第三話『最初の一撃』
第三話です。
2月15日午前10時34分
航空自衛隊 入間基地司令部
航空自衛隊の中部航空隊の司令部が置かれている入間基地では、突然首都圏に現れたF-35に対して対応が遅れていた。
オペレーター達や幹部自衛官らが司令部で怒号を鳴らす。
「当該機、三沢基地所属、301SQのF-35Aと断定。埼玉、筑波方面より二手に分かれ南下しています!」
「当該機、応答ありません。IFFを解除している模様!」
都心の真ん中に突然、IFFに応答のない戦闘機が現れた時は冷や汗ものだ。しかもその機体は日本の仮想敵国のものではなく、同じ航空自衛隊のF-35なのだという。
むしろそれはそれで異常だった。当該機は都心の真ん中、つまり住宅地の上をほぼ戦闘速度に近い速さで低空飛行しているのだ。
通常の自衛隊なら絶対にしない。たとえスクランブル時や有事の際であったとしても、このような危険飛行はあり得ない。
だからこそ、司令部は最悪の事態を想定した。
「北空へ問い合わせたか?」
「三沢基地、応答ありません!通信、データリンク共にシャットアウトしてます!」
そんな最中でも副司令官は冷静さを保とうとしたが、冷や汗をかくオペレーターの言葉に全てを察し、傍の司令官に問いかける。
「司令!」
「……現時刻を以て301SQを邀撃対象と認定する。百里にスクランブル要請を」
「はっ」
中部航空隊の司令官は、考え得る限り最悪の事態を想定し、即座にそう言って対応を行った。
即座に、首都防空を担う百里基地からスクランブルの機体が発進するが、残念ながら彼らの懸命な対応も虚しく、全てが遅かった。
2月15日午前10時35分
東京上空 高度2700ft
一方、三沢基地所属のF-35A 4機は、爆装した状態で東京上空に差し掛かった。
高度2700ftという低空飛行。空全体の高さで言えばまだまだ序の口な方であるが、市街地で行うとこれは規定違反である。
だが、今日ばかりはそんな規定など関係なかった。
『フロッグリーダーより各機、ウェイポイント2を通過。これより二手に分かれ、それぞれの目標へ向かえ』
『フロッグ2、了解。リーダーについていきます』
『フロッグ3および4も了解だ。作戦を開始する』
無口なフロッグ4は無言で頷いた。通信を使うまでもなかった。これからしばらく列機を務める先輩は、自分の顔が頷くのが見えているからだ。
F-35Aは二手に分かれた。隊長機であるフロッグリーダーおよびフロッグ2は、速度を上げて霞ヶ関へ。自分たちはそれと同時に防衛省に向かう。
自衛隊の親玉たる防衛省を、同じ自衛隊員の自分が爆撃するという現実に葛藤がなかったわけではない。
しかし、それが任務で、かつ自分から志願した事なのだから、迷っても後には引けなかった。
左手のスロットルレバーを少し前に倒す。すると自分が座席に押し付けられる感覚がして、周りの景色も素早く流れていく。
霞ヶ関への爆撃とタイミングを合わせる必要があるため、機速は上げすぎないようにする。音速の壁ギリギリを保ちつつしばらく飛行すると、ものの数十秒で市ヶ谷の建物が見えてきた。
『ウェポンベイ解放。武装からJDAMを選択』
列機のタイミングに合わせ、自分は機体の真下に取り付けられた対地照準器を作動させる。目標を市ヶ谷の防衛省庁舎に合わせると、その時を待った。
ほぼ同時刻
市ヶ谷 防衛省本部庁舎 中庭
一方で、防衛省本部庁舎から見下ろせる位置にある中庭には、航空自衛隊第1高射群のPAC3ペトリオット迎撃ミサイルが配置されていた。
これは平時から仮想敵国の弾道ミサイルに対して対処するための装備であり、防衛省本部庁舎の中庭には常時配備されていた。
「なに、三沢のF-35が?」
そんな時、防衛省に配備されていた高射隊隊長は、同じ高射隊から信じがたい報告を受けていた。
それは三沢基地所属のF-35Aが、許可もなく高速で都心を低空飛行しているというものだった。
「北空には確認したのか?」
『応答がありませんでした。この事態を受け、百里にスクランブルが掛かってます』
「分かった。となるとこっちも対応しないとな……高射隊全隊、ペトリオットを起動しろ!」
他部隊からの報告を受け、彼は上の指示を待たず、ペトリオットを起動するよう指示を出す。
だが流石に独断が過ぎるので、隊員達には戸惑いの声が見られた。副隊長が大声で隊長に問いかける。
「隊長!本気ですか?」
「そうだ!明らかな異常事態だろ。都心の真ん中で戦闘機が勝手に飛ぶなんて、テロかクーデターでしかない!急げっ!!」
彼の破棄迫る指示を受け、戸惑っていた隊員達も即座に自分の仕事に取り掛かった。
配備されているPAC3ペトリオット迎撃ミサイルは起動を開始し、ものの数十秒ほどで迎撃体制を整える。
「システム起動しました!」
『こちら捜索レーダー、複数の目標を探知!うち2機がこちらに突っ込んで来ます!』
「高射隊長!」
副隊長が問いかける。
高射隊長は一瞬同じ自衛隊員を手に掛けることに迷いを生じたが、即座に振り払って声を張った。
「撃墜せよ!」
その言葉を受け、迎撃ミサイルは即座に撃墜の段階に入った。
目標に対してレーダー照射を行い、パトリオット迎撃ミサイルのランチャーが戦闘機の方向を向く。
「目標ロック!」
「発射用意……発射っ!」
「撃てっ!」
その途端、キャニスターからペトリオットミサイルが放たれる。
ミサイルはステルス形状を施されたF-35Aにも的確に追従し、その鏃はフレアを焚いて右に旋回しようとしていた機体を捉え、炸薬が爆ぜた。
あまりに近い距離での発射だったため、回避は間に合わず、F-35Aはそのまま曲がろうとした方向へ墜落していく。
その先には、敷地内の隊舎があった。
「ふせろっ!!」
F-35Aが隊舎にぶつかり、そのまま大爆発を起こした。隊員達は伏せて身を守ったが、その衝撃は腹を叩かれたかのように全身に響いた。
どうやら当該機は爆装していたのだろう。あの規模の爆発は航空機用爆弾の威力だと推定できた。
土煙が舞い、火災と黒煙が隊舎から立ち上る。しばらくすると敷地内の消防隊のサイレンが鳴り始めた。
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