【9月某日】
我々取材班は北村と中川さんとの山梨出張の数日後、五十嵐くんにまたアポを取る。
どうやら彼はまだ生きていた。
我々取材班はクライシス営業部へと向かう。
〜午後4時〜
この日、我々は別の仕事が押して、クライシスに来るのが遅くなってしまっていた。
しかし、夕方にも関わらず、おたけびクラッシュが炸裂していた。
『おい坂井!
テメェもう終わりなんだよ!
日付け入れたんだからお払い箱なんだよ!
さっさと引き継ぎ資料作りやがれクソッ!』
こっわ…。
赤鬼部長は坂井さんをおもいっきり蹴り飛ばす。
どうやら坂井さんは9月いっぱいでクビにされるみたいだ。
五十嵐くんいわく、赤鬼部長が脅して坂井さんをクビに追い込んだらしい。
もう金を恐喝するのも飽きたのだろうか。
そもそも以前から、坂井さんは赤鬼部長に退職願を書かせられていたみたいだ。
後は日付けを入れさせるだけで、自由に退職させることができるようになってたらしい。
ちなみにこれは違法です。
Q.坂井さんクビですか?
「…らしいですね。
四天王達は、坂井さんをいつも使えねぇとかほざいてます。」
Q.やはり仕事ができないからクビなんですか?
「いいえ。
安田と坂井さんと行った静岡出張の時みたいに、上司のミスを部下に押し付けてる感が否めないですね。
坂井さん、多分ハメられたんです。
責任転嫁ってヤツですね…。」
……。
『おい坂井!
引き継ぎちゃんとやんなかったら、テメェん家押しかけっからな!』
『坂井何してんだよクソッ!
2000円だバカ!』
『テメェなんかどこも拾ってくれねぇよ!』
赤鬼部長のおたけびクラッシュは止むことがなかった。
〜20時〜
Q.お疲れ様です。坂井さん派手にやられてましたね….?
「えっ、えぇ…。
見てるだけでもホント恐ろしい1日でした。」
彼はそう言うと、誰かにメールを送っている。
Q.誰にメールを?
「あっ、見てましたか?
最近中途で入社した営業の岡本さんにです。」
岡本さん。
我々は確かに岡本さんなる人物を営業部で見ていた。
おたけびクラッシュを見て、まだ会社のことが良く分からない岡本さんは、顔がめちゃくちゃ引きつっていたのを覚えている。
Q.よろしければメール内容教えてくれますか?
「えっと…。
実を言うと、これから岡本さん・坂井さん・中川さんで、ちょっとした会議があります。
そのためにメールしてました。
一緒に来ますか?」
我々はこれは何かがあると思い、彼の誘いを受けた。
そして彼と共に駅前へと向かう。
〜駅前の隠れた居酒屋〜
五十嵐くんが1人で先に、駅前から少し離れた居酒屋で待っていると、岡本さん・坂井さん・中川さんがやってきた。
駅前周辺の居酒屋を避けたのは、四天王達と遭遇する可能性が高いからだ。
そしてひっそりと会議は始まった。
年長者である岡本さんが話し始める。
『坂井さん、このままやられて会社を去るのはダメです。
部長を…いや、四天王達をパワハラで訴えましょう。
確実に勝てます。
そして会社を変えましょう。
このままでは犠牲者がまた出ます。』
それから岡本さんは、クライシスが前の会社よりもさらにヒドイことを赤裸々に語った。
岡本さんは前の会社をパワハラ被害にあって3ヶ月で辞めている。
そのため、また同じ被害にあって泣き寝入りはしたくないと、パワハラや違法な会社経営についてたくさん学んでいた。
Q.岡本さんなんか上司みたいですね?
「ですね。
岡本さんみたいな人が上司になって欲しかったです。」
その後も岡本さんはパワハラの訴え方等を話す。
まだ入社して間もないが、四天王達は狂ってると言っていた。
次は中川さんが特に危ないともいう。
『坂井さん。
後はあなたが動くか動かないかです。
金を恐喝してるなんか、違法中の違法です。
今まで取られてきたお金を取り戻しましょう!
最後に会社を変えてやりましょう!
このままじゃ自分みたく、クライシスに運悪く入社してしまった人間が哀れです!』
岡本さんは坂井さんに話し続けた。
五十嵐くんも坂井さんに訴えることを強く勧めた。
だが、坂井さんは四天王達を訴えるのが怖いと言っていた。
確かに、我々でさえアイツらを敵に回したら、何されるかたまったもんじゃない。
会議はその後2時間程続いたが、後は坂井さんに任せるということで解散となった。
結果的に、坂井さんは訴えることなく会社を去って行くこととなるのだが…。
『五十嵐くんもツラい目にあってるかもしれないが、坂井さんが訴えてくれるまで頑張ろう!
おれも頑張るから!』
岡本さんは五十嵐くんを良く励ましてくれたという。
我々は岡本さんになら抱かれても良いと思った。
あっ、それくらい神って意味でね。
彼は後に、この頃はいつ何て言って辞めようか毎日考えていたそうだが、岡本さんの励ましでまだ頑張ろうと思ったと、我々に語ることとなる。
ノンフィクションノベル〈What is Real?〉は、我々が想像してる以上に、リアルなブラックさを感じられるものになるのかも知れないと、この時は思っていた。
しかし、それにしても彼は、この数ヶ月にも関わらず、社会の汚い部分をとことん見てきた。
必要のないブラックな認識力は、どこの新入社員よりも確実に成長したのかもしれない。




