プロローグ
初めての方は、初めまして。
少ないでしょうが、『虹の花~』を読んで下さった方は、お久しぶりです。
whiteと申します。
第二作目。連載としては実質初作品でして、おそらく亀進行になるかとは思いますが、よろしくお願いいたします。
初めてみる景色。
心を奪われるというのは、きっとこういうことを言うのだろう。
その少年は、一人、ただ目の前の風景を見つめ、立ち尽くしている。
頬を撫でる風は、優しい初夏の匂いがする。朝露に濡れた若草の匂いだ。
まだ辺りは薄暗く、雲一つない藍色の夜空には星が瞬いている。
ようやく白み始めた空に映った山の稜線は、遥か遠くに見える。
広い、見渡す限りの草原。何リーグ先まで見渡せるだろうか。
そのところどころに低い木が群生している。その部分だけが小さな丘のように見える。
彼らのこれからたどる道筋の、その長い長い旅路の、その最初の一歩は最大級の幸運に恵まれた。
この時期でも雪の残る山脈の頂でもなく、身を焦がす灼熱の砂漠でもない。
どこまでも穏やかで、どこまでも静かで。
まだ明け切らない空の『紺』と、朝日を浴びる草原の『碧』が支配する世界。
固く胸に刻んだ使命感も……。
その双肩にかかる重責も……。
その他諸々の俗世的な感情も……。
すべて洗い流してしまう様な、そんな風景。
しばし夢見心地のまま呆けていた少年も、ようやく覚醒したようだ。
弾かれたように周囲を見渡す。
やがて少年は、その視界の片隅に、目標の人物を見つける。
艶やかな長い黒髪に、今は瞼に覆われている栗色の瞳。
雪のように白い肌と、桜色の薄い唇。
年不相応に凹凸の乏しい体。
少年よりも、頭二つは小さい小柄な体躯の少女。
名をクロエ・スルール――
――現在確認されている、唯一の“勇者の血族”だ。
さて、この物語を語り始める前に、一つお詫びをしておかなければならない。
この物語は、ただの、どこにでもあるような旅行記になるだろう。
それはきっと、刺激的でも、喜劇的でも、悲劇的でもない。
未知の世界、前人未到の秘境を目指す――。
そんな冒険譚には、決してなり得ない。
悪逆非道の魔王を倒し、無辜の民と世界を救う――。
そんな英雄譚も、彼らでは全くもって役者不足だろう。
なぜなら、この物語は
“魔王”を倒した後、“勇者”の少女とその“従者”の少年が、家に帰るまでの物語なのだから――




