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「第二話」初陣

 基地に到着する頃には慌ただしく人の声と大きな音が飛び交っていた。

 どうやら俺達が思っているよりも事態は深刻らしい。会議室ではなく、エンジンを吹かした戦闘機が並ぶ滑走路に呼び出された時点で、俺と斑は身が引き締まる思いだった。


 「天童勇二等兵、並びに炭口斑二等兵。只今着隊いたしました!」


 隊員たちが立ち並ぶ中、俺と斑は隊長に敬礼してから列に並ぶ。

 緊張感なんて言葉が安っぽく感じるほどには、隣にいる先輩方は凄かった。まるでこの人たちを中心に引力があるようで、冷や汗が止まらない。


 連合空軍対『天使』機動作戦連隊。その正体は、太平洋戦争で生き残ってしまった兵士たちの漂着先と噂されていた。

 太平洋戦争にて玉砕するはずだった歴戦の戦士たちの心には、当時子供だった俺以上に忠君愛国が刻み込まれており、その覚悟は日本が敗戦国となった今となっても強固なもののようだ。

 

 「全員揃ったようだな」


 壇上に上がる隊長の低い声を聞いて、ようやく俺は実感する。新兵の俺達が、数々の英雄を含むこの対『天使』機動作戦連隊……文字通り対『天使』戦における最前線に配属されたのだと湧き上がってきた。


 「俺は隊長の増田だ。諸君らをここに呼んだのは他でもない。この国を脅かすあのガラクタ『天使』共を葬るためだ」

 「「!!」」


 俺と斑は顔を見合わせた。やはり、と。自然と拳に力が入る。

 『天使』だなんてとんでもない。あれは日本の、いいやこの世界の”敵”であり、なによりも。


 (父さんの、仇……!)


 『天使』

 今から十年前、終戦直後の太平洋に突如現れた超巨大要塞……そこから働き蜂のように飛び出てきたのは、頭部に光輪のようなものを浮かばせた巨大な鋼鉄の化物だった。

 日本を含む周辺の国が大規模な被害を被る中、当時のアメリカは切り札をいとも簡単に切った。──核爆弾。この国に二発落とされた、これまでの戦争の常識を根底から覆す超兵器。


 だが、そんな核の力をもってしても、奴らの活動は止められなかった。

 正確にはそれを輸送していたアメリカの爆撃機、忌々しきB29は、なんと搭載していた核爆弾を投下するより前に空中にて撃墜されたのだ。”飛行高度が高すぎて撃ち落とせない”というのが謳い文句だったあの悪魔の機体は、軽々と海の藻屑となったのだ。


 「諸君らにはこれからこの対『天使』戦闘機”零戦・穿天”に乗って任務に向かってもらう。先程連絡があってな、小笠原第二防衛戦線が『天使』共から襲撃を受けたとのことだ」

 「っ……!?」


 第二防衛戦線が襲撃を受けただと? 冗談じゃない、つい一ヶ月前に南鳥島第一防衛戦線が『天使』共に破られたばかりだぞ!? 早い、早すぎる……もしも小笠原諸島が奴らの手に落ちれば、一気に本土までの移動ルートを確保されてしまうじゃないか!


 「勇殿」


 小声、しかし重い斑の声が耳に入った。──覚悟を決めろ。そう言われている気がした。

 増田隊長は俺達の顔をゆっくりと見通したあと、こくりと頷いて、言った。


 「……諸君らの任務を改めて説明する。君たちの任務は、対『天使』特殊戦闘兵器……まぁ所謂『神風』を、小笠原戦線へ護衛・空輸することだ」

 (対『天使』特殊戦闘兵器……『神風』?)


 空輸するのが兵器とは聞いていたが、まさかそんな大層な名前をつけられていたとは。

 十年前、この国を守るために散っていった父さんのような、誇り高き名前だ。


 「兵器は既に各戦闘機に内蔵されている。小笠原空域に入り次第投下し、帰還しろ。……諸君らの奮闘に、この国の未来が掛かっている。頼んだぞ。──話は終わりだ、出撃準備!!!」

 

 はい!!! 俺達は弾かれるように、各自に用意された零戦・穿天へと向かっていく。

 俺は斑を見た、斑も俺を見ていた。生きて帰る、必ず。──乗り込む。かつて、父さん共に玉砕していった戦闘機と、同じ名前の機体の操縦席に。


 (……いつか)


 いつか、日本は再び国として独立する。

 敗者としての末路である被占領国家でも、『天使』に対する防波堤としての傀儡国家でもない……正真正銘、生まれ変わった日本という国が、いつか再びアジアの覇権を握る日が、必ず来る。


 その日まで、できることをする。

 それが、散っていった英雄たちに俺達が送ることができる、唯一の餞なのだから。


 (父さんみたいに、俺は……)


 躍り出る、空へ。

 かつて父がそうしたように、今度は俺も、この国を守れるぐらい強く吹く”神風”に成るんだ。


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