侯爵領へ
侯爵領へ向かうには一つしか道がない。
街道を通って向かう道だ。
元々は食糧生産地の我が家の伯爵領、魔獣生息地の侯爵領。
つまり食料を侯爵領へ販売、侯爵領は魔獣を討伐してその素材を我が家の伯爵領へ販売するという経済システムが存在した。
もちろんそのシステムは10年間で様変わりしているが、そのための街道は残っている。
ちなみに俺がドラゴン討伐に行った時は街道など使わずに山越えを行った。
超高密度魔力による超身体強化は常人をはるかに超える。
その状態でなら一日かからずに侯爵領へ行ける。
まあ、今回は使わないけど。
何せ即席で組まれた俺たちパーティメンバーに加えて侯爵家の騎士団までいる。
置き去りにできないので護送船団方式で移動しているのだ。
さらに言うと俺持参の装備や武器もある。
これで罠を張ったり、火力で焼き尽くしたりして戦おうというわけだ。
とは言えうまく行くかは運次第。
「それにしても無茶苦茶な破壊力ですね」
ロクサーナさんは感想を漏らす。
ついさっき氷の城壁の外に向かって撃った一撃が見えて来たのだ。
「あれを一撃でも受けたなら街ごと消し飛びます。それにあの氷の塊も街一つが消える攻撃です。しかも回避不能となるともはや絶望的です」
メアリーさんも同じく感想を漏らした。
その感想に答えておこう。
「そう何発も連続で打てるようなものじゃないですし、打つと疲れます」
何発も連続で打てるような代物だと思われたなら、それはもはや俺個人が危険人物だ。
「な、それは困ります! 今回の相手は普通の国なら国軍を動かす規模の討伐です。何発も撃ってもらわないと私達が魔獣の餌になります」
何発も撃てないとういことにしとかないと国から目をつけられそうだ。
あんなもん何発も一日で撃てたらそれこそ国から目をつけられる。
「安心してください。一発しか撃てなくても策ならあります」
メアリーさんが聞いてくる。
「その策とは?」
そんなもの決まってるじゃないか。
「一撃で仕留めればいいんです」
ロクサーナさんは心配そうな顔で聞いてきた。
「外れたらどうなるんでしょうか?」
そんなの決まってるじゃないか。
「その時は僕達が餌になります」
「餌になるのは嫌です」
とメアリーさん。
「だから大火力で掃討します」
悪い顔をしてそう言った。
「あの大火力だとさらに強い魔獣が寄って来たりしませんか?」
「フェンリルとドラゴン複数体を一撃で消し飛ばすつもりです。寄ってくるどころか逃げていくでしょう」
納得とばかりに頷くメアリーさんは言う。
「それはよってこないですね。それにしても、この十数年で生態系がかなり変わったと父が言っていたのですがそんなに大きく変わったのでしょうか? 個人的には産まれた時から魔獣が減っているので、あまり実感がわかないのです」
「父の伯爵曰く、伯爵領では中級魔獣はおろか低級が出ただけで大騒ぎになるくらい伯爵領は平和だったらしいです。対して侯爵領は下級魔獣の出現は珍しくなかったみたいです」
いくら天より降臨した冷凍庫がいるとはいえ、いきなり数日で上位魔獣が寄ってくるわけがない。
数年の時間をかけて徐々にやって来ている。
伯爵領では最初、数件の下級魔獣の目撃から始まったらしい。
下級魔獣とはいえ人間には脅威、討伐隊が組まれて討伐した。
だがそこから、下級魔獣の目撃件数は増加していった。
もともと下級魔獣でさえ出没しない平穏な食料生産地帯の伯爵領の領民達はそれだけで大騒ぎになったのだ。下級魔獣の出撃件数はさらに増え、やがて中級魔獣の出現まで確認された頃には魔獣の大移動が確認された。
そのころに今の虫食い状態の城壁の建造が決定され、父と財務担当者達は大騒ぎ、連日連夜の予算捻出案の作成に追われた。
そんなもともと平穏な食料生産地帯だった場所に冒険者や魔獣の討伐の専門家なんて都合よく居るわけがない。
その頃に手をあげて貴族でありながら趣味で魔術を独学で学んでいた俺が討伐に参戦しはじめた。
その当時から現代日本の知識を用いて実験に実験を重ね、実力はめきめき伸びに伸びまくり、偽名を使うようになったのは懐かしい思い出である。
ちなみに初討伐からしばらくの間は親から討伐に行くときは自らの尻ぬぐい討伐を行いそれなりに有名な討伐者になっていたアイシーの同行が条件だった。
そうこうしているうちに、俺が大穴を開けた場所を通り過ぎる。
「街からそう離れていない場所で爆発したように見えたんですが、街からかなり遠い場所で爆発してたんですね。驚きです」
ロクサーナさんは俺の一撃に対して感想をもらす。
まぁ、あれだけの爆風が街まで迫って来たんだ。
近くで爆発したと思っても仕方がない。
「やっぱり、不器用で命中率の悪い私にはあれくらいの威力の一撃で援護するしか敵に命中しない気がします。この旅の途中で手解きをお願いしてもよろしいでしょうか?」
まぁもちろんそれは構わない。
しかし、問題が存在する。
そうロクサーナさん。不器用なのではなくコントロールが悪いのだ。
もしこんなコントロールの悪い後方支援要員があんな破壊力を身につけてしまったらどうなるか。
いや、流石に真後ろにエクスプロージョン飛んで行ったりしないだろう。
この時はそう思っていた。
「手ほどきは構いません。ただ破壊力強いので気をつけてください」
そう、キャッチボールでボールは真後ろに飛んで行ったりしない。
普通は。




