第十話『地獄行き』
第十話です。
日本時間2月17日19時05分
アメリカ合衆国 ワシントンD.C. ホワイトハウス
アメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.では、間も無く朝を迎えようとしている頃、朝のニュースが放映されていた。
アメリカの中枢部であるホワイトハウスには、大統領邸宅が備え付けられている。そこに置かれた液晶テレビからも、ニュース映像が流れていた。
『……たった今入ってきた衝撃的な速報です。現在、日本の首都東京は自衛隊によるクーデターにより厳戒態勢にありますが、特派員によると先ほど激しい発砲音が聞こえたと言う情報が入りました。繰り返します、日本の首都東京にてクーデター軍との戦闘が開始された模様です』
アメリカの大手放送局が流しているニュース映像には、速報と題打って日本の首都東京での一連の騒動が放送されていた。
キャスターが深刻な表情でニュースの原稿を読み進める。
『現在特派員と繋いでいますが、電波が乱れているようで中継が困難なようです。現場の情報は確定しませんが、何かしらの戦闘があったのは間違いないようです。また、不確定ですが日本からSNSへ様々な映像が流れており──』
アメリカ合衆国の大統領、ドラモンド・クラークは、珍しく早起きしてテレビの音声を聞き流していた。
そして徐に携帯を取り出すと、個人的な電話番号からある一人の日本人の名前を探し、彼に電話をかけた。
「……ああ、私だ。ウチの特派員は上手くやったみたいだよ」
ドラモンドはニュースで言われている結果を見て満足し、電話の向こう側の人物にそう報告した。
「ああ、ああ、分かっている。感謝の言葉は後でいい。私としても東アジアの拠点を失うのは惜しいからな。そのための茶番だろう?」
大統領は続ける。
「ああ、ああ……そうだ、あとは君たちの仕事だ。私はここで幸運を祈るよ。それでは──」
ドラモンドは電話を切る。その表情はにわかな笑みに彩られていた。
彼はテーブルからネクタイを取ると、自身の首元に巻きつけ、若干ふくよかな体型にも合うように作られたオーダーメイドの上着を羽織った。
そして今日もアメリカ合衆国大統領としての一日がはじまる。
2月17日22時26分
埼玉県さいたま市 県庁舎3階 決起部隊前線司令部
一方で、日本側では戦闘がしばらく落ち着いていた。
政府側が埼玉県から東京都内へ続く橋を全て爆破したため、クーデター側の第2師団は架橋装備の輸送を待ち、作戦を第二段階にシフトせざる得なかった。
「これを機に本格的な攻撃を仕掛ける」
第2師団師団長兼任、決起部隊総司令官の浅野一平は地図を前に拳を握り締め、訴える。
「宇都宮に到着した第2特科連隊及び第11旅団の増援を取り込み、我が決起部隊はいよいよ都心へ総攻撃を開始する」
敵側からの攻撃を知り、決意を固めた浅野に迷いはなかった。これを機に新たな作戦を展開する。
「F-35飛行隊は全機出撃だ。指定された優先目標である百里、入間、上野、池袋を空爆する。空爆までの過程は全て空自に任せる」
「了解です。空から全て叩き潰します」
空自から出向している隊員は、大規模な作戦ができるとあって興奮気味だった。彼は意気揚々と、三沢基地に繋がる通信機に先ほどの作戦内容を伝えに行った。
ちなみに空自の飛行隊が攻撃作戦に転じるのは、今回のクーデター案件が初である。
「戦車各隊は架橋装備を伴って進軍。爆破された橋に架橋し防衛線の突破を図る」
「了解!聞いたなお前ら!この国を変える楔を打つぞ!!」
『おう!!』
次に地上での作戦の詳細が伝えられた。戦車連隊隊長が直々に指名され、一番槍を打ち込めると聞いて興奮気味だった。
通信機の向こう側からも、各戦車中隊の隊員たちの勇ましい声が聞こえている。
「攻勢開始は翌日0030だ。各員、それまで敵と小競り合いを繰り広げろ。攻勢を悟られるな」
『了解!!』
浅野が最後の注意事項を隊員たちに伝えると、彼らは即座に各々の行動に移った。
最後の打ち合わせが終了し、指揮所が先ほどよりも人気がまばらになったのを見計らい、浅野は階段を降りる。
向かったのは、最初の市庁舎襲撃で砲撃を受け、壁に大穴が空いた市長の執務室。浅野は夜のさいたま市の空を見ながら、タバコを取り出そうとした。
「師団長」
そんな時、戦闘団付きの副官が浅野の下を訪ねてきた。彼に応えるため、タバコは胸ポケットに仕舞い込んだ。
「いよいよですね。私も興奮してきました」
「……そうか。初日みたいな緊張はもうなくなったか」
「ええ。これでようやく清々しい思いで任務に臨めます」
若干興奮気味でハキハキと喋るその言葉に、浅野は確実な成長を感じながらも、複雑な思いだった。
彼はこの決起に際し、なにかとてつもない後ろめたさを感じていたのだ。
「最後に、浅野師団長と一緒に任務に臨めて嬉しかったです!それでは!」
「おう」
最後に縁起でもない事を言うなと突っ込みたかったが、そうする前に彼は立ち去った。
浅野は再び胸ポケットに手を突っ込み、タバコの箱を探り当てると、壁に穴が空いているのをいいことに、その場でタバコに火をつけた。
心地よい苦味が口に広がるのを感じつつ、余った煙を口から吐き出した。
「俺は地獄行きかな」
浅野は今まで自分がしてきた事を顧みて、ため息を吐きながら、そう独りごちた。
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