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クソみたいなプロローグ

「ねぇ、言いたいことが山ほどあるんだけど」

 朝早くから剣術の練習と称して素振りをする俺に話しかけてくる女性。

 見目麗しいメイドの女性だ。

 素振りの後は体を洗い、その後は優雅にティータイムと洒落込む予定だ。

 うむ、いかにも貴族という感じだ。

 見目麗しい女性が僕に話しかける。

 今この場には俺と彼女の二人しかいない。

「言いたいことって何だよ」

 それなりに成長して剣術も教えてもらった僕はそれなりに様になった素振りをしながらそう聞き返した。

「なんでプロローグから思いっきり嘘ついてるのよ?」

 嘘とは心外だ。

 言いがかりもいいところだ。

「嘘とは心外だな。人が折角、新しい人生を歩んでいるのに失礼じゃないか」

 その答えがよほど不服だったのか、彼女は半目になってさらに言ってきた。

「思いっきり嘘じゃない。まず精神病にかかって命を絶ったってところよ。思いっきり嘘じゃない」

「キッチンにあった漂白剤やらを何やらかんやらを飲んだってところだろ? ガッツリ真実じゃないか」

「確かに嘘とは言い難いわね! でも真実でもないじゃない! 真実はこうよ、病気を発症して鬱状態で体がほとんど動かない時に漂白剤やら何やらを準備して飲もうとして、それを飲むのを躊躇って、かと思ったらいきなり体が元気になって会社の同僚を無理やり飲み会に誘って、飲み会の席で家から持ち出した漂白剤やら何やらを超ハイテンションで「俺は無敵だぜヒャッハー」とか言いながら同僚の目の前で飲み干してドン引きされた。が真実でしょ?」

 そう言いながら俺を見てくる見目麗しいメイドの女性はさらに続ける。

「なんで私がそんなことに巻き込まれないといけないんですか! なんでー!?」

 と、素振りをする俺の隣で頭を掻きむしりながら叫んでいる。

 やばいこれは完全にヒステリー起こしてる。

 ちょっと白目をむいているし。

「もっと言うと、入社した瞬間に『あっこの会社なんかおかしい』とか心の中で思いながら勤務中にせっせと動画回して隠し撮りしてんのになんで躁鬱病になんてなってるのよ?!」

 頭をかきむしりながら言う彼女。

 優雅なティータイムが台無しだ。

「仕方ないだろう激務なんだから、動画回して会社やら上司の不正やらなんやらの証拠残してるだけ褒めて欲しいくらいだ」

 そう言い返すと言い返される。

「動画回してるのは褒めてあげる。でも躁鬱病のまま死んで天国に送られて来たせいで、来たくもない世界に私が送られたのはあなたに非があるわ!」

 普段敬語なのになんか口調が崩れてきてる。

「あー、今来たくもないって言った! お前、一応は女神とか天使とかそういう職業だろ、その立場の奴が来たくもないなんて言っちゃダメだろう」


そう、俺たち2人はあの日のことを今でも鮮明に覚えている。

あれが冒険の始まり。 

彼女の目線でのプロローグだ。


「よっこいしょ。これで準備は完了」

 机と二つの椅子、そしてここに来る人間に提案する事に関する資料を机に用意した。

 こう言った机仕事や相手と対話する仕事にもだんだん慣れてきたとはいえ、気は抜けない。

 そろそろ次の方が来る頃だ。

 私は椅子に座り、次の方を待つ。

 来た。

「かわいそうに、あなたは亡くなられたのです。躁鬱病を患い飲んではいけないモノを大量に飲んで命を絶ってしまったのです。」

 この仕事にも慣れてきた。

 話の切り出し方は重要だ。

「そうなんですか・・・」

 自分が死んだのだと自覚している人もいれば、自覚なしにここへ来る人もいる。

 彼は自覚があるはずだ。

 あまりショックは受けてなさそうだ。

 私には自分の死を受け入れているように思える。

 普段ならもう少しゆっくり話を切り出すのだが、自覚があるなら早めに話を切り出していいだろう。

「ここは神の世界。そして私はあなた方人間の言う女神や天使の様な存在です。この場所は生命を終えた方を迎える場所であり、同時に次の生命を与える場でもあります」

 私は雰囲気を出しながら伝える。

「本来なら自ら命を断つのは神の世界の掟として許してはならないのですが、特例も勿論あります。今回は特例です。なので、あなたは新しい人生を与え、生まれ変わることを許されました。」

「そうなんですか・・・」

「あなたにはいくつかの選択肢があります。一つは元の地球にもう一度生まれるという選択肢、もう一つは魔法の存在する世界に生まれるという選択肢です。あなたはこの二つの選択肢のうちどちらかを選ぶことができます」

「そうなんですか・・・」

「もう一度地球に生まれたいですか? それとも別の世界で生まれたいですか?」

「そうなんですか・・・」

 会話が成り立っていない。私はそう思った。

 この人、大丈夫かな?

「ちなみにその世界なのですが強大な力を持つ魔王のような存在がいて人々を脅かしています。もしその世界で生まれるのでしたら、伝説級の装備品や特殊能力などを一つだけあなたに持たせることや付与することが可能です。どうなさいますか?」

「あの、聞いてます?」

「・・・・ヤッホーイ! クソみたいな地球で生まれるなんて真っ平ゴメンだ! 行くなら異世界に決まってる!」

「そ、そうですか。ではこちらの中から装備品や特殊能力を選んで」

 私は最後まで言い終えることはできなかった。なぜなら、彼が。

「この神の世界で手に入れられる装備品や中間、能力、ありとあらゆるもの全てのうち最強の物や人材をくれーーー!!」

 彼が物凄いハイテンションで叫んだからだ。

「で、でしたらこちらなどいかがでしょう」

 私がそう言い、品物を提案しようとした瞬間、私と男性を眩い光が包み込んだ。

 気がついたら私は男性に提案した魔法の存在する世界に降り立っていた。

 そう、これは私がもといた天界に帰還するための物語のプロローグ。

 だったらいいな。


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