【12月某日part.1/2】
五十嵐くんがIT系な打ち合わせに参加した1ヶ月後、我々取材班は朝一で彼から電話をもらった。
……。
どうやら彼はもう無理だった。
我々取材班はクライシス営業部へと向かう。
建物はドス黒い。
~午前10時~
我々は営業部に着いた。
いつもながら彼の顔は死んでいた。
そして彼はトイレに行くと、ひっそりと安定剤さんを飲んだ。
Q.もう決めたんですか?
「はい……。」
彼は我々にそう一言だけ言うと、大きく深呼吸する。
それからしばらくして、彼は北村を呼び、2人で応接室に入って行った。
『話しってなんなのけ?』
北村と彼は椅子に座って対面している。
すると、彼は手にグッと力を込めて北村に言った。
「会社辞めさせて下さい!」
……。
その一言で、応接室に沈黙が流れる。
北村はジッと彼を睨んでいる。
その沈黙はしばらく続いたが、北村は口を開いて沈黙を破った。
『そうか……。
辞める理由はなんなのけ?』
北村は至って冷静な口調で彼に言う。
「他にやりたいことがあります。」
それを聞いた北村は、両手を祈る様にして組み、小刻みに指を動かす。
それから北村と彼の会話は5分程続いた。
退職に関しては、今日出張でいない赤鬼部長と面談して決めることになった。
我々はその一部始終を見ていたが、特に引き止めはなかった。
北村はただひたすらに、祈る様にして組んだ両手の指を動かしていた。
いつもなら感情を表に出さない綾辻が、不審に指を動かす動作に我々は注目した。
その動作に何の意味があるかは分からないが、北村の言動はとてもアッサリしていて、何か表に出すとマズイ感情を堪えているようだった。
笑いたかったのだろうか。
Q.…ついに言いましたね?
「えぇ。
やっと言えたって感じです。
退職理由はやりたいことがあると言いましたが、あれはあくまでも建前ですので。
まぁそれは良いとして、赤鬼部長との面談がかなり鬼門です…。」
Q.なぜ鬼門なのですか?
「それはですね……。
坂井さんもですけど、以前の新入社員達は、退職の面談の時、赤鬼部長に書類をおもいっきり投げ付けられたり、容赦なく蹴られたりしいです。
ひょっとしたら、こんな会社なんで研修費用とかもろもろ請求されたり…。
無事に退職できると良いんですが……。」
彼はそんな心配を我々にもらしながらも、いつも通り業務に励む。
どこの悪徳企業だよ…。
北村も普段と変わらない…いや、いつもよりストイックさを増して彼に接する。
彼は後に、人間が黒過ぎて、来年もこの会社で働いてる自分が想像できるものではなく、以前から無理なことは既に分かっていたと、我々に語ることとなる。
それに木原みたいなヤツにとっては、むしろこの会社は最高なのかもしれないという。
会社に合わせることができなかった。
社会は自分をそういう目でしか見ないと思うとも、彼は我々に語ってくれた。
そんな我々は、ついにそんな彼のクライマックスを迎えようとしていた。
最終決戦。
彼とラスボス赤鬼部長との面談を我々は追う。