第四話『彼らの要求』
第四話です。
同日午前11時02分
埼玉県さいたま市 埼玉県庁舎
一方、埼玉県に進駐した第2師団は、空自の爆撃と同時に行動を開始した。
16式機動戦闘車を先頭に、10式戦車を含む重装甲部隊が埼玉県庁舎に向けて一気に進軍する。
途中、車の渋滞に巻き込まれそうになったが破壊して進んだ。県の住民は自衛隊の暴挙に警察に通報するしかなかった。
「警察だ、止まれ!」
『全車構うな。サツ共は蹴散らせ!』
いち早く動いた埼玉県警の警察官達は、パトカーやバスでバリゲートを作って応戦していた。警察官や機動隊員達が短機関銃を連射する。
しかし、10式戦車に彼らの拳銃弾は届かない。小銃弾どころか下手な対戦車火器すら弾く装甲を前に、警察の装備は無力だった。
10式戦車はその抵抗を無視し、バリケードを破壊すべく時速70kmでパトカーの壁に突進した。
「うわっ!」
「た、退避ぃ!!」
機動隊員を乗せたバスを吹っ飛ばして破壊した10式戦車は、そのままの勢いで敷地に侵入。時速70kmで中庭を駆け抜ける。
そして砲塔を庁舎に向け、建物の正面で急ブレーキを掛けた。
「目標、埼玉県庁舎……撃てっ!!」
殺人的なブレーキの後、その場に停車した10式の砲身から砲弾が放たれた。撃ち出された多目的榴弾が、埼玉県庁舎の質素な建物に命中する。
「庁舎に命中!」
「普通科中隊、突入せよ!!」
砲弾を撃ち込んだ機甲科の車長が通信機に向かって叫ぶ。すると10式戦車が突破したバリケード跡から、数台のパトリア装甲車が敷地に侵入してきた。
パトリア装甲車が敷地内に停車すると、後部ドアが開く。
「急げ!もたもたするなよ!」
「ゴーゴーゴー!」
開いたドアから数十人の自衛隊員達が降りて来た。
彼らは全員武装しており、実弾を支給されている。手に持った20式小銃のチャンバーには弾丸が装填されていた。
「手を上げろ!地面に伏せろ!」
普通科部隊は、電気が消えて薄暗くなっている埼玉県庁舎のロビーに侵入。職員や警備員、そしてたまたまその場にいた市民達に銃を向け、まるで敵に向かって叫ぶように声を荒げた。
「きゃー!!」
「なになになに!?」
「地面に伏せろ!伏せるんだ!!」
隊員達は市民に銃を突きつけ、状況を理解せずその場に立ち竦んでいた人を無理やり伏せさせた。
ロビーはまるで災害が起きた後のように、その場に伏せる市民で溢れていた。彼らを差し置いて、一部の隊員達が上の階へと急ぐ。
「知事の執務室だ、突入しろ!」
隊員達が上質なドアを蹴破り、突入する。
中の部屋には先ほどの砲撃の影響か、煙が舞っていた。その中に執務室の机に頭を隠していた埼玉県知事を発見する。
「ごほっ、ごほっ……な、何者だ君たちは!?」
知事は無理やり引きずり出される。あまりの乱暴さに、知事は自分に銃を向けてくる隊員達に対して声を荒げた。
そんな知事に対して、普通科の隊長が前に出る。彼は知事の姿を確認すると、こう問いかけた。
「埼玉県知事ですね?」
「ああ!そうとも!」
「……申し訳ないが拘束させていただく!両脇を固めろ!」
隊長がそう言うと、知事は二人の自衛隊員によって両脇を固められ、そのまま拘束された。あまりの横暴さにち知事は抗議する。
「何をする!君たちは警察じゃないだろう!」
「今は関係ない。こちらの都合だ」
「ふざけるな!何の罪状があって私を拘束するんだ!意味が分からないぞ!」
訳がわからず、知事は抵抗を続ける。その様子を見た隊長は、彼を蔑むかのような目線でその罪状を読み上げた。
「知事が行った反自衛隊政策、及び移民に対する政策の不備……知事を拘束するに足りる罪状はいくらでもあるが?」
「な、何を言って……」
「黙らせろ」
隊長がそう言うと、隊員の一人が20式小銃のストックで彼を殴りつけた。
知事は意識を失い、抵抗の気力をなくし、そのまま連行されて行く。
同日午前11時50分
日本国首都東京 首相官邸
これらの事件後、首相官邸ではすぐに対策のための緊急会議が行われた。
首相官邸地下に設置された危機管理センターの会議室にて、各省庁の大臣や官僚たちが集まり、その中には自衛隊の幹部らもいた。
「一体どういうことだねこれは!」
会議が始まるより前に、日本国総理大臣の山野は開口一番自衛隊幹部らを怒鳴りつけた。
「自衛隊が都心を空爆、埼玉県庁舎を占拠している!これは政府に対する明確な反乱行為ではないのか!!」
「……申し訳ありません。しかし、こちらとしても詳細を調査中でございまして──」
「調査するまでもなくクーデターだろうに!自衛隊の文民統制は一体どうなっているんだ!!」
山野首相が血管がはち切れんばかりに怒りの声を上げる。その覇気迫る暴言により、他の省庁の大臣達も発言しづらくなっていた。
会議を取り仕切るため、官房長官の御堂が山野首相を宥める。
「総理、落ち着いてください。とりあえず……防衛大臣、被害の程は?」
「はっ……まず霞ヶ関への空爆で警視庁、財務省、外務省の庁舎が損壊。死者、行方不明者は合わせて200名以上。また、市ヶ谷の防衛省に爆装したF-35が墜落。さらには茨城県にある百里基地にも攻撃が行われ、空自の戦闘機が大破した他、こちらも多くの死傷者を出しています」
御堂の冷静な問いかけにより、とりあえず防衛大臣が被害の集計を発表する。
それによると、今回の自衛隊による攻撃により様々な被害が出ていた。それも、最初に空爆を行ったF-35による被害が最も大きい。
「そして埼玉県庁舎では戦車の砲撃により、知事の拘束と10名の死者が確認されています。また、現在も埼玉県庁舎は自衛隊の一部部隊によって占拠されています」
埼玉県庁舎に関しては、被害というより電撃的な破壊に近かった。現在埼玉県知事が拘束、安否不明の状態でなおかつ庁舎に居た職員や市民達が人質として囚われていると言う。
「自衛隊にお聞きしたい。今回反乱を起こした部隊の詳細は?」
総務大臣が問いかけるのを受け、自衛隊幹部のうち統合幕僚長の柴崎が答える。
「今わかっている範囲ですと、反乱を起こしたと確定しているのは陸上自衛隊北部方面隊の第2師団、同東北方面隊の一部部隊、それと航空自衛隊三沢基地飛行隊です」
「他部隊に関しては?」
「陸上自衛隊東部方面隊は政府の要請に従う用意があります。しかし、西部をはじめとした一部の部隊は静観するよう指示しました。」
「海自は?」
「西部方面隊同様、中立を貫かせるつもりです」
自衛隊幹部らは言う中立、という言葉を強調した。しかし、意味が分かってない山野首相が思わず声を荒げる。
「自衛隊の部隊を鎮圧に動員しないだと!?なぜそんなことをするんだ!!」
「自衛隊同士での戦闘を避けるためです。これもある意味文民統制ですよ。それに……」
柴崎はそこで一呼吸置き、状況を整理してから山野に説明する。
「もしですよ?もし、他の方面隊がこれに便乗して政府を攻撃するようなことになれば、我々に勝ち目はありません。反対に、彼らが我々に着いたとしても、それはそれで大規模な内戦になってしまいます」
柴崎の説明には、総理も黙るしかなかった。
確かに、この事態に対して政府の命令で他の方面隊に治安出動なりなんなりを出せば、第2師団の反乱は即座に鎮圧できる。
しかし、そうすれば北部や東北の方面隊が第2師団に便乗して反政府側に付く可能性もあった。そうなれば日本は二分され、内戦状態に陥る。それは避けなければならなかった。
「ぐっ……で、では!今回反乱を起こした第2師団とやらの師団長は誰なんだ!?素性を調査していなかったのか!?」
「総理!」
納得できない山野が声を荒げて問い詰めようとしたその時、官僚の一人が扉を勢いよく開け放って会議室に入ってきた。
「第2師団師団長を名乗る人物が、本日午後0時よりネット上で犯行声明を出すそうです。先ほどライブが始まりました」
「なんだと?」
「ついに来たか……」
「君!映像を映してくれ!」
誰かが叫んだその声を聞いて、司会進行役がネット上のライブ中継をモニターに映した。
ちょうどそこで午後0時となり、ライブ中継が始まり画面が切り替わった。暗転していた配信画面に、机越しの一人の男の姿が映る。彼は陸上自衛隊の戦闘服に身を包んでいた。
『……すべての日本国民の皆さん、お騒がせしております。私は陸上自衛隊、北部方面隊第2師団師団長の浅野一平、階級は陸将です』
彼は戦闘服のまま、ライブ配信で語り始めた。彼の机からして、何処かの執務室にいるように思える。おそらくは埼玉県庁舎の知事の執務室だろう。
『皆さんSNSなどで周知の方もいらっしゃるかと思いますが、我々は埼玉県庁舎を占領し、霞ヶ関を空爆しました。これにより、私の指揮下の部隊は政府に対して反逆したことになります』
彼は言葉を続ける。
『しかし、あえて言わせてもらいます。反逆者は我々ではなく、現在の政府であると!地域の情勢を無視し、我々自衛隊を冷遇、そして在日米軍を撤退させる暴挙に挑んだ今の政府を正すために、我々は立ち上がったのです!』
クーデターの首謀者となった浅野は、覇気迫る勢いで画面の向こうがの人々に訴える。
その勢いに、山野をはじめとした政府の面々も面食らって黙るしかなかった。
『……これより我々は、政府に対して要求を行います。まず第一に、山野首相を含む内閣は即刻辞職してもらうこと』
「なっ……!」
クーデター側の首謀者から名指しされ、山野は狼狽える。
『第二に、直前に行われた参議院選挙の結果を無効とし、去年の状態に戻すこと。我々が要求するのは以上です』
「な、なんだそれは!」
「自衛隊が選挙に介入だと!!」
「こんな条件飲めるか!!」
この要求は自衛隊が選挙結果に介入するとんでもない憲法違反な事案である。当然飲めるわけもなく、内閣の大臣や閣僚達は激しく狼狽した。
『なお、我々はこれより首都圏全域を封鎖します。内閣がこの条件を飲まなかった場合、我々は東京を戦場にし、山野内閣閣僚を、地の果てまで追いかけるでしょう』
「っ…………」
『我々からのメッセージは以上です。それでは』
浅野はそう言い切ると、ライブ配信から姿を消した。画面が待機画面に切り替わった時、政府の面々はしばらく呆然としていた。
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