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【7月某日】

クライシス営業部No.3四天王、パワー系上司の安田と、恐喝被害者の坂井さんとの静岡出張に動向してから、我々取材班はまた彼にアポを取る。


どうやら彼はまだ生きていた。


我々取材班はクライシス営業部へと向かう。


『ちゃんとやったんですか…?

……あん!?

ちゃんとやったのかって聞いてんだよ!!!』


もちろんクライシス営業部では、今日も赤鬼部長のおたけびクラッシュが炸裂していた。


まさに戦々恐々。

我々でさえ少しの油断も許されない。


そんな中、我々は電話対応に追われる五十嵐くんを視界に捉えた。


おたけびクラッシュの影響で相手側の声が聞こえないのだろうか、彼は片耳を押さえ、デスクにうつむく様に電話している。

そりゃそうなるわ…。



Q.お元気ですか?


「はっ…はい…。」


!?


我々は彼の顔を見て、即座に異変に気付いた。


目の下のクマがヒドイ。

ちゃんと眠れているのだろうか。


『五十嵐ちょっと来い。』


おたけびクラッシュが続く中、彼は呼ばれた。


我々は彼の身を案じたが、すかさず声のした方を見る。


お前か…。


そこにはクライシス営業部No.2四天王、ストイック系上司の北村がいた。


いかにもストイックな外見。

安田とは対象的に細身で、その眼光は鋭い。


スプレーでツンツンに立たせている髪の毛が、そのストイックさをさらに際立てている。


さっそく取材班の1人が、ストイック系上司の北村にスカウターを使う。


…0!?


なんと戦闘力が0だった。


その瞬間、我々はあることに気付く。


こっ、こいつ…気を抑えてやがる。


気を抑えることができるとは、どうやらかなりの強者みたいだ。


北村は影で営業部を操っているといっても過言ではない。


そんな北村のデスクの前に五十嵐くんは立つ。


『良く聞けよ五十嵐。

この提案書はなんだ?

お前このまま坂井になるぞ?

なぁ?分かってんのけ?』


北村は五十嵐くんに睨みを利かせる。


『ってか、お前坂井にそっくりだな!ハハハッ!』


「………っ。」


五十嵐くんは北村のその言葉を受け、表情が一気に歪む。


坂井さん=恐喝被害者


北村の言葉は、遠回しにいつかお前からもお金を恐喝するぞ的な意味合いも含むものだった。


これは北村の必殺技ストイッククラッシュだ。


それにしても、これが北村の新人教育なのだろうか。


坂井さんを引き合いに、ミスを軽減させようとするのが目的なのかは分からない。


というより、笑ってる時点で完全に、北村が彼を嘲笑している本心をぶつけただけではないか。


社会人歴たった3ヶ月の彼はまだミスして当たり前だ。


坂井になるぞ。

坂井にそっくり。

ハハハッ!


そんなことを言ってお金の恐喝までも連想させるとは、さすがクライシス営業部No.2四天王なだけはある。


しかし、北村はただ単に心をえぐって、人が傷つくのを楽しみたいだけかもしれない。


あまりにもストイック過ぎる。


北村はその発言に対して彼がどう言葉を返すか、鋭い眼光でジッと彼を睨んで待っている。


「はっ、はい…。

すみませんでした。

いっ、以後気を付けます。」


彼は手を前に組み、深々と北村に頭を下げる。


しかし、北村はまだ鋭い眼光で彼をジッと睨んでいる。


『どうせまたミスるんじゃないのけ?

じゃあこれの意味を答えろ。

後これも。それからこれも。

ってか、謝る時はすみませんじゃなくて、申し訳ありませんが社会じゃ常識だろうが。

お前坂井以下だぞ。ハハハッ!』


我々の背後では、おたけびクラッシュが未だに続いていたが、北村のストイッククラッシュもまだ終わることがなさそうだ。


坂井以下=お金の恐喝よりもっとヒドイ仕打ち


ストイックに練り込まれた言葉の数々は、五十嵐くんを執拗に嘲笑し、心の中でその言葉を自動的にループさせる。


彼いわく、北村は自分のことを真面目ぶってると思っていて、その態度が気に食わないのか知らないが、やたら強く当たってくると我々に話してくれた。


そんな我々は、彼が北村にストイックにやられ過ぎていたため、彼に質問する隙さえ見つけられずにいた。


我々は残酷なストイッククラッシュを目撃した。



〜午後7時〜



我々は、会社から出てきた五十嵐くんに取材を試みる。



Q.お疲れ様です。大丈夫ですか?


「えっ、えぇ…。

新入社員ですから、これくらいのストイックさを乗り越えてこそ、やっと成長が得られるってもんです。」


あくまでも謙虚に話す五十嵐くんだが、彼の顔からは生気が感じられない。


今日はまだ火曜だ。

休みの土日まではまだ遠い。


目の下のクマがヒドイが、彼は1週間を乗り切れるだろうか。


我々がそんなことを心配していると、彼は携帯を取り出す。


電話がきたのだろうか?

誰かと話し始める。


我々は彼の言葉を聞きながら、何かの誘いを受けていることを察知した。

ブラックな気配がする。


そして電話を終えた彼に聞く。



Q.何の電話ですか?


「木原からの電話です。

今から駅前の居酒屋に来いとのことです……。」


木原とは、ヤンキー同期のことだ。


五十嵐くんは余程行きたくないのだろうか。

顔が強張っている。



Q.行くんですか?


「はい……。

行かなくてはダメな様です。」


我々は、先に会社を出たヤンキー同期の木原と、ストイック系上司の北村が2人で飲んでいることを彼から聞く。


最初は木原の誘いを断ろうとしてたのだが、どうやら木原から北村さんがお前を呼んでる的なことを言われたらしい。


上司の命令は断われない。

それが嫌なヤツであろうと。

断ったら仕事に響く。


『飲み会は絶対に絶対断わんなよ!

体調悪くても来い!お茶飲んでりゃ良いから。』


我々は北村が言っていたストイックな発言を思い出した。

お茶って…えっ?


駅前の居酒屋に向かう彼の足取りは重い。


我々はそんな彼の後を追いながら、ふと会社を見上げたが、以前より建物の黒さが増しているような気がした。



〜駅前の居酒屋〜



そこにヤンキー同期の木原と、ストイック系上司の北村が、酒を飲みながらゲラゲラ笑っていた。

何だコイツら…。


『おい店員!酒まだか!

なぁ!?早くしろよ!』


木原が店員に悪態をついていた。


北村はというと、木原に焼酎とウーロン茶で、6:4な濃いめのウーロン杯を作らせて一気に飲む。


木原はそんな北村を、さすが良い飲みっぷりですねと持ち上げ、また6:4なウーロン杯を作って北村に差し出す。



Q.何ですか…この異様な飲み会は?


「えっ…えぇ。

いつも飲み会はこんな感じですね。少々荒いですが……。」


我々は少々どころではないだろうと思っていたら、木原が彼の前に6:4で作ったウーロン杯をドカッと置いた。


『まぁ飲めよ!

ってかお前俺の誘い断ろうとしたべ?

北村さんが呼んでるって言ったら、行くとか態度変えやがって!

俺のこと嫌ってんのか?なぁ!?』


彼が居酒屋に着いてまもなく、木原は彼を威嚇し始めた。


その様子を6:4なウーロン杯を飲みながら、北村は黙って彼をジッと睨んでいる。


『とりあえず一気しろよ!

もっと俺に心開けよ!なぁ!?』


木原の声はデカイ。


隣で飲んでいた他のお客さんが、何事かとこちらをチラチラと見る。


北村はそんな中でも、未だ黙って彼をジッと睨んでいる。


『お前会社辞めそうだよな?

北村さんだってお前のこと心配してんだぞ!

何とか言えよ!なぁ!?』


木原は五十嵐くんに顔を近付け、さらに威嚇を続ける。

何このヤンキー。



Q.木原が何か言ってますが?


「また始まりましたね……。

木原も北村同様に、自分のことを真面目ぶってると思ってます。

それを木原は気に入らないのか、5月頃にストレスが溜まってるとかいう理由で八つ当りされ、散々暴言を吐かれたあげく、本気で殴られそうになりました…。」


……。


我々は威嚇を続ける木原を見たが、その外見から察するに、そんなことをするのは朝飯前といった感じだ。


そこですかさず取材班の1人がスカウターを木原に使う。


893。


我々はすぐにこの数値の意味を理解した。


『俺のおじさんヤクザなんだよ!

お前とは違って、仕事で変な問題が起ころうが、自分で解決できんだよ!なぁ!?』


我々はこの発言を聞いて、木原がいかに危険人物なのかを悟った。


そこで我々は、クライシス営業部四天王達が発動させる必殺技同様に、木原が発動させる必殺技をヤンキークラッシュと命名した。


五十嵐くんは木原のヤンキークラッシュを喰らい続ける。


そして、その光景をジッと睨んでいた北村がついに動き出した。


北村は無言で携帯を取り出す。


そんな北村の携帯待ち受けはグラビアアイドルだった。

自重しろ。


そして誰かに電話をかけ、今から駅前の居酒屋に来るように言った。


北村が電話をしてからすぐ、そこに1人の人物が現れた。


それは北村の愛人だった。


北村の愛人はクライシスで働いている。


もちろん愛人というくらいなので、北村には奥さんもいれば子供もいる。


北村、木原、愛人。

五十嵐くんの本当の戦いは今ここから始まる。

頑張れ、五十嵐!


まずヤンキークラッシュを発動させていた木原が、続けて彼に先制攻撃を仕掛ける。


『なぁ五十嵐!

さっきからお前全然飲んでねぇじゃん?

早く飲めよ!

はい、一気!一気!』


木原がコールをかけ始める。



Q.木原がコールをかけ始めましたが?


「これもまた始まったって感じですね……。

いつも飲み会はこんな感じです。」


五十嵐くんは木原がコールをかける中、北村が相変わらずジッと睨んでいるので、仕方なくハ6:4なウーロン杯を一気しようとする。


しかし、五十嵐くんの顔が苦しそうだ。


彼は少し飲んだところで飲むのをやめた。


後日彼から聞いたが、いつもなら空気を読み、我慢して一気飲みしていたという。


だが、その日は体調がすこぶる悪く飲めなかったらしい。


というより、我々から見たら6:4な時点で既に何かおかしいのだが。


それに、ヤンキークラッシュを喰らいながら、誰が楽しく一気したいと思うのだろうか。


そして、一気をやめた彼を見ていた愛人が冷ややかな顔をして言う。


『全然飲んでないじゃん?

せっかく木原くんがコールかけてくれたのに。』


愛人が呆れている中、コールを無駄にされた木原が今にもヤンキークラッシュを発動させそうだ。


「ちょ、ちょっと体調が…。」


五十嵐くんは顔を歪ませながら言い訳する。

もちろん顔は前から歪んでいたが。


そして、それを聞いた愛人が突き放すように一言。


『あっそ。』


……。


木原はというと、彼の発言を気にもせず、またコールをかけ始める。


そんな光景の中、北村は薄ら笑みを浮かべながら五十嵐くんに言った。


『お前が楽しむ飲み会じゃねぇんだよ。

さっさと空いた俺のグラスに酒入れろ。

それにお前会社のことどう思ってんのけ?

それにお前の目標は何だ?

どういう営業マンになりたいのけ?』


ストイッククラッシュが発動した。


「えっ…えっと……。」


そこに木原が、言葉に詰まる彼を見て言う。


「体調が悪い?

お前鬱なのか?なぁ!?

鬱なのかって聞いてんだよ!

悩みがあったら俺に相談しろ!

もっと俺に心開けよ!なぁ!?」


ヤンキークラッシュが発動した。


ストイッククラッシュ×ヤンキークラッシュ。


我々は見事なコンビネーション必殺技攻撃を目撃した。


五十嵐くんの顔はさらに歪み、顔を近付けて鬱なのか?と迫ってくる木原に対して、もはや彼は頷くことしかできなかったようだ。


『お前鬱だったのかよ!なぁ!?

ストレス?ちゃんと牛乳飲んでカルシウム取ってる?』


『五十嵐….どうなんだ?

お前自分の意見も言えないのけ?

それに木原にもっと心開いてやれよ。

お前なんかより木原の方が優秀なんだからよ。』


…….。


我々は止むことのないコンビネーション必殺技攻撃に、ただただ唖然とし、彼に質問することすら忘れていた。


彼は歪んだ面持ちで、言葉に詰まりながらも返答する。


彼は後に、この一件で変な噂を広められ、社内で鬱病扱いになったと、我々に語ることとなる。


さらにこの飲み会の前辺りから、四天王達や木原のせいで、寝れない日が続いていたともいう。

一睡もできない日は、頭の中で誰かが自分を笑ってる映像が消えなかったそうだ。


ヒドイ時は嗚咽泣きしたという。

親や友人の前でも関係なしに。


また休みの日でも、フトンから起き上がれない日があったみたいだ。


『早く一気しろよ!なぁ!?』


ヤンキークラッシュ。



Q.こんな状態の中すみませんが…とりあえず同期のくせに、木原の態度デカ過ぎじゃないですか?


「そうですね……。

木原はコネ入社ですから。

しかも取引先の息子で、そのコネの力は圧倒的に強いんです。

赤鬼部長を始め、社内でも素晴らしく可愛がられてます。」



Q.明らかにヤクザ系な危険人物っぽいんですが、誰も何も言わないんですか?


「はい……。

ご覧のとおり、北村もこんな感じです。

むしろ木原を可愛がれば、木原の親に良い話しがいき、評価も上がるってヤツですね。

木原自身も、コネ入社だからやりたい放題と自ら言ってました。」


彼は悲惨な状態の中でも、我々の質問に答えてくれたが、顔が死んでいた。


その後、愛人が木原くんの学生時代の武勇伝が聞きたいと言い始め、話しはそちらにシフトしていった。


もちろん五十嵐くんをフォローするための発言ではなく、ただ単にコンビネーション必殺技攻撃を見ているのに飽きたからだろう。


生々しい下ネタオンパレードな会話で、北村、木原、愛人の3人はゲラゲラと笑う。


……。


五十嵐くんも、なんとかこの場をしのぎたいという思いからなのだろうか?

死んだ顔で頬だけを無理矢理笑わせる。


そして、時折コンビネーション必殺技攻撃を挟んだが、そのまま生々しい下ネタオンパレードな会話で終電を迎え、飲み会は終わった。


我々は彼に色々聞きたかったが、顔が死んでいたので、黙って彼の後ろ姿を見送ることにした。


北村はそんな彼を見て、何アイツ?というような、ものすごい怪訝な顔をしていた。


彼は明日も、そんな愉快な仲間達がいるブラック企業クライシスに出勤する。

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