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「第五話」大和魂を見せてやる



 ギラリと光る赤い瞳に、俺は素手であることを物凄く心もとなく思った。

 目の前にいるのは間違いなく鋼鉄の身体を持った『天使』だ、それは間違いない。だが、なんだこの漆黒のボディデザインは? あの赤い天輪と剛翼の『天使』でさえ白を基本としたデザインだったにも関わらず、この『天使』の鋼鉄は吸い寄せられるような漆黒だ。


 《──はじめまして人間。アナタは、雄の個体ですか?》

 「っ!?」


 言葉、人間の言葉! 

 十年。日本があの化け物どもと戦ってきた長い年月の中で、今まで喋ることはおろか発声すらもしなかった『天使』が、今この瞬間、俺に対して人間の言葉を使った!


 これではっきりした。こいつは間違いなく、ただの一般機体ではない。

 剛翼の『天使』、硫黄島の英霊たち。そしてこの黒い『天使』といい、この小笠原第二防衛戦線には……なにかが、違う。物語で言うところの転換点のような、そんな超重要な分岐点に立たされている気分だった。


 《怖がらせて申し訳ありません。ですが、私は敵ではありません》

 (襲ってこない。自力で動くことができないのか? それとも……)


 考える。あの英霊たちは、何故俺をこいつのいる地下室へと導いたのか。

 もっと別の目的があった? いや、ここは一本道だった。コイツ以外には考えにくい。

 俺を避難させるため? 阿呆か、彼らは俺に国を未来を守れと託してきたんだぞ。


 じゃあ、やっぱりこいつなのか?

 この絶望的な劣勢をひっくり返す、規格外で理不尽な切り札は。


 「……お前」 


 話し合い。馬鹿馬鹿しい方向に舵を切るのは容易だが、そのためには情報が必要だ。

 そしてそれは……残念ながらコイツに聞くしか無さそうだ。


 「お前は、なんだ? 時間が無い、聞かれたことだけ答えろ」

 《対話の機会を与えていただき感謝します。私は八咫、試製空機動絡繰装甲『八咫』です》


 名前。しかも、やた、ヤタ……八咫烏の『八咫』か。


 「その名前は誰から付けられた? お前ら『天使』を作ったのは、誰だ?」

 《私は江戸時代の絡繰職人”平賀井森”によって、『天使』の残骸を基に作られました。私のこの名前は、造物主が私に込めた”この国を『天使』から守ってほしい”という願いから、この国の神話を元に付けられました。因みに私は『天使』とは似て非なる存在であり、ただの兵器です》

 「待て! 待って、くれ……江戸時代? 絡繰? 願い??」


 鎖国してた時代だぞ、それ。

 与太話にもほどがある。産業革命の恩恵を受けていない、一般にほとんど知らされてもいないような国で、こんな全てにおいて近未来的オーバーテクノロジーが再現できるわけがない。おまけにその時代から『天使』がいたなんて記録は、何処にも残っていないはずだ。


 ハッタリだ。だが、そう考えるにはあまりにもまだ謎が多すぎる。


 「……ハッキリさせておきたいことがある」


 しかし、それをゆっくり問い詰めている時間は、俺達にはもう無い。

 だから。俺は、最後の質問をした。


 「お前、強いのか?」

 《”強い”の基準が私には分かりませんが、アナタの立場とここに来た目的を推測したうえで答えるなら、そうですね。────この小笠原諸島付近にいる『天使』約二千機。その全てを、一時間以内に私一機で殲滅することは容易かと》


 ですが。そう付け加えた電子的な声色は、一切の変動をすることなく俺に告げる。


 《それには、アナタの協力が必要なのです》

 「……なるほど」

 

 『天使』ではない、”兵器”、協力が必要。

 なるほど独り合点がいった。コイツはおそらく、意志こそあれどそれに基づいた行動を自分で起こせないように作られたんだろう。こいつを作った平賀とかいう職人は相当な頭の切れ者らしい。──そしてこいつは、兵器。即ち、それを銃や戦闘機のように操る人間が必要というわけだ。


 信憑性は100%ではない。寧ろ、不審な点で目の前が真っ黒になるぐらいだ。

 

 (斑、父さん。どうか、俺達に勝利を……見守っていてくれ)


 それでも。

 それでも、俺は。


 「力を貸せ、八咫。大和魂を見せてやる」


 もう、誰も死なせやしない。

 この国に迫る脅威を吹き飛ばし、勝利を運び込む……”神風”になると、決めたから。







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