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彼女は勇者に向いてない!!  作者: white
旅立ち~エルリエール王国編
4/33

第一話 国王様の呼び出し

本編スタートです。


作中に使われている長さの単位は、基本的に古代ローマの物を使っております。


一リーグ=五〇〇〇キュビット(=二二二〇メートル)

一パーチ=六キュビット(=およそ三メートル)

一キュビット=肘から伸ばした指先まで(=およそ四五センチ)

一ディジット=人差し指の幅


所謂、身体測って奴ですね。

 エルリエール王国の首都、エルリア。

 円形の闘技場(コロッセオ)に例えられる都市の中心、かつて王家の冬の居城の一つだったこのエルリア城が正式に国家の中枢になってから、まだ二〇年程しか経っていない。


 その中の一室。

 全面総石造りで、窓が無いために昼間でも暗い。

 部屋の広さは、三パーチ四方といったところだろう。


 この部屋の主が華美な装飾を嫌うために、置かれている物は驚くほどに少ない。

 部屋の最奥に、執務用の大きな机と主用の椅子。

 その手前、部屋の中央には、ひざ丈ほどの机と、三人掛けのソファーが二つ対面に置かれている。

 部屋の四隅には、光源として燭台が一脚づつ。

 この部屋にあるのはそれだけだ。


 この部屋は、王のごく親しい一部の者たちと“内緒話”をするための部屋であるから、必要以上に飾る必要がない……という理由もある。


 そんな、今までにごく限られた人間しか訪れた事のない部屋に、二人の少年が言葉を交わすでもなく、佇んでいる。


 一人は最奥の椅子に座り、微笑んで。

 一人は入口直ぐの床に跪き、頭を垂れて。


 それを見守るように、二人の男が向かい合わせでソファーに座っている。




 椅子に座る少年――

 名をリチャード・エミリオ・レオポルド・エルリエール。


 世に『若年王』と呼ばれる、若干十七才の若き王、リチャード三世である。

 エルリエール王家の血筋を色濃く受け継いだ、燃えるような紅色の髪と、色素の薄いエメラルドグリーンの瞳。肩よりも先に伸ばし、後ろで一本に纏められた髪も相まって、中性的な香りの漂う美少年である。

 病的ではない白い肌と、王らしからぬ優しげな微笑みは、社交界の淑女たちに大変な人気と聞く。

 エルリエール王家の象徴である、青い生地で仕立てられた、部屋と比べるとやや装飾過多な、一般的な王族の衣装からすると質素すぎる服装で、ピンとした姿勢のままもう一人の少年を見つめている。




 床に跪く少年――

 名をリチャード・ケント。


 奇しくも現王と同名にして同い年の、ただの平民の少年である。

 エルリエール王国民純血統の象徴でもある金色(ブロンド)の髪に青い瞳。最近伸びてきたかな?と感じる髪に隠れがちな切れ長の瞳は――例え本人にそのつもりは無くとも――他人を威圧しているように見えてしまう。

 元々の白い肌からすると、少し日に焼けた健康的な肌色と、整ってはいるが表情の変化に乏しい顔を見て、好意よりも畏怖の念を抱く人が多いと聞く。

 労働者の好む、暗い灰色に染められた麻の上下。平民の名に恥じない、装飾の欠片もない、実務重視の服装でジッと床を見つめたまま動かない。




「……………………」

「……………………」


 二人の少年は、どちらも口を開かない。

 椅子に座る少年は、ニコニコと微笑みながら。

 床に跪く少年は、無表情で俯き、目を伏せて。


「――陛下」

 堪りかねたかのように、王から見て右側のソファーに座った老人が声をかける。

 口周りの髭と、十分に生え揃った髪。そのどちらもが床に達するほど長く伸び、艶のある白さを保っている。

 王と対照的に病的なまでに白い肌と、表情のない顔には深いしわが年輪のように刻まれている。

 魔法職官僚の証でもある白いローブに、三キュビットもある木製の杖を抱いている。




 その老人――

 名をチャールズ・ベルゼッフォ。


 先々代国王――現国王の祖父である――の治世から国政に携わり、現国王の政における教育係も務めた、自他ともに認める一番の重臣である。噂では、先々代の治世から容姿が変わっていないとも言われているが、真偽のほどは定かではない。

 若干十四才で即位したリチャード三世が、今日まで大きな混乱もなく国内を収めて来れたのも、彼が陰に日向に支えてきたからだ。

 現在は、宰相兼魔法省外部委員を担っている。




「……まずは、余の求めに応じ、この場に足を運んでくれたこと感謝する。リチャード・ケント」

「勿体なきお言葉、感激の極みにございます」


 チャールズ翁に促され、言葉を紡ぎ始める。が、どこかたどたどしい。

 そもそも、“一国の王”が“自国の平民の少年”に対し、『感謝する』こと自体が可笑しな話なのだが、ここにいる誰も、注意どころか驚きもしない。


「――あぁ~……最近どうだ?」

 最近子供との付き合い方に悩んでいる父親……みたいな聞き方である。

 これにはチャールズ翁も、対面に座っているもう一人の男――レジアス・ダンパー近衛隊副隊長も絶句している。




 レジアス・ダンパー。

 類稀なる戦闘技術と、戦場で見せる抜群の閃きから、平民出にして初めて近衛隊三役(隊長、副隊長、隊長補)の一角に付いた人物である。

 三〇の後半に差し掛かるも、その肉体は衰えを知らず、体の各部の筋肉は大きく張りだし、短く刈りそろえられた連峰以東諸国由来の黒髪に黒い眼と日に焼けた浅黒い肌は、現場の女性兵士たちの密かな憧れの的でもある。

 にも拘らずいまだに独身なのは、戦場以外ではまるで役に立たない脳筋っぷりと、実害しかもたらさない類のイイカゲンさにあるのではないだろうか。


 萌黄色の装飾の少ない略式軍服を着用し腕を組んでいる。いつも背負っている、何を斬るために作られたか分からないほど巨大な剣は、この部屋には持ってきていないようだ。




「「……陛下」」

 同時に口を開いた二人の大人は、明らかに呆れと非難をその短い単語に乗せていた。

 双方とも、半眼で自らの若き主を見つめている。


 片や自身の初期教育役を務め、今も頭の上がらない王国の参謀。

 片や王家の懐刀にして、自身の幼少期の護衛役でもあった王国随一の剣士。

 その二人から発せられる無言の圧力には、君主としてそれなりの外交の経験を積んできた若き王も、少なくない冷や汗をかかされることになった。


「陛下」

 すると、それまで自発的に発言することのなかった、“平民のリチャード”が口を開いた。


「恐れながら、申し上げたい事が御座います」

「良い。申してみよ」


 自分の部下たちから寄せられる視線に、そろそろ耐えられなくなっていた君主が、その言葉にすがりつく。


 すると平民のリチャードは、顔を上げ、視線をまっすぐ王に向け、無表情のまま告げた。




「さっさと要件を話せ、エミリオ」

「――はい、兄さん(・・・)




 後に残ったのは、力尽きたように机に倒れこんだ少年王と、初めからほとんど変わらない姿勢で床に跪く少年だった。




 この二人の関係、それを繋いでいるのは、双方の母親である。


 エミリオと呼ばれた少年――リチャード・エミリオ・レオポルド・エルリエールは、エルリエール王国第二王子として先王ガイセリック一世とマリア正妃の間に生まれた。

 ところが、マリア正妃は出産直後に体調を崩し、そのまま亡くなってしまう。

 父でもあるガイセリック陛下は酷く心を痛めたものの、リチャード王子に対する態度は大きく変わることは無かった。


 ただ、王国の貴族達や城に使える者たちが抱く印象は、そうではなかったらしい。

 各方面からの人気があったマリア正妃の命と引き換えに生まれたとして、生後間もない王子は「呪われている」と噂された。

 近年では珍しくなった――王子以外では四世代以上遡る必要がある――エルリエール王家の証でもある紅い髪もまた、その噂に拍車を掛けることになってしまった。

 また、第一王子でもある五歳年上のアルバート殿下は、幼くも祖父である前国王を彷彿とさせる、ある種の威圧感を持ち合わせており、次代の名君として既に認知されていた。


 それらの理由から、乳母に名乗りを上げるものがいなかったのだ。


 とは言っても、王族の幼子相手にそれは如何なものか……と考えていたチャールズ翁が見つけてきたのが、元男爵家の長女で、見事平民に都落ちしていたミリアム・ケントだった。


 彼女は、避暑地に向かう際の護衛として、数日行動を共にした平民の冒険者に一目惚れし、両親と大喧嘩の末に家を飛び出し、八割方固まっていた伯爵家との縁談を反故にした挙句、半ば無理やりその冒険者のもとに転がり込んで結婚した、という、作り話にしても酷すぎる人生を歩んだ人物である。


 奇しくも彼女が二か月早く生んだ子供が、殿下と同じリチャードと名付けられていたのだった。

 当然、そこまで派手な事件(?)を起こしたのだ。

 その一部始終は国民の多くが知ることとなり――往々にして、庶民は権力者階級のゴシップに目がない――その噂はチャールズ翁の元にも届いていた。


 話の内容からミリアム個人に興味が向いた事もあるが、彼女の実家が元々チャールズ翁と懇意の間柄にあった事もあり、彼女に白羽の矢が立ったのだった。


 こうして、同じ名前を持つ王子と平民の子は、“乳兄弟”となったわけである。

 以来、交流は時々ではあるが続けられ、二人のリチャードは互いに、平民の子は二か月ではあるが先に生まれていたこともあり『兄さん』と、王子殿下は洗礼名で『エミリオ』と呼び合うようになっていた。


 エミリオ少年は、第一王子でもある実の兄が、優秀な為政者の片鱗をすでに開花させていることもあり、あまり期待されていなかった。

 平民のリチャード少年は、自分の両親のこともあり、身分意識の極めて薄い少年であった。

 そのことが、二人の少年の心を繋いだといえるだろう。


 王となった今でも……むしろ目上の相手がほとんどいなくなった今だからこそ、『兄さん』と呼べる相手は貴重で、かけがえのない存在だ。

 『若年王リチャード三世』ではなく、一人の“エミリオ”という少年として彼を扱ってくれるのは、もうこの少年しかいなくなってしまったのだから。




「……ふぅ」

 今は『リチャード三世』と呼ばれる少年は、一つ長めに息を吐き、気持ちを落ち着かせる。


 瞬き程の時間の沈黙の後。

 床に跪いた少年に向けられた視線は、本来の落ち着きを取り戻していた。


「では、早速だが本題に入らせてもらおう」

 沈黙を破って若き王が告げる。




「――“魔王”が復活するそうだ」

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