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ここでは無い世界、今では無い時間の一幕。
「お父さん、どうしてお家を出ていかないといけないの?」
玄関で父親の裾を掴んで子供は尋ねる。
「聞かないでおくれ。」
父親は寂しそうにそう答える。
勢力争いに負けたから。
そういう事は子供にはわからないだろう。
食うか食われるかの世界だから。
そういう事を子供に押し付けるのは過酷だろう。
だから、寂しそうに父親は、ただ、聞かないでおくれ、とだけ答える。
外は雪は降り始めていた。
「わぁ、きれいだよ!」
子供は無邪気にはしゃぐ。確かにまるで天使の羽のようにひらひらと舞う雪は綺麗で見る者の心をときめかせた。
「あぁ、そうだね。」
父親もその美しい光景に心を奪われる。
後ろで、扉が閉まった。
「さぁ、行こうか。」
「うん!」
促す父親に子供は元気良く答え、
そして、雪の祝福の中を歩き出す。
大きな足跡と小さな足跡が玄関から続く。
ややして、子供が父親に聞いた。
「ねぇ、お父さん、願いを叶えるのって、犠牲がいるものなの?」
「ん?どうしたんだい、突然。」
「犠牲があれば、どんな願いでも叶うんだって。犠牲がないと、どんな願いも叶わないんだって。」
「誰がそんな事言ったんだい?」
子供は友達の名前を告げる。
「はは、そうか。どうだろうね。」
父親は一度後ろを振り返る。そこにはもう自分を持ち主とはしなくなった大きな家が物静かに佇みながら屋根に雪を降り積もらせている。家自身は自分が誰の持ち物なのか特に気にしていないように父親には思えた。
「そうかもしれないね。」
そう、父親は答えた。
それからしんしんと降り続く雪の中を二人は歩き続けた。
その雪道を子供は決して忘れる事が無かった。
どうも、セルフコメンタリーのぼんべいです(ぺこり)。こういう入り方は結構好きです。僕は序とかプロローグはいつも作品を書き上げた後に書きます。その方が作品イメージが出来上がってる状態で書けるので、全体の雰囲気を凝縮出きるんですよね。