第十二話『荒川の戦い・第二幕』
第十二話です。
2月18日0時35分
東京都北区 荒川河川敷
第32普通科連隊
空での戦闘の様子は、地上からも見て取れた。
深夜の東京上空に、眩い花火のようなものが光ったかと思うと、それは炎の尾を引いて地面へ向かって落ちていく。
それはまるで流れ星のようであり、同時にパイロットの死を意味する不吉の予兆であった。
「なああれ、うちらの空自機か?」
「落ちてく方向、市街地だよな……」
「マジかよ……」
それを見た隊員たちに動揺が走る。
彼らが見てしまったのは、政府側に立つ空自部隊のF-2戦闘機で間違いない。戦闘により撃ち落とされたのだと理解できた。
中隊長はその空の様子を見て、いち早く指揮車両の中に入ると、そこで通信が鳴っているのに気がついた。
中隊長は受話器を受け取り、応答する。
「はい。こちら、第32普通科連隊第1中隊」
『連隊長だ。先ほど空自戦闘機が撃ち落とされ、都心が巡航ミサイルによって空爆された。詳細は不明だが百里も空爆を受けたようだ。第1師団の司令部も空爆されたが、幸いにも師団長は退避し無事だ』
中隊長は最悪の想定が当たったことを受け、歯軋りをした。おそらくこの規模の攻撃は本格的な攻勢の合図だろう。
それは連隊長も同じ予感がしているのか、重ねてこう言う。
『そちらは警戒体制を強化しろ。今全部隊に戦闘体制を発令している。君たちはその橋をなんとしてでも確保し続けろ』
「了解です」
中隊長は通信を終えると、指揮車両の通信を切り替え、動揺する隊員たちに対しこの事態に対応するように指示を出す。
「中隊長だ。各員配置につけ、警戒を怠るな!」
中隊長からの指示を受け、動揺していた隊員たちも、目の前の橋に注目するしかなかった。
彼らが配置に着いたのとほぼ同時に、辺りを見下ろせるマンションに配置した偵察の隊員が通信に叫ぶ。
『来ました!国道線に敵車両確認!』
「詳細は?」
『AMVが一台、10式戦車一台、91式架橋戦車一台、普通科隊員が二十名ほど』
「了解した。射程に届き次第、制圧射撃を加える。各員待機せよ」
その言葉を受け、各員が持ち場に着いてその時を待った。
土手に陣取る隊員たちは、小銃の安全装置を解除し、いつでも撃てる状態にする。少し後ろの隊員たちの中には、01式軽対戦車誘導弾を準備する者もいた。
敵が橋の中央付近にやって来た。91式架橋戦車が前に出て、戦車はその後ろで警戒体制を敷いている。中隊長はその隙を待っていた。
「撃てっ!」
隊長の号令一下、各員の銃撃が始まった。
小銃や機関銃の制圧射撃が、雨霰のように戦車とAMVに降り注ぐ。
その激しい弾幕により、車両の後ろで待機していた普通科の隊員たちは身動きが取れなくなった。
その場に伏せたり、車両を盾にするなりしている。しかし、同時に反撃もして来た。敵からの銃弾が土手を掠める。
戦車も反応し、30mm RWSをこちらに向けて制圧射撃を開始した。両者の弾幕が交差し、夜に閃光が迸る。
その時、マンションの方からミサイルが放たれた。先ほどから待機していた01式軽対戦車誘導弾を構えた隊員だ。
彼らの放ったミサイルは91式架橋戦車に向かっていくが、戦車が咄嗟に前に出て、ミサイルに向けてRWSを連射する。
元々ドローンやミサイルなどを咄嗟に撃ち落すことも想定している30mm RWSは、91式架橋戦車にそれが到達する前に撃ち落とした。爆発が架橋戦車に当たる直前で巻き起こる。
『ミサイル、外れた模様!』
『くそっ、RWSで叩き落とされた……』
「追い払うだけでいい。部隊は攻撃を続けろ!」
中隊長は隊員たちを怯ませないよう、必死に鼓舞しながら指揮を続けた。この橋さえ渡らせなければまだ勝機はあるはず。だから耐え凌げばいい。
『こちら1偵戦、ただいま現着。これより戦闘に加わる』
途中、第1偵察戦闘大隊の先遣隊が援護に入って来た。MCVこと16式機動戦闘車が、その快速を活かして自動車用道路を伝って土手を登る。
するとMCVは、端から見て数百メートルの位置に展開できた。そこから不意打ち気味に主砲を発射した。
『ヒット!ヒット!架橋戦車にダメージ!』
『下がれ下がれ下がれ!!』
91式架橋戦車にダメージを与え、少しでも時間を稼いだのち、MCVは即座に後方へ下がっていく。
すると先ほどまでMCVがいた場所を、10式戦車の砲弾が掠めていった。砲弾はギリギリのところでMCVをすり抜けて後ろのビルに着弾した。
「(よし、このまま耐え凌げば……)」
中隊長は最初の想定よりも余裕が出来たので、少し安堵していた。
こちらの被害は最小限。なおかつ架橋戦車は無力化したので、新しい架橋車両を持ってこない限り橋を掛けることは困難だろう。
このままこの陣地を維持すれば、敵の攻勢戦力を削ぐことができる。その間に体制を立て直すことも困難ではないはずだ。
中隊長が人知れずほくそ笑んだ、その時だった──
土手裏の陣地にて、大爆発が起きた。その爆発は陣地を築いていた隊員たちを吹き飛ばし、土煙を上げた。
「っ、なんだ!?」
その後も爆発が続く。
土手に沿うようにして爆発が広がっていき、土の壁を耕すように煙が舞い上がる。ものすごい衝撃と爆発音が付近の隊員たちを揺さぶった。
「何事だ!?」
『砲撃です!こちらの陣地にて爆発多数!』
突然の出来事に、土手を離れて指揮車に隠れた中隊長は通信に向かって吠える。
だが通信から聞こえて来たのは、状況を判断できない隊員たちの悲痛な叫び声だった。
『こちら第3小隊!砲撃が激しく身動きが取れない!!』
『第2小隊がその場に釘付けになっています!』
『偵察戦闘大隊のMCVが至近弾により走行不能!』
その間にも砲撃は増えていく。まるで大地震が来たかのように、大爆発と爆音が辺りに響き渡る。
中隊長は、最初こそ敵車両の増援を疑ったが、隊員の報告を受け、中隊長はこれが戦車などの攻撃ではないと即座に断定した。
ならば、可能性としてあり得るのは──
「中隊長、これは間接射撃です!爆発からして15センチ相当!」
「まさか、こんな市街地で99式を……!?」
中隊長の憶測と、隊員の報告が重なったのはほぼ同時だった。
2月18日0時42分
川口市近隣 とある小学校の校庭
第2特科連隊
市街地に対して砲撃を加えたのは、第2師団隷下の第2特科連隊であった。
最大で5個特科大隊を有する陸上自衛隊最大級の砲兵部隊である同連隊は、今回のクーデターに際しても参加を表明し現地に輸送される手筈となっていた。
しかし、決起の迅速さを確保するべく同連隊の輸送は後回しとされていた。それも貨物列車や輸送車両などを北海道からピストン輸送する方式のため、時間がかかる。
今まで浅野が、決起からこの日まで下手な攻勢をせず、じっと待ち構えていたのはこの連隊の輸送のためだった。
「撃てっ!!」
連隊に配備された99式155mm自走榴弾砲は、日本が保有する国産の自走砲だ。
52口径の155mm榴弾砲を備え、その威力もさることながら、自動装填装置の搭載により少ない人員で毎分6発以上の砲撃を可能としている。
『だんちゃーく、今!』
またも砲撃が川を挟んだ対岸に着弾する。
着弾予定地をドローンで観測している隊員が戦果を報告する。
『命中!ビルの損壊を確認!!』
また、北海道で猛訓練を積んでいる乗員たちの練度も目を見張るものがあり、土手裏やビル裏に隠れている隊員たちを的確に狙い撃ちしていた。
輸送できた砲弾にも限りがあることも、彼らの練度を加速させているようにも見えた。
「撤収!移動を開始せよ!」
中隊長の命令を受け、99式自走榴弾砲は移動を開始した。敵からの反撃から自走砲を退避させるためだ。
今の時代だとドローンによる先制攻撃もあり得る。彼らは今までよりも少ない砲撃で陣地転換を繰り返すようになっていた。
「(悪いな。校庭をボコボコにしちまった……)」
なお、彼らが砲撃を行っていたのは小学校の校庭である。深夜というのもあり誰もいなかったが、重たい自走榴弾砲が移動を繰り返したため、校庭にはヒビが入っていた。
ここは市街地なので、この場所以外に広い土地がなかったので致し方ないことであった。
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