第十一話『首都圏上空』
第十一話です。
同日0時30分
栃木県上空 高度21000ft
深夜にも関わらず、ジェットエンジンの甲高い音が響き渡る。三沢基地を発進したF-35飛行隊は作戦を開始した。
決起における最初の作戦で僚機の先輩を失い、片割れになっていたフロッグ4は復讐を果たそうと燃え上がっていた。
ただ今回の作戦に際しては、フロッグ4の機体には空対空ミサイルのみが搭載されていた。今回の任務は爆撃ではなく、防空網の制圧だからだ。
『フロッグリーダーよりフロッグ4へ。逸るな、少し落ち着け』
「……ウィルコ」
逸る気持ちが抑えきれなかったのか、編隊長に見抜かれていた。
この夜間にも関わらず、こちらの機位を見失わず見抜ける鋭さ。相変わらず編隊長には敵わないなと思いつつも、任務に集中するべく自分を落ち着かせた。
『シーカー01よりフロッグ全機へ。こちらのレーダーで複数の飛行編隊を確認した。目標αは距離およそ40マイル、方位210の位置に四機。目標βはおよそ33マイル、方位160の位置に四機。高度は共に15000、速度からして両者とも戦闘機と思われる』
遥か後方を飛ぶ早期警戒機のE-2Dから、敵機探知の報告。データリンクで機体のマルチディスプレイにも目標が表示される。
『こちらフロッグリーダー了解。東京上空に四機、百里上空に四機だな。こちらに気づいた様子はあるか?』
『いや、ない。速度方位変わらず』
『了解した。取り掛かるぞ』
フロッグリーダーはそう言うと、機体をバンクさせ、編隊に合図を送る。
フロッグ4はその合図の意味を確認すると、前回とは違いフロッグリーダーに付いていくように操縦桿を右へ倒した。
心地よいGと共に、機体がゆっくりと旋回していく。期待と身体に負担をかけない程度の緩やかな旋回。次第に、機首が敵の方を向いた。
『フロッグリーダーより各機。これより目標αを叩く』
編隊長の指示の下、F-35のHUD画面に目標のフリップが映った。それを敵性目標と断定し、各機のミサイルでロックオン。
F-35の優れたシステムは、各機のミサイルの残弾数を把握し目標が被らないように選定する。さらに彼らはE-2Dの支援下のため、ミサイルの誘導を支援してもらうことができた。
『フロッグリーダー、FOX2!』
編隊長機から中距離空対空ミサイルのAIM-120Dが一発、空中に放り出されて勢いよく推進する。
一度発射してしまえば撃ちっぱなしのミサイルだ。誘導性能、機動性共に優れたアメリカ製であり、F-35とも相性がいい。
一発数千万円のミサイルだが、もちろんのこと出し惜しみはしない。
「フロッグ4、FOX2!」
続いて他の機体もミサイルを放った。
突然の奇襲。流石の百里基地飛行隊も、北からステルス戦闘機が忍び寄っていることに気づいていなかったようだ。
データリンクにより高い誘導性能を保証され、奇襲の効果もついた。相手の高度もそれほど高くない。下は市街地で、低空に逃げての回避は困難だ。
つまりこの距離で放ったミサイルは必中ということである。
同時刻
代々木公園
航空自衛隊 第1高射隊
現在池袋駅周辺の公園に展開している第1高射隊の指揮所では、同じ空自からの悲痛な報告を受け取った。
『中空司令部より各部隊へ!敵F-35の侵入を探知した!なお我が方の戦闘機隊は壊滅状態!警戒されたし!』
中空からの報告に公園に広げられた指揮所が凍りつく。
「各員、ペトリオット起動。市街地でも構わんから撃ち落とすぞ」
「了解!」
隊長の指示の下、各員が持ち場に着く。
あらかじめペトリオットはいつでも起動できるように待機させていた。すぐさま起動を完了させると、都内に散らばった各高射隊と連携して迎撃体制を整える。
高射隊長は冷や汗をかく。極度の緊張感によるものだ。クーデター初日、この舞台はF-35をペトリオットで撃ち落とす戦果を上げたが、あれがまぐれに近いことを隊長はよく知っている。
F-35のステルス性能は、本来遠距離で効力を発揮する。こちらの装備するあらゆるレーダーを掻い潜れるなら、探知は難しいかもしれない。
「どうだ?」
「まだ発見できません」
指揮所でレーダーの様子を確認する。
しかし、反応がないのかレーダー画面に敵性目標は映っていない。これでは目標をロックできない。
「出力を調節してみろ。些細な痕跡でも見逃すな」
「了解です」
隊長はあらゆる手段を用いて探知を続行するよう命じると、通信機を手に取り、各所に叫ぶ。
「高射全隊に通達!ランチャーはあらかじめ北東に向けておけ!」
隊長が新たな指示を言い渡したのと同時に、レーダー画面に新しい目標が映し出された。
「目標補足!」
隊員が叫ぶ。
「機数4、距離32マイル、速度400ノット!」
「確実に戦闘機だな……やれるか?」
「出力を調節すればいけます!」
隊員の応答を受け、隊長は即座に叫ぶ。
「高射全隊、射撃用意!!」
その途端、指揮所は慌ただしくなる。池袋周辺に配備されたペトリオット群が、一斉に目標の方向を向いた。
「目標ロック!」
一度探知した敵は逃すつもりはない。隊長は即座に発射の指示を出す。
「発射用意……発射っ!」
「撃てっ!」
その途端、ペトリオットの発射器から迎撃ミサイルが放たれた。
池袋から白煙と共に天高く登っていくミサイル。その光跡は、この深夜の空にいる不届者へとまっすぐ向かっていく。
「インターセブトまで30秒!」
その言葉と同時に、隊長は手元のストップウォッチを作動させた。カチカチという音と共に、ミサイルが目標へ近づいていく。
「あと10秒!」
刻一刻とその時が近づく。
最初の一発が、敵のF-35と差し違えようとしていた。
「5……4……3……2……1……!」
「どうだ?」
隊長は逸る気持ちを抑えて問いかける。
しかし、戦果を確認していた隊員は苦い顔で隊長に伝えなければならなかった。
「ダメです。爆発を確認できませんでした。ミサイルは直進した模様です」
「くそっ!」
都心を狙った不届者であるが、残念ながらミサイルは届かず、爆発せずに直進してしまったようだった。
迎撃できなかったことに隊長は悔しさを滲ませ、握り拳で机を叩く。この場にいる皆も同じ気持ちであった。
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