炎王と終焉の狼
「お前何を……!?」
何が起きているのか、リークは理解できないでいる。
リークと戦闘中のクロウド。
殺されたグリフォード。
犯人は明白だ。
ぼんやりとリークはフォルスを見つめた。まるで空間が歪むように、フォルスの身体は蠢いている。彼は一言も発することなく、黒い靄のように消えていく。
「幻影魔法……!!」
「フォルスとやらは俺の幻影の幻影。いわゆる変わり身さ」
クロウドも漂うように揺らめいている。彼の魔法によってか、幻影の時間制限によってなのか。
―――狙いは総帥の暗殺か…!!
「指揮官を失った支部はどうなるかな? これは勝手な推測だけど、俺は容易く落ちると思うね」
白き扉が切り崩され、先が見えない暗がりの奥から、ゆっくりとクロウドは現れる。
………本物の。
幻影のクロウドは吸い込まれるように本物に被さる。
「第二回戦といこうか。皇剣の戦士よ!」
リークの背筋に寒気が走る。先ほどとは比べ物にならない殺気が感じられたからだ。それも、普通のものではない。例えるなら、幼い子供が虫をいじめているような、無邪気で残忍な殺気。
リークが剣を構えたその時、窓に二つの影が忍び寄った。
「………待てよ、俺と殺ろうぜ、クロウド・ラルバート…!!」
ガラスが飛散する音と同時に、声が被さる。現れたのは二人の男。クロウドの眉間にしわが寄る。再び彼の周囲に漆黒の霧が立ち込め、彼の七聖覇者を発動させた。
霧に潜む狼牙
獄夜興聖
本能の興ずるままに発動する詳細不明な魔法。
「……ッ! クラウン・ド・ダーツ………!! 」
外部から現れたのは、クラウン・ド・ダーツと望月雄塀のコンビであった。
クラウンは嬉しそうな笑みを浮かべ、話し出す。
「……誤算だったな。
お前は、俺たちがお前たちを殲滅するために支部を出るのを待っていた。
お前の狙い通りに俺たちは外へ出た。だが、お前はこの望月雄塀の力を知らないんだな」
途中で区切り、クラウンは雄塀の肩を叩く。雄塀は、紫の瞳でクロウド・ラルバートを見つめていた。
「こいつの魔法は精霊の魔法だ。………知らせてくれるんだとよ、邪気を。
距離があったもんで時間はかかったがな」
「お前は魔力探知を警戒していたみたいだが、俺の精霊は別物だ」
「ダーツさん、俺に任せてくれませんか?」
どこからともなく紫に輝く小太刀を出現させ、雄塀は戦闘モードになっている。
ズバァァンッ と、小太刀を凪ぎ払い、建物の一角が吹き飛ぶ。
「悪いなクロウド。久しぶりに全開でいかせてもらう。何故だか妙に高ぶってな」
「自分の発言には気を付けておくことだね。俺は君に勝たせてやるつもりはない」
雄塀は小太刀を後ろに引き下げ、魔力を高める。心の中で念じ、精霊をその身に召喚する。
《銀風の鷲スヴァール》
雄塀は目映い銀の風を、自身の周囲に吹かせ、クロウドに接近する。
銀の風は霧に紛れたクロウドを霧ごと切り裂くように、鋭い針となっている。
「こんな小細工が通じるとでも?」
クロウドの腕についた牙が、青い光を光らせ、迎え撃つ。銀の風の針を凪ぎ払い、獲物に飛びかかるように攻撃した。
「はああぁぁ!!!」
雄塀は小太刀の剣先を突き出すように振るい、クロウドを切り裂いた。
牙で受け止めたが、クロウドの右肩に剣先が刺し込む。
クロウドは痛みにも動じず、血飛沫を省みず直進していく。その間合いはゼロ距離。
「月影!!」
青い光を雄塀に打ち込んでいく。打撃とも銃撃とも思われるその攻撃を雄塀は喰らい後方に引き下がる。
漆黒の闇と青い光のコントラストが見るものを圧倒する。青き光は、相手の力を奪う特殊な能力をもっていた。
相手の、“空間認識力”を低下させる。
獄夜興聖の能力は、霧状となって周囲に紛れる能力と、青き光により空間認識力を奪う能力の二種類がある。
青き光の能力により、空間認識力が低下した相手は、ますます霧となったクロウドを見つけることができなくなる。
非常に厄介な能力であった。
体勢をたて直し、雄塀は小太刀を構える。あまりダメージは喰らっていないようだが、言い様のない疲労感がもう襲っている。
神経を研ぎ澄まし、再び霧となったクロウドを探す。隙を見せないように慎重に。
それと並行して、雄塀は新たなる精霊を自身の身に召喚した。
精霊による、全身武装。
《炎王プロミネンス》
先ほどとは比べ物にならない強さをもつ上位精霊を召喚した。
《王》クラスの精霊となると、精霊の力を少し借りるだけではなく、精霊そのものを武器防具へ変身させ武装する《全身武装》が扱える。
だが、召喚、武装した精霊が強力であればあるほど雄塀への負担が大きく、長時間発動は困難である。
「……全身武装! 」
激しい熱気が、雄塀を包み込む。渦巻く炎熱の台風が、雄塀をコーティングするように。
「おいおい、本当に本気じゃないか」
風が取り払われ、姿を現した雄塀の姿は変わっていた。全身を炎を象った赤と金の鎧に包み、右手に握っていた小太刀は、やはり炎を象った赤い太刀に変わっていた。
その風貌はまさしく炎王の名に相応しい。
「ハアァァァ!!!!」
炎熱の刃が、クロウド向けられて放たれる。
燃え盛る火炎を宿し、空を切る形で振るわれた雄塀の太刀からは、赤い剣撃が放たれた。
クロウドはこれを左腕の牙で受け止め、右腕から青い光を放出させ、カウンターを放つ。クロウドの表情にはもはや余裕はなく、感情剥き出しといった感じで瞳孔が開いている。
「フンッ!」
青い光のカウンターは炎王の鎧には通用しなかった。ガチッと鈍い音がすると、青い光は光力を失い消えていく。
雄塀は受け止められた太刀を横に振るい、つられて凪ぎ払われ隙ができたクロウドの胴に、激しく一閃。
業火の爆発とともに、クロウドは後方に吹き飛ぶ。
「がはっ!」
雄塀は追撃の手を緩めない。素早く構え直すと、縦に太刀を振るう。剣先が空気との摩擦で発火し、灼熱が太刀全体を包み込む。
「獄夜形態“終焉”」
自らに放たれる太刀を気に求めず、クロウドは静かに呟いた。
これは、蓮が使用したのと同じ、《疑似覚醒形態》。
自らの魔法と、七聖覇者の魔法を融合させ、ただひとつの魔法を生み出す。
「七聖覇者が、負けるはずがない」
禍々しいオーラを周囲に放つクロウド。獄夜興聖の真の力が解き放たれた瞬間であった。
最近KAEZを書く調子がいいです。
この調子が続けばいいんですがねぇ笑
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