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彼女は勇者に向いてない!!  作者: white
不死の研究~モラレス村編
17/33

第五話 モラレス村にて

第二章はバトル展開多めです。

それをどこまで描き切れるかは、作者の手に掛かっている!!


が、頑張ります

「――てことは何?遺跡の変な罠に引っかかって、気付いたら西の平原に居たってこと?」

「そうだ」


 嘘が多分に含まれる説明である。

 しかし、完全に真っ赤な嘘かと言われれば、否定も肯定もし辛いところではある。

 遺跡の変な罠――の部分を、別の言葉で言い換えれば、事実そのままなのだから。


「俄かには信じ難いけど……」


 エリスが気にしているのは、話の真偽ではない。


「まず、遺跡の罠ってどこもそんな高度な魔法トラップなの?」


 魔法文化が根付いてかなりの時間は経過しているが、所謂『転移系』の魔法は、少なくとも人の手では実現していない。

 先史文明の未踏破遺跡などで時折見つかるくらいで、それも、同じ遺跡内が範囲になっていることが殆どだ。

 一般人には、離れた場所に一瞬で移動できる転移系魔法自体が馴染みのないものであり、それが、見たことも聞いたこともない場所に転移するなんて事態は、専門の学者でも信じられない物だろう。


 とはいえ、魔王だの勇者だのの話は、二五〇〇年以上昔のお伽話として広まっている為、今ここでクロエの正体やら起こった本当の出来事やらを話しても、理解されない可能性の方が高い。




「それに関しては何とも……。あれが初見の罠である可能性もあるから。取り敢えず、俺たちは怪しいものじゃない、と言っても信用するのは難しいとは思う。この村に教会は無いか?そっちに保護してもらおうと思うんだが」

「ゴメン。無いんだよね、教会」

「マジか……」


 教会は大抵どこにでも小さな出張所くらいはある、全世界規模の組織だ。

 役割としては、“洗礼”を与えたり、病人や怪我人を癒したり、だ。


「怪我や病気はどうしてたんだ?」

「基本的には薬草……かな。教会のある村までは、馬車で三日かかるし」


 取り敢えず寝るところを探さないとな、とリチャードは考える。


「そういえば、盗賊だの山賊だのと言われたが、あれは?」

 うぐっ、と言葉に詰まり、気まずそうな顔で目を逸らすエリス。

「あぁ、責めている訳じゃない。ただ、何かあったのかと思ってな」


「はぁ……。まぁ、結果的に迷惑かけたのはこっちだしね。二週前ぐらいからかな。この辺に盗賊がやってきてね、誰も居ないのをいいことに、荒らしだしたのよ。来るたびに追っ払ってはいるんだけど、しつこくて……」

 そう言って、また溜息を吐く。


「追っ払うって……。相手は一人か二人なのか?」

「まさか。ここより西はハクギンオオカミの縄張りだし、時々川熊も来たりするから、ただの盗賊なら寄り付いたりしないよ。三〇人ぐらいかな、最初は」

 討伐隊が組まれる規模だ。

 話を聞いたリチャードは唖然として訊ねた。


「その人数を、一人で?」

「まあね。お父さん帰ってこないし、放っとく訳にもいかないし」

「危ない目には遭わなかったのか?」

「どうかな。最初は鍬とか色々振り回しても当たんなくて、囲まれて押さえつけられたりしたけど……」


 思いがけず少女が負ったであろう心の傷に触れてしまったことを、リチャードは咄嗟に謝ろうとした。

 が、エリスはその言葉を待たずに、話を続ける。


「掴まれた腕ごと振り回せば、当たるとか当たらないとか関係なくなったよ」

 リチャードは、少女が負わせたであろう心の傷の方が深かったな、と思い直した。


「その細腕で、大の男を?」

「私、昔から力は強かったから。地下(した)の倉庫の整理とかも任されてたし、猟で捕ってきた獣の解体とかも、ね」


 背格好も自分と然程変わらず、手足はむしろ華奢に見える。

 しかしながら、彼女の力は自分もよく知っている物だと思い直した。


「で、盗賊どもを追い払っているうちに、段々武器の扱いに慣れてきてさ。今ならだれにも負けない自信があるね!」


 グッと胸を張り、笑顔を見せる。

 そこそこの成長を遂げた、形のいい乳房がポヨンと揺れるが、リチャ-ドは気にしない。

 そんなことでいちいち反応していては、王都のあの家では暮らしていけない。

 極力気にしないようにして、目を逸らす。


「盗賊はまだ来てるのか?」

「ん~……。頻度は落ちてきてると思う。私とやりあって怪我してる連中も多いはずだから」

「だが、退きはしないだろうな」

「どして?」


「三〇人以上の盗賊団ともなれば、首領はいるはずだ。いくら怪力とはいえ、小娘一人に良い様にやられて退き下がってたんじゃ、頭の面子が立たない。エリスを殺すか、あるいはそれ以上の収穫でもない限り、諦めることはできないだろう」


「怪力って酷くない?これでも乙女だよ、私……。それに、面子より実益を優先するんじゃないの?普通はさ」


「組織の長ってのは、どこも面子が大事なのさ。国だろうが無法者だろうが、人を纏めるのには力がいるからな。下に舐められれば、命令は聞かなくなるし、自分の身も危なくなる。庶民には関わり合いのない話ではあるがな」


 エリスは、へぇ~、などと頷いているが、いまいち分かっていないようである。

 彼女の集落の様に、ごく小規模で集落全体が家族のような繋がりを持っている集団には、強力な主導者(リーダー)は必要とされないので、理屈としては理解できても、ピンと来ることは無い。




「……う、ぅん」


 床からうめき声が聞こえ、二人が視線を向けると、もぞもぞと動く気配があった。

 まるで物言わぬ人形に魂が宿るように、大きな瞳をゆっくりと開く様子に、エリスは目を、心を奪われた。

 上体を起こして徐々に覚醒していく様子を、ジッと見つめてしまっていた。


「……ん?…………あ」

 クロエが、見慣れない景色に周りを見回すと、エリスと目があった。


「~~~~~~~~~ッ!!」

 その瞬間クロエは、可聴域外の悲鳴を上げ、リチャードの背後にしがみつくように隠れる。

 その頬と言わず耳や首筋まで朱に染めて。


「え!?なに?私何かした!?」


 椅子に腰かけるリチャードに隠れてしまって、長い黒髪と少年の脇腹を掴む細い指しか見ることができない。


「……いや、済まない。彼女は人見知りでね」

「人見知りってレベルじゃない気もするんだけど……」


 互いに苦笑を洩らす。

 エリスはなるべく優しく聞こえる様に気を付けて話しかけた。


「私はエリス。聞いたところ、貴女と同じ歳みたいね。同年代の女の子ってこの村にいなかったから仲良くしてほしいな」


 しかしクロエはリチャードの脇から覗くように見てくるだけで、言葉を発しようとしない。

 エリスはなるべく目を見ようとするのだが、目が合うと少年の背中に顔を押し付ける様に隠れてしまうので、最初以来目を合わせてもらっていない。


「……うーん。誰にでもこんな感じなの?私だけってことは無いよね?」

 村唯一の商店の看板娘だった自信は、目の前にいる黒髪の少女の反応によって、すっかり折られてしまっていた。

 眉は力なく下がり、瞳は若干潤んでいる。


「基本的には人と接触しないんだよ。誰か見知らぬ人に会うときは俺や家族が近くにいたし。今みたいに寝起きで知らない誰かがいることは、多分初めてじゃないかな」


「そっか……。驚かせちゃったか。ゴメンね」


 クロエはやはり返事をしなかったが、頭を小さく左右に振ったように見えた。

 それに気付いたリチャードは、後ろを向いて自分の耳をクロエの口元に寄せる。

 それから二人は、何事か小声で話していたが、エリスには聞こえなかった。


「こちらこそ済まなかった。目覚めたら俺に襲い掛かってきた奴がそこにいて、ビックリしたらしい。事情は説明しておいたから、気を悪くしないでくれると助かる」

「あぁ~。そういう理由なら、私にも非はありそうだね。うん」


 じゃあ、お相子ってことで、とにこやかに微笑むエリス。

 その頬は若干赤い。


「どうした?顔が赤くなってるが……」

「え!?そ、そう?」


 慌てて頬を両手で押さえる。


「……あ、あのさ。二人ってどういう関係?恋人同士とか?」

「そう見えるか?」


 少し上目使いで訊いてくるエリスに、なんでもない風の答えを返すリチャード。

 エリスは、見える、と返し、

「やッ、私も詳しい訳じゃないんだけどね。うちの集落は、私と一番近くの年でも、上は十個ぐらい違うし、下はガキンチョばっかりだから。……ただ、その。ね?二人の距離感みたいのが、その一番近い年の若夫婦みたいで、さ」


 これにはクロエが反応し、普段通りに戻ってきた顔色を、再び朱に染めた。

 がリチャードは、全く平然として、

「こいつとは幼馴染というか、兄妹みたいなものというか。昔からの知り合いなんだ。それだけだよ」


 この返しにはクロエもエリスも反応を返した。


 クロエは少し拗ねる様に。

 エリスは苦笑と諦念が混じった感じで。


 それを一人、リチャードだけが分かっていない感じで首をひねっている。




「さて」

 変な空気を換える様に、リチャードは立ち上がった。


「クロエも起きたから、俺たちは出発するよ」

 その言葉に、少女二人は固まりリチャードの顔を見上げている。


「え!?今から出発?すぐ日が暮れるよ?」

「だけど、盗賊の標的になっているかもしれない場所には居られないよ。エリスには悪いとは思うけど、俺の(・・)目的はコイツを五体無事に故郷(クニ)に連れて帰ることなんだ。目に見える危険は避けて通るべきだ」


 そう言われては二の句を告げないのはエリスの方だ。

 仕方ないね、と言おうとしたところを遮ったのは、なんとクロエだった。


「……もう遅い」

 それは、辛うじてエリスにも聞こえる声だった。


 一人窓の外を眺めているクロエの視線の先には、ぼさぼさの髪と髭を土色に染めた男たちがいた。

 二〇人ちょっとはいるだろうか。

 エリスの話よりも少し数は少ないが、皆手には武器を持っている。

 錆びた刃物、こん棒、弓矢。

 二流三流の粗雑な武器が見て取れる。


 そんな集団の中から、少し大柄な男が前に出てきた。


「出てこいクソガキィィィィィィ!!今日こそぶっ殺してやるァァァァ!!」


 大声を張り上げて、近くの家の壁を殴りつける。

 それを見たエリスは怒りに顔を歪ませて、急加速で部屋を出ていく。

 クロエも、自分の武器を持ってエリスの後を追う。




 リチャードは一人、部屋に残されてしまった。

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