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モブAということでお願いします

作者: 国先 昂


「いよいよね……」


 胸をドキドキさせながら鏡に写る自分を見る。

 茶髪に碧眼。金髪じゃないのは残念だけど前世の自分と比べると2倍は可愛いであろう女性がそこには写っていた。


 そう。前世。

 

 5歳くらいだろうか?なぜか毎日食べるパンではなく白米が食べたいと思ったその時、一気に前世の記憶を思い出した。といっても普通の女子高生として日本という国で生活していた記憶で、特殊な力も知識もなく、思い出したその日は知恵熱を出して倒れたが、次の日からはいつもと変わらない生活を送っている。


 残念ながら神童にはなれず(なる気もないけど)子爵家次女として普通に今世に馴染んで生活していた。前世と違って科学のかわりに魔法が発達しており、あまり不自由なく生活できている。生活魔法のクリーンなど、自分の身体にも使えて、面倒くさがりな私にピッタリである。米がたまに無性に食べたくなることぐらいが今世の不満である。


 両親ともに普通に優しく兄と姉も末っ子の私に激甘で、家族にも恵まれた。兄のように当主になる必要もなく、姉のように美人で賢いところを見初められ、侯爵家嫡男の婚約者がいるわけでもなく、本当に普通の人としての人生を謳歌している。


 実は知識面では前世の力が多少は使え、やればそこそこできるんだけど姉のように高位貴族に見初められでもしたら一生大変な生活を送ることが目に見えているので、できる限り家で引きこもり生活を送っている。ちなみに勉強も家庭教師がついているので、ウフフな学園生活は送っていません。


 そう目標は一生ダラダラと過ごす引きこもり。


 前世は学校こそ通ったけど、煩わしい人間関係に嫌気がさし、ほぼ家で引きこもって本を読む生活をしていた。しかも、携帯で読める無料の小説ばかり。そんなわけでかなり偏った趣味だけど、結構楽しく生活していた。ちなみに何で死んだかは不明。


 そんな今世での目標を達成すべく、唯一取り組んだのがトランプの開発である。今世では見かけたことがなかったので売り出したところ空前の大ヒット!!一生遊んで暮らせるお金が手に入り、資金面はクリアできた。ちなみに現在トランプ作成は孤児院に丸投げしています。


 そんな私のニート生活の前に立ちふさがった難題「適性職業確認の儀」が本日神殿で行われるのである。


 十五歳の誕生日、神殿で1人1つ球が渡されその球に自分の適性が映し出されるという。ファンタジーあるあるである。


 これがかなりギャンブルで当たりハズレが激しいらしい。勇者や聖女から職人、農民までかなり振り幅が広い。しかも適性な職業に就くとすぐに能力を発揮できるが、適性外の職業に就くとかなり努力を重ねてやっと1人前になれるかどうからしい。


 もちろん私はニート希望だが、それでなければ商人などの普通の仕事が望ましい。とにかく普通が1番。


 そう意気込み私は神殿へとやって来た。もちろん両親とともに馬車でです。


「これはこれは、子爵、お宅も娘さんが今年は授かるのか?」

「はい。恥ずかしがり屋であまり人前には出たがらず、知らない方が多いのですが末っ子の次女になります」

 父が私を紹介する。服装からして近くの領地の貴族かな。

「そうか、家も次女が授かるため来たんじゃ」

「伯爵家の神童と噂の娘さんですね」

 そこにはプラチナブロンドの髪に紫紺の瞳の絶世の美少女が立っていた。なるほど伯爵令嬢。

「ああ、わしが言うのも何だができた娘でな。良い職業を授かるのではと期待しておるんじゃ。特に今年は魔王か復活しただろう?勇者や聖女も選ばれるのではという噂じゃから、聖女を授からんかと期待しておるんじゃ」

 ……確かに聖女っぽい。


「子爵家はトランプでもうけた金があるじゃろうから不自由はしとらんじゃろうが、家はかなり税収も厳しくてな……娘がどこか良縁を結べたらとも思ってな」

 この伯爵様、何でもベラベラしゃべりすぎじゃない?悪い人じゃなさそうだけど腹芸もできなさそう。現に父は苦笑している。

 

「そうですね……そろそろ時間だ。ミリア行ってらっしゃい」

「ミリア、頑張るんじゃぞ」

 

 うん?同名?

 どうやら私はこの美少女と名前が一緒らしい。

 共に並んで歩く途中声をかけられる。


「……あなた、ミリアと言うの?一緒の名前で呼ばれるのは不愉快だからあなた今日はミリーナと名乗りなさい」

 

 はい。性格最悪。

 顔に性格の悪さが滲みでている。美少女なのにもったいない。でもま、別に私は良いけど。

 

「分かりました」

 私の返事も聞くことなくスタスタ歩いていく。もし彼女が聖女なら世も末ね。ま、別に私は良いけど。


 そう。所詮他人。彼女のことなどどうでも良い。良くないのは私の職業である。


 神官に案内され、広い部屋へと進む。そこには無数の球が置いてあった。そしてそこには同じ誕生日の2人が既に待機していた。

 

 その中に聖女っぽいミリアさんと張るぐらい、イケメンが1人いる。金髪碧眼、顔も整っており、服装からも高位貴族とわかる。

 ミリアさんは早速そのイケメンに話かけに行く。アグレッシブである。

「あの、私はミリアと申します。貴方様のお名前は」

「……クルト」

 金髪のイケメンはミリアさんのグイグイにもなびく素振りもなく淡々と告げる。 

「私の名前はダミアンです!!」 

 もう一人の茶髪は聞かれてもないのに名前を答えている。顔が赤く、聖女の可愛さに陥落してそう。

 

「……そっちは?」

 金髪イケメンに話を振られる。そしてミリアさんにキッと睨まれる。


「ミリーナです」

 何だがよく分からないけれど、巻き込まれたくないので言われた名前を告げ口を閉じる。イケメンは私にも興味がないのか、聞くだけ聞いて話は終わった。


 一方のミリアさんは懸命にイケメンに話かけるが、イケメンは興味がないのかほとんど無反応。隣の茶髪ばかりが張り切って答えている。……何だがカオス。


 そんなこんなしている内に神官が部屋へと入ってきた。

 

「一つ心のままにお選びください。そこに浮かび上がった職業があなたの適性職業になります」


 くじ引きみたいだな。


 良いのが当たりますように……


 願いを込めて、1番近くにあった球を選ぶ。

 

 手に取ると球が光輝いた。そして浮かび上がった文字を確認する。


 ミリア 聖女


 嘘でしょ!?

 

 聖女って、あの聖女?

 今魔王が復活してるから、勇者とともに魔王討伐にでないといけないあのヤバい職業ナンバー1の聖女!?


 あまりの衝撃で私は球をポトリと取り落とした。


 その時、同じようにミリアさんも球を落としていた。彼女の顔も引きつっているから望まない職業だったのかもしれない。お互いの球がコロコロと転がり交差する。


 うわっ。分からなくなった。

 ミリアさんが先に拾う。その後に私も球を拾った。


 球を拾って、もう一度よく見る。


 ミリア 聖女見習い


 あれ?見習いがついている。


「やったわ!私が聖女よ!」


 ミリアさんが聖女? 

 ……もしや入れ替わった?


 これって……なんて……


 ラッキーなの!!


「私は聖女見習いです」


 神官はミリアさんの言葉を聞くやいなや、慌ててミリアさんに駆け寄る。


「……本物です。聖女が誕生しました!!」


 そしてミリアさんに膝をつく。


「聖女様、お出でになるのを今か今かとお待ちしておりました。王宮に連絡いたしますのでこちらにどうぞ」

 ミリアさんは満更でもない様子で神官についていく。

 お達者で!!ありがとう!聖女ミリア!!


 残された私たちはどうすべきかと思っていたら別の神官がやって来た。


「貴方がたの職業をお見せください。確認いたします」


 最初に茶髪の彼が球を見せる。


「剣士ですね。騎士や衛兵、護衛、冒険者など剣を扱う職業に就けます」

 茶髪くんはかなり嬉しいらしく、やったーと拳をつき上げていた。


 続いて、金髪のイケメンくんが球を見せる。


「これは……勇者様!!貴方様も王宮に連絡する必要があります。こちらへどうぞ」

「なあ、他に神官いるのか?」

「いえ、この神殿には先程の神官と私だけですが……」

「じゃあ、彼女の職業みてからにしてくれ。さっきも聖女のせいで俺達放置されて困ったし」

 いや。イケメン意外と良い人。


「……分かりました。早く、見せてください」

 神官は気持ちが焦っているのか、私の球をひったくるようにして見る。


「聖女見習いですね。聖女ほどの力はありませんが、祈れば魔を祓う力を持っています。神殿に仕える事が多いですが、大した力は無いので別の職業に就かれるかたも多いです」

 やったー!!ニートになれそう!!私にピッタリの職業!!

 

「分かりました。ちなみに、聖女様のお力とはどんな力何ですか?」

 私は嬉しさが顔に出そうになるのを何とか我慢して、神妙な顔で神官に聞いた。

 

「魔を祓う力に特化しています。祈れば魔の攻撃を受けずにすむはずです」

 ふむ。遠くからでも効果はあるのかな?よく分からないけど毎日欠かさず祈るようにすれば良いか。


「勇者様、それでは参りましょう」

「……分かった」

 私と茶髪くんは勇者を見送る。


 と、途中て勇者と目があった。なぜかこちらを鋭く睨んでいる。(気がする)


「お前……」


 勇者は何か言いかけたが、言わずにそのまま部屋を出て行った。


 何か気に障ることでもしたかな?

 ま、もう会うこともないし、良いか!

 勇者様、お達者で!!


 そして、無事に(?)適性職業確認の儀を終えた。


 後はもう一仕事を残すのみである。


 家に帰り、私は涙ながらに両親に語る。


「……神殿には行きたくありません」

 

 嘘泣きしながら両親に伝えると、「ずっと家にいて構わない」と慰めてくれた。ちなみに兄も姉も私が神殿に行かず、家にいることに賛成してくれる。


 やった――!!言質とったぞ!!


 これで晴れてニートライフを満喫できる!!


 ただ、兄嫁に煙たがられる小姑にはなりたくないから、成人したらトランプのお金で小さな家を買って自立しよう!!


 そんなこんなで成人するまでの3年間、ぼちぼち勉強し、1日の大部分を好きな恋愛小説を読む時間にあて、悠々自適なニートライフを満喫して過ごした。ちなみにトランプの開発者として毎月定期的に高額なお金が入る。そのお金で小さな家を買い、今私についてくれているメイドをそのまま雇い暮らす方向で話はすすんでいる。


 勇者と聖女はというと、漏れ聞く噂によると魔王城まで無事にたどり着き、間もなく魔王を討伐できるのではという話だ。


 聖女様はやはりあの美しさで勇者パーティーのメンバーを籠絡し、逆ハーレムを築いているとの噂だった。本命は勇者か!?とゴシップ紙の一面を飾っていたからほぼ間違いないだろう。


 確かにあの勇者もイケメンだったし、お似合いの2人かも。


 ちなみに私も毎日勇者パーティーが無事でありますようにと祈ることは欠かさない。討伐が上手くいっているようなので、祈りはどこからでも届くものだったのかそもそも聖女の力は必要なかったのだろう。


 とにかく適材適所。収まるところに収まって良かった。


 そしてついに魔王討伐のニュースが飛び込んできた。やったー!!無事にフラグをへし折ったぞ!!


 ゴシップ紙を握りしめながら、1人歓喜する。


 紙面には皆大きな怪我もなく、無事に討伐を終えたと書いてある。流石勇者パーティー!!勇者と聖女は顔見知りなのでやはり無事と聞いて安心した。……しかも聖女は押し付けたかもしれないし……。


 紙面の次のページは聖女をめぐる、男たちの相関図が書かれていた。本命勇者、2番手は魔法使い、3番手が重騎士らしい。ダークホース、王弟も書かれていた。野次馬根性でそっちも気になるな……。

  

「勇者様達が王都に戻って来られるらしい。祝賀会の案内が来ているがどうする?家からはお前以外参加予定だから、無理しなくても大丈夫だぞ?」


 父が招待状を持って部屋にやって来る。といっても参加しないだろうと考えているのが目に見えて分かる。


 普段引きこもって夜会に全く参加しない私だが、今回は違う。


「お父様、その夜会参加させていただきます」

 

 私の返事を聞くと、父がはっとした表情をし、うつむきながら呟いた。

 

「……そうか、ミリアもそういう年頃になったか……少し寂しいがお前の頑張りを無駄にはせんぞ!!早速衣装屋を呼ばねば!!」

 

 父が何か誤解した感じで部屋を出ていく。いや、年頃だから普通は結婚相手探しですよね。


 でも、ごめんなさい。私の目的は昼ドラです。


 誰が聖女様のお相手になるのか?


 こんなウフフなシチュエーション間近で見られることはなかなかありません。絶対に近くで見たい!!


「楽しみですわ」


 聖女✕勇者 王道!!膝をついてプロポーズ

 聖女✕魔法使い 少し陰のある魔法使いがそのまま聖女を攫って監禁……

 聖女✕重騎士 熱い男に絆され、身も心も……

 聖女✕王弟 年上の男の色気にやられて……


 いろいろ考えてみますが、どれも有りでどれも選べない!!いろいろ妄想している内に、私はぐっすり夢の国へと旅立った。


 そしていよいよ祝賀会当日!!昨日は凱旋パレードもあったのですが、人混みは苦手なのでパスし、今日に備えてしっかり準備万端です!


 父と母が張り切って新しいドレスを新調してくれ、いつもより数倍は可愛く仕上がりました。といっても元が地味なのでお察しですが……ま、良いのです。今日の私はあくまでモブA!!しっかり舞台を彩るモブになって見せます!!


 兄のエスコートで会場に入ると、既に多くの人で溢れていました。勇者様が見られるとあっておそらくいつも以上に参加人数が多そうです。


「……どなたか気になる人がいたらこっそり教えてくれ」

 

 兄にこっそり耳打ちされますが、残念ながらそんな相手は一生現れません。


 正直結婚願望が無いのです。今の暮らしが幸せ過ぎて、これで誰かの妻になり社交に励むなど考えたくもありません。と、本音は兄に言えないので、当たり障りなく兄には伝えます。


「……分かりました。お兄様も、私はこうして大人しくしておりますので、遠慮なくお知り合いの方とお話くださいね」


 私は一切興味が無いけれど、兄には逆に社交を頑張ってもらわねば。そしてトランプの販路を拡大してください!!


「ドミリオン!!」

 と話していたら、早速兄の名前が呼ばれます。あちらの集まりは伯爵家かしら。


「ミリアすまない。少し離れるが、ここで大人しくしていてくれ。間違っても広間の中央には行かないように」

 

 兄は私に念押しをして名前を呼ばれたグループの方へ歩いて行った。お兄様、心配せずとも大丈夫です!間違っても今回の祝賀会の中心地に足を踏み入れる気はありません。あくまで目立たぬようにモブAとして、観察あるのみ。目を見開いて勇者達が現れるであろう、壇上を見つめます。


 王様が王妃を伴って入場されました。いよいよです。


「皆の者、今日はよく集まってくれた。今日という日が来るのを皆も待ち望んでいたと思う。それでは我が国を救ってくれた英雄たちをお呼びしよう」


 その言葉の後に、勇者、聖女、魔法使い、重騎士が壇上から現れた。王弟は!?キョロキョロと周りを見渡すと、ひっそり王の後ろに控えている。その横には王太子である第一王子もいらっしゃる。


 これで役者が揃いました!!


「皆の者まずは、英雄たちに大きな拍手を」

 

 全員が惜しみない拍手を送る。いや、本当に国を救ってくれてありがとう!!


 その時前を向いていた勇者と目線が合う。3年前に比べてかなり身長も高くスタイル抜群になっている、しかも麗しさはそのままで皆がキャーキャー騒ぐのも納得の美貌。おそらく脱いでもすごいんだろうな……と頭の中で妄想する。


 目線が合ったと思ったけど気のせいだったようで、既に勇者は隣の魔法使いと談笑している。魔法使いの黒髪でどことなく陰のある美貌も捨てがたい。2人並ぶと本当に目の保養……眼福である。BLもいける!!


 そこに赤髪の重騎士が絡んできて、2人と仲良さそうに話をしている。いや、こうして見ると3人がしっくりくる。陰のある青年を2人のイケメンが取り合う……鼻血が出そうになる。いける。いや、今はいけないけと。


 妄想は頭の中に置いておき、現実はいよいよ報奨の話となる。


「して、勇者よ。そなたの望みを言ってみろ」

「はい。私は魔国との辺境の地を賜りたく存じます。そして叶うなら私が望む女性との結婚を許可していただきたい」


 おおっ!そう来たか。でも辺境の地はもともと瘴気で大変なせいで誰も治めていない手つかずの地である。勇者ならふさわしい。


 そしてその望む女性とは!?


 一気に会場のボルテージが上がる。万が一にもあり得ないけどもしかしてと考える女性は多いものだ。……私は別だけど。


 固唾を飲んで見守るが、先に皆の希望を聞くシステムらしい。次の魔法使いが要望を伝える。


「私は、この城で働く権利と隣国の第2王女との結婚を許可していただけたらと思います」

 

 隣国の第2王女!?可愛らしいと噂の女性で、今日も招待されていたはず。

 

 皆の視線の先を見ると顔を赤らめた王女がいた。どうやら魔法使いとは相思相愛らしい。魔法使いの線は消えたな……。


 続いて重騎士の番である。


「私は幼馴染との結婚を許可していただきたい。また、王都から我が領地までの街道の整備をお願いしたい」


 幼馴染!?またも皆の視線が1人の女性に集まる。クールビューティーな女性がほんのり顔を赤らめて立っていた。女性から見てもステキな女性である。これは聖女勝てないな……。


 最後はいよいよ聖女!!さ、何を望む?


「……私は私と結婚したいと言ってくださる方との結婚を認めていただけたらと思います。結婚式には大聖堂を使用させてください」


 聖女は勇者を見つめながら話をする。これは勇者で決まりだな……。


「ふむ。良かろう。皆の希望は全て叶えよう」


 わっと場が盛り上がる。いつの間にか魔法使いは王女の横に、重騎士は幼馴染の横に移動している。はたから見てもわかるくらいの熱々ぶりである。


「して、王子よ。そなたが望む女性とは誰だ?」

 

 さらっと王様が、勇者が我が国の王子であることを暴露した。確かに言われて見れば王の横にいらっしゃる第一王子と顔付きが似ている。にわかに女性達がざわめき出す。


 勇者で王子とか最強!!これであとはしゃがんで聖女の手をとり、プロポーズで完成である!!


「私はミリアを望みます」


 その瞬間会場の女性たちのため息が聞こえてきた。


 逆に私のボルテージが上がる。よし!あとはプロポーズ!!


「……旅の間ずっと君の柔らかい魔力を感じていた。その魔力がないといつの間にかダメな体になっていたんだ。責任とってくれるよね?」


 なんだか言い方がイヤらしい……でも、色気があって嫌じゃない!!いけ!!勇者!!


 勇者がスッと立ち上がると、キラキラ目を輝かせている聖女の方へ……行かない!?


 えっ……どうして、王子と目線が合うのか……。


 一歩ずつこちらに近づいてくる……。


 ……まさか。


 誰か嘘だと言ってほしい!!


 私はにっこり微笑んでいる勇者とは対照的に冷や汗で手がしっとり濡れてくる。


 ヤバいヤバいヤバい……ミリアって、まさか……。


 私の前で王子はしゃがみ私の手を取った。


「ミリア子爵令嬢、私と結婚してください」


 誰か……嘘だと言って!!

 私はなんとかその場を離れようとするが、勇者が手をきつく握りしめているため、その場から逃れられない。


 兄に目をやると、こちらもまさかと言う表情をしている。


 今なら、今ならドッキリで誤魔化せる。なんとか逃れないと。


「ちょっと、勇者様!!どういうことですか?聖女は私ですよ!皆様をずっと支えていたのも!!それなのになぜそこの聖女見習いの手を取るんですか!!」


 慌てた様子で聖女がやって来る。よし!ナイス聖女。このどさくさに紛れてドロン……できない!!勇者が今度は私の腰を掴んでいる。


 いや、もう離してください。どさくさに紛れて何やってるんですか。言いたいけど言えないので必死で手を引き剥がそうとするが、勇者の手は微動だにしない。


「なぜって簡単なことだよ。僕の聖女は彼女だっただけのことさ。君は何もしてないだろう」

 さらっと爆弾発言しないでください。聖女とは一緒に旅をした仲じゃないですか。私はあくまでモブAです!!


「あの……何か誤解があるようなんですが……私は聖女様がおっしゃられるとおり、聖女見習いで何の力もなく……」

 だから、離してってば勇者!!


「そうよ、そこの女も言っているように聖女は私よ。皆を守っていたのも私よ!!それなのに……」

 キッと聖女が私を睨む。ひえ――。私は何もしていません。いや、聖女は押し付けたけど、勇者とは誤解です!!


「いえ、彼女で間違いありませんよ。私は魔力の色が見えるのですが、貴方ではなく彼女の魔力を我々は毎日まとっていましたから。……貴方はついて来るなと言っても延々話を聞き入れず、我々があたかも貴方に気があるようにゴシップ紙に吹聴していただけじゃないですか……そのせいで我々がどれほど迷惑したか」

 

 追い打ちをかけるように魔法使いが勇者の味方をする。


「おう。いつもいつも神殿を盾に好き勝手しやがって、ほとほと呆れてただけだ」

 重騎士までもが、聖女を断罪する。


 えっ。これってバッドエンド?聖女ヤバくね。私が押し付けたばかりに不幸になるのは申し訳なさすぎる、せめて私にピッタリくっついているこの勇者をあげたいのだが、いかんせん、手が離れない。


「誰もいらぬなら、我がもらおう」


 誰もいなかった空間に突如人が現れた。勇者と張るくらいのかなりの美貌の持ち主だが頭に羊のような2本の角がある。これはもしや……隠れキャラ?


「魔王、来ていたのか?」

 勇者が声をかける。

 

「ああ、そこの王に招待されてな」


 魔王!?

 にわかに会場が騒がしくなる。勇者に倒されたはずじゃ……。


「静まれ!!その話を今からするところだったのだ。今回勇者達が成し遂げたのは討伐ではなく、和平交渉だ。魔国を友好国として、今後はあらゆる面で協力してやっていきたい。ちなみに我が国を荒らしている魔物と魔国の人間は一切関係がないと調べがついている。また、魔国では魔物の対策が進んでいるらしいので、その政策も教えてもらえることになっている」


 なんと、友好国になるのか。ま、平和が一番だから自分に害がなければ何でも構わない。


「して、魔王よ。聖女を望むのか?」

「ああ、ここまで濁った魂はなかなかお目にかかれんからな。わが花嫁にふさわしい。それと王よ、聖女と言っていたが、これはそんな力はないぞ。有るのは勇者の横にいる女だ」


 魔王!!お前もか!!いらんことを。


「ふむ。そうであったか……して、元聖女よ。どうする?元聖女!!」


 王は聖女に問うが、聖女はただただ魔王を見つめている。目がハートになっているので、これはもしかして隠れキャラルート来た!!


「はい!魔王様の花嫁になります!だって勇者以上のイケメンなんですもの」


 聖女!!本音がダダ漏れである。


「ふむ。これで一件落着だな。それでは皆の者、祝賀会を楽しんでいってくれ!!」


 いや。どこが一件落着?


 王様、私の意思は?


「幸せになりましょうね」


 腰を抱えた男がにっこりとほほ笑んでくる。


 いやいやいや、怖すぎる。

 なんか粘着質そうだし。


「あの、勇者様……私では力不足かと……それに私は身体が弱くて社交ができません。王子の妻などとても務まりませんわ」

 とにかく何とか勇者から離れないと。


「大丈夫。面倒なことは全て僕が片付けるから。ミリアはただ家の中で僕の無事を祈ってくるだけで良いよ。社交もせずにずっと家にいたら良い」


 いやいやいや。それってサラリと監禁宣言……?

 ヤバいヤバいヤバい。


「いや、だから……」

「2人で幸せになろうね」

 勇者が私のおでこにキスをしてくる。もちろん腰は抱えられたまま。


 周りからキャーという黄色い歓声が聞こえてきた。


「私は聖女じゃ……」

「大切にするからね」


「私は聖女じゃなくてモブAです!!」


 だから、お願いデス勇者様。私を家に帰して!!

 そう叫びたかったのにいつの間にか、私は意識を失ったらしい。あまりのことに頭の中がショートしたのかもしれない。

 

「一度逃げたんだ……もう二度と逃さないよ」


 意識を失う直前、そんな勇者の声が聞こえた気がした……。


 それからの私?皆様のご想像にお任せします。ただ、思っていたより今の暮らしも悪くないと感じている今日この頃です。


 

 


 

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― 新着の感想 ―
>ここまで濁った魂はなかなかお目にかかれんからな クズで生きてきた甲斐がありましたわね! 勇者にがっちりホールドされた本物ちゃんは何だかんだで幸せ掴んでいるようで何よりですわ。 リアル適材適所の実例を…
祈らなければ良かったのに。
国先昂さん 「モブAということでお願いします」拝読しました。 タイトルからしてゆるいコメディかと思いきや、読み進めるうちに「モブ」であるはずの主人公の心の揺れがじわじわ伝わってきて、最後の > 声…
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