黒の聖騎士たち
第二章開幕です
ここからは昔書いた話を修正するのではなく、新規で書いていくのでこれからもよろしくお願いします^^
南部
狭間蓮が再び姿を消し、KAEZの部隊が任務を完了したのは世界の北部とされる地域であり、中央よりとは言っても比較的気温が低い。そしてここは南部。南部の中央に領土を持つ国の、とある都市で一人の男が歩いていた。一年中20度を下回ることはない地域で、気温にも関係なくコートを着ている男が歩いている光景は異様であった。
夜の帳が降りた街で、男は息を漏らした。彼の漆黒のコートからは、淡い蒼の紋章が見えている。
『あいつらはどうなった?』
男は自らの顔に刻まれている傷をなぞった。無線機で彼に誰かが問い掛ける。
「狭間君にほとんどやられたからねぇ、当分おとなしくしていてくれるんじゃないかな?容易に脱獄できるところじゃないしね」
男……クロウド・ラルバートは嬉しそうな笑みを浮かべた。人気のない街で彼の足音が響く。
『「孤島の要塞」だからな。それより、狭間蓮は帰ってくるのか?』
「当たり前だろう、洙廉のやつは用心深いからね。今でもまだ探しているだろうよ。狭間君には隠れる場所が必要だ。彼は必ずここに帰ってくる。このフェルナンデスに……」
クロウドはレンガ造りの建物へと入っていく。その内部は、蝋燭で不気味に照らされていた。……そう、ここが『闇の地下世界』への入り口であった。
「クロウドよ、お前に行って欲しい所がある」
地下の路地で、クロウドは老人に声をかけられた。彼は静かなその眼光でクロウドを見つめている。
「任務ですか? ハイスさん。」
ハイスと呼ばれたその老人はコクりと頷いた。その老人からは膨大な魔力、僅かな恐怖が感じられる。
「あぁ、KAEZ北東支部を……潰せ!」
この時はクロウドにも少しの緊張がはしる。鋭く開かれたハイスの眼光に僅かに怯むと、クロウドの思考が冴える。彼はハイスの言うことの真意をを知っていた。
古代兵器復活のシナリオが関わっているのである。古代兵器を復活させるには、オーパーツと呼ばれる三つの秘宝と、七聖覇者の持つ《聖》魔力が必要であった。なぜそれが北東支部を潰すことに関係しているのかというと、世界最大規模の闇ギルド、『フェルナンデス』は古代兵器復活には反対であり、
「北東支部にはオーパーツがある。KAEZとの戦争に見せかけて壊すのだ」
復活させてしまえば、彼らに不利益になるからである。
「200人貸してくだされば……まぁ潰せます」
クロウドは静かに言った。地下の路地に肌寒い風がながれる。彼の実力はギルドでもトップクラスであり、20代前半の若さでありながら幹部の一人まで上り詰めている。
「作成決行は四日後だ」
再び鋭くいい放つと、男は煙のように消えていった。
「やっぱり何年経ってもあの人は怖いな」
再び無線から声が漏れ、無線の向こうの男はケタケタと笑っている。クロウドは地下の路地を東に向かって歩いていた。無線の向こうの男は、ハイスとクロウドが話している間黙っていた。
「闇の世界であの人に勝てるやつはそういないからねぇ。」
クロウドは不気味に微笑み、余裕のある表情と風に揺れる銀髪が闇に映えていた。
「お前なら勝てるんじゃないか?」
その冗談のような問い掛けに、クロウドは真面目に答えた。
「まぁ、勝てるかな。だが今のオレは目立ちたくないんだよ。敵を増やすのは未だ先だ」
闇の世界では、強ければ強いほど配下の者が増えるが、それと同時に敵対心を持つ者も増える。クロウドはこの事を言っていた。
「お前は敵にまわしたくないな。……読めない男だ」
そう言って、無線は切れた。クロウドの瞳に三日月が映る。彼の瞳は……野心に満ちていた。
KAEZに帰還した霧ヶ峰たちは、各々の仕事に戻った。今はもう、ほとんどが重要な役職についている。
「望月雄塀 准将、北東支部へ出張です」
一足先に帰還していた雄塀は、部下から出張を言い渡されていた。
「………北東支部かぁ、面倒くさいよ」
雄塀がだるそうに目を閉じると、部下は慣れているのか、いろいろな資料を渡す。
「偵察部隊が掴んだ情報によりますと、クロウド・ラルバートが何やら周辺で暗躍しているとのことです」
「へぇ、あいつが………」
雄塀はクロウド・ラルバートの名を聞くと、嬉しそうに笑みを浮かべる。しかしまだ面倒くさそうな感じは残しており、再び部下に訊きなおす。
「それをオレに調べろと……?」
「ええ、今の北東支部は戦力を出してはいけない状況らしく」
雄塀の表情がよりいっそう変わった。それは簡単に言えば仕事モード。詳しく言えば敵を殺す際の目。真の正義は、悪よりも殺しているものだ。
「……わかった。詳細はあとで送ってくれ」
雄塀はそそくさと去っていく。何か用事があるみたいだ。
†
ラヴェール王国を一足早く後にした蓮は、無言で固い斜面を登っていた。その山には勿論灯りなどなく暗闇であり、山奥の生い茂った森林の中で、狭間蓮は黙々と足を進めていた。
『……しかし、良いところにアジトを構えたな。ここなら双方どちらとも距離をとれている』
バンスが蓮の頭の中でささやく。僅かにかすれたその声は実に今の雰囲気にあっていた。彼は常に蓮の心に存在しており、蓮の魔法『斉天大聖』の化身である。
「急に話しかけるな。ビックリするだろう」
蓮は落ち着いた口調で呟いた。そんな会話を続けていると、山奥にひっそりとそびえる小屋が見えてきた。木で造られている小屋は闇に溶け込んでいて、目を凝らさなければわからない。蓮は小屋のドアノブに手をかけ入っていく。
小屋の中に入ると、一組の男女が椅子に腰かけていて、暖炉で暖まっていた。男のほうは茶髪に長身、しかし20は過ぎていなさそうだ。そしてフレームの細いメガネを掛けている。女のほうは気が強そうなブロンドの少女で、入ってきた蓮を見るなり機嫌が良くなっている。
「蓮、やっと来たわね。どう? 上手く追っ手を撒けた?」
金髪の少女、エリシアはその肩までの髪を揺らし、蓮の方を見た。キラキラと輝くように揺れるその髪に一瞬蓮の目がいったが、彼は静かに答えた。
「あぁ。大丈夫だ。洙廉の監視網は抜けた」
蓮はこの四年間、同じ七聖覇者にして、闇の三大ギルドの一つ、『フェルナンデス』の幹部、クロウド・ラルバートと行動を共にし、彼から七聖覇者の力の使い方を学ぶと、彼のもとを離れ、仲間を集める旅に出ていた。
彼の目的に賛同し、ともに闘う決意をしてくれたのがこの二人、エリシアと茶髪の長身の青年、グランである。二人はKAEZにも闇ギルドにも所属していないが、フリーの魔戦士(魔法を使える者は一般的に戦わない者でも魔戦士と呼ぶ)として暮らしていたところを蓮に誘われ仲間になった。
「この山岳地帯ならKAEZの追手も、闇ギルドの連中も探知することはできないよ。なんでも、森林の神とやらが結界をはっているそうだよ。僕は信じないが」
グランは仕入れた情報を蓮に伝えた。このあたりの山岳地帯には古くからの伝承があり、その伝承は─────この辺りに掛けられている『魔術禁止結界』は神の聖なる保護である。 などと言った内容である。
「なるべく気づかれるのは遅いほうがいいからな。そして、そろそろ動き出さないといけない。闇ギルドの動きが活発化している」
「それならあたしも知っているわ。一年前くらいには闇ギルドに潜入してたもの。戦争が起きるのかもね」
エリシアはその軽い身のこなしを武器とし、様々な機関に潜入し情報を奪い去っていく「潜入スパイ」の仕事をしていた。その腕は同業者には少し有名である。
「聖と闇との戦争か、それとも闇の中の派遣争いか……」
グランが呟いた。窓の外の深い闇は、世界の緊張感を象徴していた。今はどの機関もピリピリしている。かつてないほどの何かが起こりだすような気がしてならないのだ。
「俺たち、三人組ギルド『黒の聖騎士』も後に来る戦乱の渦に身をとじていかなければならなくなる。覚悟しておけよ」
彼らはギルドを結成していた。誰もが予感している「後に来る戦乱」で目的を果たすために。三人の目的は不明だが、ギルドの名、libertasは、「自由」という意味であった。