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第二話『ルビコン川を渡る』

第二話です。

2月15日午前10時20分

埼玉県埼玉市 首都高浦和北IC


 埼玉県にある首都圏高速道路の浦和北出入口から、重々しいトレーラーの車列が降りて来た。

 車列の先頭は、16式機動戦闘車などの装輪車両で占められていた。16式は高速道路を降りると、車列を率いて近くの広い場所に向かった。

 周囲は住宅街で、この日は雪が降っていた。その日は日曜日なため、公道の人通りも多い。

 そんな最中に自衛隊の車列が大量に降りてくれば、自ずと人目を集める事になる。



「うわっ、なにあれ」

「自衛隊じゃん」

「本物の戦車だ……」



 通常、自衛隊の車列が街中を通る時は夜間が多い。昼間にやる時は自治体に許可を得て、尚且つ住民に何かしらの告知があるはずだ。

 なので何も知らない住民たちは、街中に突然現れた自衛隊に対して困惑していた。



【埼玉に戦車がいる】



 その場にいた埼玉県民は、自衛隊の車列が街中に展開していく様をSNSに挙げ、様々なインプレッションを稼いでいた。

 そんな住民たちをあえて無視し、自衛官たちはそれぞれの仕事をこなす。



「オーライ!オーライ!」



 何人かの自衛官が協力し、高速道路の高架下を封鎖。その場所でトレーラーから10式戦車を降ろす作業を開始した。



「ちょっと、おい、ここで作業されると邪魔なんだけど!」

「…………」

「おい!聞いてるのかよ!」



 自衛官らは車のドライバーからクレームが上がるのすらも全部無視している。彼らはまるで、自分達にクレームを付ける国民のことなど眼中にないようだった。

 作業を開始してからしばらくにて、高速道路から一台のパトリア装甲車が降りてきた。それは指揮車両として製造されたモデルであり、キャビン部分が迫り上がっている。

 そこから一人の中年の男性が降りてきた。たまに雪が肩に積もるのを払いのけ、作業の指揮を取る。



「浅野師団長」



 浅野と呼ばれたその男は、戦闘団付きの副官が声をかけてきたので、そちらの方を向く。



「戦闘団全部隊の輸送が完了しました。輸送隊は戦車を順次トレーラーから展開中で、作戦は第二段階に入ります」

「……わかった。第一の関門は越えたな」



 浅野はその報告を聞いて作戦の障害が取り除かれつつあるのを感じていた。彼の中に少しずつ高揚感が芽生えてくる。

 そんな彼とは反対に、副官の方に表情に曇りがあった。浅野は上官として見逃さなかった。



「どうした、顔色が悪いぞ?」

「……いえ。いよいよ始まると思い、武者震いしてたところです」



 副官は包み隠さず自分の心情を明かした。それに対して、浅野は彼への励ましを含めた厳しい言い方をする。



「俺たちはもうルビコンの川を渡ったのだ、後には引けんぞ」

「はっ、失礼しました」

「迷う気持ちは分かる。だが、貴官は戦闘団付き副官として職務を全うしろ。そうでなくては部下にも示しがつかん」

「はい」



 彼は敬礼をし、気持ちを新たに職務に戻った。

 そして、浅野は車両に戻っていく。通信機を取ると、部隊の全指揮官に問いかける。



「全戦闘団へ、こちらは浅野だ。各部隊の状況を報告せよ」

『こちら2戦、路上展開完了。25普の普通科連隊と合流中。オクレ』

『こちら3即機、部隊展開完了。いつでもどうぞ。オクレ」

『こちら22即機、こちらも展開完了。そちらの指示に従う。オクレ』



 準備完了の返答。配下の部隊は皆展開を完了させ、行動の準備を完了させていた。浅野は簡潔な指示を下す。



「了解した。展開が完了した部隊より順次行動を開始する。各部隊は、事前の目標を制圧せよ。以上」

『了解』

「上空、我が方の空自部隊です」



 浅野の隣に戻ってきた副官が、上空を指指す。



「ルビコンを渡る、か」



 浅野が上空を見上げる。

 雪の降る寒空の下、その雲の切れ間にて、浅野の思想に協調した空自のF-35が数機、編隊を組んで真上を飛び去って行った。


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