発達した頭脳を併せ持つ。

 だから、ミキモトがこんな役割を与えられれば勘ぐってくるのは当然と言えた。

 (半分は、好奇心って所、かな。)

 そんな事を思いながら長谷川はミキモトをからかい出す。

 「じゃぁ、ホントの事を話すよ。」

 「はい。」

 「僕達は、異世界から来たんだ。」

 「ホントの事を話してください。」

 (そりゃ、そーなるよな。嘘は言ってないんだけど。)

 「私、わかります。長谷川さんは嘘言ってる時、いつもより早口ですらすら話します。」

 「(ほう、よく観察してやがる。)え、マジで?じゃぁホントの事言ってる時はどうなんだ?」

 「えっと、それは、嘘言ってる時の逆です、ちょっとゆっくりになります。あと、考えてから話します。」

 「(これは後付けっぽいな。)なるほどねぇ。じゃぁ本当の事を言うよ。本当の事は教えられない。」

 「そろそろ、いいんじゃないですか。」

 コーヒーからは湯気が立ち昇る。店内は冷房が緩く効いていて涼しい。こんな時に長谷川はコーヒーを好んだ。向こうの世界ではよく外で起した火にアルミのヤカンを乗っけてお湯を沸かしていた。家での生活ももちろんあったが、外で生活する時間も長かったし最後の三カ月はずっと外に出っぱなしだった。ちゃんと人が手で淹れたコーヒーの苦味は長谷川に向こうの世界での殺伐とした景色を思い出させる。

 そしてこっちの世界に来てから四ヶ月、一条に異世界からの来訪者だと告白されてから三カ月、そしてミキモトに一条からの伝言係を頼んでから二ヶ月。ミキモトの堪忍袋の緒は、果たしてどれくらい長いのだろうか。それが今の長谷川の彼女に対する関心事だった。それから、その緒が切れた時にミキモトはどうするのか、という事。喰ってかかるのだろうか、だとすれば相手は僕?それとも一条?伝言係をボイコットしだすだろうか、そうすれば一条はミキモトにお仕置きをするはずだ。その一条のお仕置きにどう対応する?それとも、独自に調査しだして何かしらの答えを見つけるのだろうか。例えば長谷川が一人暮らしをしている事から長谷川の家庭事情と結びつけた推論を立てたりするだろうか、あるいはある程度真実に近い所まで探り出すのだろうか。

 ミキモトは時折大人のような顔を見せる事がある。このメロンソーダを美味しそうに飲んでいる女子高生では、ただ、てへへと笑って済ますような事でも、その大人の顔の時のミキモトが何を何処まで真剣に考えるかはちょっとわからない。

 「なんです?」

 考え事を楽しみすぎて少し長い時間ミキモトを見詰めていた長谷川に、彼女はちょっと気まずそうに声をかけた。はっとして長谷川は答える。

 「いや、興味深いな、って思ってね。」

 「何がです。」

 「一条におもちゃみたいに扱われても慕ってるし、こうやって伝言係を引き受けてくれてるし、さ。まさかここでの一杯のメロンソーダが目当てなだけって訳じゃ無いだろう?」

 「一条さんは、孤独なんだと思います。ああやって気丈に振る舞ってますけど、本当は繊細な心の持ち主で、それを素直に表に出せないだけなんです。きっと、お金持ちのお嬢様って家柄も影響してるんだと思います。」

 なんかサオトメがそんな境遇の女の子の事をゲームの世界ではなんとかって言う、と教えてくれた事があったな、と長谷川は思い出す。

 「だから、私、一条さんともアンドウさんとも、仲良くしたいんです。だって、孤独って寂しいじゃないですか。」

 「アンドウもなんか性格に問題があるんか?」

 「もう、一条さんも性格に問題があるみたいに言わないでくださいよぉ。それに、アンドウさんにも、それはありません。ただ、アンドウさんはちょっと可愛いモノ好きが過ぎて、ちょっと皆から引かれてるだけです。」

 「(それを性格に問題あるって言うんじゃないのか?)ふーん。でも、さ。なんで孤独にこだわるんだい。別に一条とアンドウの孤独なんかミキモトが気にかける事じゃ無いだろう?」

 この質問はどちらかと言えば長谷川の能力、悪魔の物語書きの影響が大きかった。こうやって核心っぽそうな事を掘り下げていくのが習慣になっていた。当たっても外れても、そこから物語を膨らませる事が出来るし、それが長谷川には楽しかった。

 当然、そんなに親しくない友達に核心的な事を聞けば大半ははぐらかしたり嫌な顔をしたりと否定的な反応をする。それを学んでからは長谷川は質問の相手とタイミングとは多少選ぶようにはなっていたが。

 この状況で相手がミキモトなら別にいいかな、と長谷川は思った。

 「私。」

 ミキモトは話し出した。

 「こっちに越してきたのは中学校の時なんです。で、小学校の時、仲良かった友達が居たんですけど、近所に住んでた幼なじみで、別に性格とか、悪い所は無かったんですよ?それで、その友達のお父さん、そこにあった一流企業の支店で働いてたんですけど、家なんかもおっきくて、凄い人だったんです。」

 店内には低くヴィヴァルディが流れている。ミキモトは続ける。

このお話は第三者視点で書き始めたんですけど、そのデメリットが出た部分です。長谷川視点の内面を表現するのが難しい。このお話は長谷川視点で書いて、所々第三者視点とかにする、ってスタイルの方がよかったかな、と思ってます。ただ世界観の違いのくだりを一介の高校生がするかぁ?と思ったのが長谷川視点にしなかった理由なんですが、考えたら長谷川は一介の高校生では無かったり・・・

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