皇の剣と銀の影
久しぶりの更新です^^
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「よぉ! 誰かと思えば、雄塀じゃねぇか。久しいな」
気さくに話しかけてきたのはこの部屋の所有者、クラウン・ド・ダーツである。ここは《特殊班》のフロアの端に位置する《特別任務会議室》なる部屋だ。
クラウンの当たる任務はどれも特殊な任務なので、彼に所有権が与えられていて、彼の仕事場になっている。
「いつ以来だったかな。……まぁさておき、今回は俺ら二人だけの任務だ。なかなか厳しい戦いになりそうだぞ」
がっしりとした腕を組み、ダーツは言った。雄塀は曖昧な笑みを浮かべ、手近な椅子に腰かけた。
「厳しい戦い? あなたがいるのに?」
「はっ、そこまで俺を頼りにされても困る。俺にだって厳しい戦いはあるさ」
そう言うと彼は陽気に笑った。
「ところで、敵についての詳しい情報は?」
実のところ、雄塀はこれを聞きにここまで出向いたのだが、ダーツの陽気な乗りに邪魔されて忘れていた。
「あぁ! 言うのを忘れていたな、すまない。
……どうやらこの北東の地にやつらのアジトがあるみたいなんだ。やつらはそこを拠点に明後日の夜攻めてくる。
その数約100以上。俺たちはやつらの作戦決行の前に殲滅させる…!!」
ぞくりと雄塀は仰け反る。殲滅という言葉の響きが雄塀を興奮させた。彼は戦いの前はいつもぞくぞくと心が高鳴っていた。
「頼りにしてるぞ、望月雄塀!」
バシリッ と雄塀の背中を叩き、ダーツは用があるらしく何処かへ行った。
「ホントにあの人が最強か…!?」
雄塀は内心思ったことがそのまま口に出たようだ。
頭をポリポリ掻くと彼も《特別任務会議室》を後にした。
「あれが、西南の望月雄塀ですか」
雄塀が去った直後の総帥室で、皇剣に所属する若い男が呟いた。
常に剣に手をかけ、表情をまったく変えずに。
「あぁ。なかなかの手練れだろう? 我が支部に欲しいくらいだよ」
フフフと微笑みながら、グリフォードは皇剣の横顔をチラリと見る。凛々しい顔立ちにも関わらず、生きていないような無表情。
―――これ程の教育を……。教え込んだ者は正気ではないな。
グリフォードが皇剣を凝視していると、微かに魚籠ついた。何かに反応したように、警戒の目付きに変わる。
「総帥、敵の反応があります。扉の向こうに。数は1人。御気をつけ下さい」
グリフォードは顔色を悪くせず、白き扉を見つめた。
警戒を知らせたのは若く、黒髪の細身の皇剣で、もう1人の如何にも屈強、筋骨隆々とした方は眉すら動かさない。
「君の名は……?」
今まで名を語らなかった彼は、剣を構え、答えた。
「………R,qと申します」
明かされたのはコードネームだったが、奇妙な信頼感が生まれたのは確かだ。
リークは、右手に握る幅広の大剣を大きく振りかぶると、コンパクトなモーションで縦に振り、白き扉を躊躇なく切り崩した。
「姿を見せろ。お前に逃げ場は無い」
静かに開く白き扉から、圧し殺したような笑い声が聞こえてきた。残忍さと無邪気さを合わせたような微笑。クロウド・ラルバートが現れた。
「これはこれは皇剣様。随分上から物を言うね。そう教えられてきたのかな」
銀色の髪を少し弄り、彼は淡々と話す。
「予定より少し早いな、クロウドよ」
グリフォードが静かに言う。
「下見ですよ、総帥様。 それにしても皇剣まで雇うとは。なかなか厳重だ。だけれど、命の危機は一応感じたほうがいいですよ? 余計なお世話か」
グリフォードの背筋に緊張が走るのを見越したように、クロウドは嘲笑った。 話し方を統一しないクロウドからは、何処か余裕を感じられる。目の前に対峙するのは世界最高峰の防衛機関の戦士であるのに。
刹那、室内に緑色の閃光が散る。リークの構えた幅広の大剣が、クロウド目掛けて振り下ろされたのだ。
「危ない危ない。刃物の扱いには気を付けな」
かわしたクロウドからは間一髪なのか、余裕なのかも感じ取れない。
―――先制攻撃をかわされた…!!
あくまで表情を変えずに、リークは大剣の剣先をクロウドに向ける。
―――焦っているな。今の状態だとまともに殺り合えば負けるが……。
この緊張感漂う総帥室には、クロウド・ラルバート本体はいない。
俗に言う、《変わり身》とやらをこの場にとどめているのだ。
彼は言った。下見ですよ と。
始まりは、数時間前に遡る。
二度目の剣激をリークが放つ数時間前へと…………。