表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

『夕凪のグラデーション』

作者: Cookie・bell
掲載日:2026/06/26

四国の小さな港町。坂道を下れば瀬戸内海が見えるこの場所で、藤見美柑ふじみ みかん元木啓馬もとき けいまは、物心ついた頃から「セット」で育った。


かつては、繋いだ手のひらの温もりが二人の地図だった。けれど高校生になった今、その地図はあまりにも複雑に書き換えられてしまった。弓道部で凛と弦を引く美柑と、サッカー部のエースとして泥にまみれる啓馬。お互いを知りすぎているからこそ、言葉はいつもすれ違い、不器用なトゲとなって空中で弾ける。


「……今日、当たってたな」

「……啓馬こそ、シュート外してたでしょ」


部活帰りの駅前、自動販売機の前で交わすのは、いつもそんな刺々しい言葉だけ。本当は「お疲れ様」と微笑み合い、昔みたいに肩を並べて歩きたいのに。


そんなある日の放課後。二人は掃除当番で一緒になった。

校舎裏のゴミ置き場へ向かう、わずか数分の道のり。美柑が抱えた大きなゴミ袋の端が、するりと手から滑り落ちそうになった時、啓馬の大きな手がそれを支えた。


「貸せよ。俺が持つ」


少しだけ重なった指先。美柑は反射的に手を引っ込めたが、啓馬はゴミ袋を抱えたまま、校舎の影で足を止めた。


「美柑」

「……何」


啓馬がこちらを見下ろす。サッカーで焼けた肌に、夕陽が溶けている。


「俺ら、昔みたいに……こうして並んで歩くのも、なんか変だよな」

「……変だよ」


美柑は勇気を振り絞って呟いた。喉の奥に溜まっていた、氷のような意地悪さを溶かして。


「手を繋ぐ勇気もないし。あんたが遠くに行っちゃいそうで、私、わざと意地悪言っちゃうの」


言ってから、美柑は顔が燃えるように熱くなるのを感じた。啓馬は一瞬だけ呆気に取られたような顔をしたが、すぐに照れくさそうに目を逸らし、ポツリとこぼした。


「……何だよ、それ。俺だって、お前が他の誰かと笑ってるところ見ると、練習に集中できなくなるんだよ」


沈黙が落ちる。さっきまであんなに遠く感じた二人の距離は、今の言葉一つで、昔繋いでいた手と手の間隔まで戻っていた。


「……帰るか」

「うん」


ゴミを捨て終えた帰り道。二人の間に、まだ手は繋がれていない。

でも、ふとした瞬間に袖と袖が触れ合う距離。夕暮れが町を群青色へ染め上げていく中で、美柑はそっと、啓馬の歩幅に合わせて歩を進めた。


それは、繋いでいたあの頃の「当たり前」よりも、ずっと特別で、ずっと甘い予感がする夜の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ