【4月1日】
〜都内某駅前〜
我々取材班は五十嵐くんの入社式に動向するため、会社の最寄駅前で7時30分に彼と待ち合わせをしていた。
「おはようございます!」
スーツをビシッと着た彼が来た。
染まっていた髪も黒髪短髪になり、とても爽やかだ。
それに彼は、我々取材班のことを、新入社員の成長をリアルに追っていくノンフィクションノベルを制作するために、自分を取材にきていると完全に信じている。
俄然やる気も高まる。
だがしかし、何度も繰り返すが、我々の目的は、クライシスのリアルなブラックさを取材し、ノンフィクションノベル〈What is Real?〉を制作することにある。
こっそり彼に、クライシスはブラック企業なんだよなんて言ったら、多分取材がおじゃんになる。
そして我々のクビも飛ぶ。
忘れてはならない。
新入社員の成長をリアルに追っていくという建前を。
そして彼と我々は、歩きながらクライシスへと向かう。
Q.今の気持ちは?
「ついに社会人始まったんだなって感じです。
あっ、会社はこっちです。」
歩くこと約5分。
会社前に到着した。
我々はいよいよクライシスに潜入する時が来たのかと、興奮を抑えきれなかった。
クライシスはビル1棟をまるごと所有している、そこそこ大きな会社だった。
建物は黒い。
そして、入社式は順調に行われた。
確かにヤンキー同期は、コンビニ前でたむろしてそうな感じのまんまヤンキーだった。
その後、事務手続きやらなにやらで、あっという間に昼休みとなった。
彼とその同期達が、教育担当に連れられ食堂に行くので、我々も続いた。
そこで我々は待ってましたと言わんばかりに、最初のブラックな光景を目撃する。
これは…!?
Q.……えっと?
「こっ、この食堂なんなんですかね?」
彼は内定式で会社の弁当を食べたとは言っていたが、それは会社の式の会場でだったみたいだ。
食堂で食べるのは初めてだという。
そんな食堂を見渡すと、社員達が全員前を向いて無言で弁当を食べている。
その光景は、学校の教室の様な感じで薄暗く、机と椅子は全て前を向いている。
食堂は異常なまでに静かだ。
Q.誰も喋ってないですね?
「あっ、えぇ……。」
彼はこの異様な光景に驚いているのか、他の社員同様に、前を向いて無言で弁当を食べ進める。
彼の隣では、ヤンキー同期がヤンキーらしく、技術職の同期にちょっかい…いや、さっそく暴言を吐いていた。
ヤンキー同期は空気が読めないのだろうか。
騒がしかった。
それがあまりにうるさいので、教育担当に黙って食えと言われていた。
黙って食えって…えっ?
これが事前調査でも話しに出ていた食堂か。
我々取材班達ですら談笑しながらお昼を食べるのだが…。
そして気付くと17時。
この日は入社式なので、彼は定時に会社を後にする。
Q.1日を終えてどうでしたか?
「そうですね。
食堂には驚きましたが、まだ始まったばかりです。
営業のヤンキー同期もやんちゃですが、良いヤツだと思います。」
クライシス潜入1日目。
仕事以外で一切言葉をかわさない、冷え切った社員達を我々は目撃した。