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出立

 そんな作戦をパーティ会議で決定した数日後、俺たちは侯爵様の私設騎士団を護衛にして侯爵領に向かうことになった。


「流石は侯爵家の馬車ね伯爵家の馬車とは装飾も比べ物にならないわ」


 ・・・・こいつは本当に。


 人の実家でメイドとして拾ってもらっている冷凍庫の分際で我が家の馬車をバカにするアイシー。


 あれだ。こいつもしかして知力低いんじゃないのか?


 俺は一度もこいつの冒険者カードを見せてもらったことがない。


 今度、冒険者カード見せてもらおう。


「悪かったな寒いことと魔獣しか出てこないことがとりえの貧乏伯爵領で」


 領地の収益が激減したのはこの冷蔵庫の影響である。


 これくらい言い返してもいいだろう。


 今日は出発の日、それなりに家臣たちの見送りやら何やらがきてくれている。


 引き攣った笑顔でそれに俺は答えた。


 見送りしてもらえるのはありがたい。俺もきっと手を振って満面の笑みでそれに答えていただろう。


 ただし、魔獣引き寄せ冷凍庫をこの世界に召喚していなければの話だが。


 さて、そんなことよりも。


「よっこいしょ」


 俺は荷物を馬車に乗せる。


「エイチ様、こんな大きな荷物何が入ってるんですか?」


 アイシーに聞かれるのも納得だ。何せ荷物運搬用の馬車の半分を俺の荷物で埋め尽くしているのだから。


「いざという時のための戦闘用の装備とかそんな感じのものだよ」


「相手は上位モンスターだしね。荷物も乗せたし。俺は出発できるぞ」


「私も出発できます」


「私も騎士団も準備完了しました」


「こちらも準備は整いました」


「それじゃあ、出発しよう」


 俺たちは馬車に乗り込み、出発する。


 父と母、家臣達は心配そうに見送りをしてる。


 まぁ、そりゃそうだ。


 相手は複数の上位モンスターなのだから。


 屋敷を出発して街中を俺達一行の馬車が通り過ぎる時、馬車から外を見ると街に住む人達が見送りをしてくれている。


 まさかここまで人だかりができるとは。


 流石は片田舎、話題がないのだろう。何かイベントか話題のある出来事でも起こったらすぐに人だかりができる。


 アイシーは呑気に窓の外に向かって手を振っている。


 あれ? なんか街の人が不安そうな顔でこちらを見ている。


 身体強化を軽く施し、聴覚の能力を上げる。


「もう領主様の息子さんには会えないのか」


「何せ上位モンスターが複数体いるらしい。超上位モンスターのフェンリルもいるって聞いたぞ」


「決死隊に入隊なさった俺たちの未来の領主様だ」


 ・・・ああぁ、なるほどね俺、死ぬと思われてるのね。


 俺はそっとカーテンを閉めた。


「何で閉めるんですか? せっかく街の人たちが見送りしてくれてるのに」


「いいんです。街の人達は僕達が決死隊だと思ってます。決死隊なんて誰が入るか、魔獣達を全滅させて来てやる」


「え? 決死隊じゃなかったんですか?」


 ロクサーナさんは驚いた表情で俺を見る。


「むしろロクサーナさんは決死隊だと思っていたんですか?」


「そりゃ当然ですよ。相手はフェンリルですよ。それに加えてドラゴンも4体。他の中級魔獣複数体に下級魔獣まで出るんです。国軍だって討伐不可能に決まってるじゃないですか!」


「じゃあ何でそんな決死隊だと思ってたパーティに入ったんですか? 普通は入らないでしょうそんなパーティ」


「それは、仕方がありません。正直に言うと故郷の仇だからです。この国周辺でフェンリルといえば一体か2体ぐらいしかいません。私の故郷はフェンリルに滅ぼされたんです。その敵を撃つ為に冒険者になったんですが、人間1人程度ではフェンリルに勝てるわけありませんから。諦めてはいたんです。それもあってエイチさんのあの破壊魔術を見た時はこれだと思いましたよ。あの力があれば一撃くらいはフェンリルにも入れられると思ったんです」


「ぶほっ!?!?」


 衝撃的なカミングアウトに俺の口から変な声が出た。


「それでロクサーナさんはこの討伐に参加してくださったのですか? 正直に申し上げて、私も侯爵家の人間、自領の防衛は領主一族の勤めとはいえ、私も命の覚悟はしておりました。魔獣に痛ぶられるのは癪ですが、相手が上位モンスター複数体なら仕方がないと半ば諦めていたのです」


 メアリーさんやっぱり痛ぶられるのは癪なんですね。


 何となくあなたがどんな人なのか想像つきましたよはい。


「仕方がない。アイシー窓を開けてくれ」


「いいけど何するの?」


「いいから早くしてくれ。俺の耳は身体強化で遠くの音まで聞こえてる。見送りに来た人達が俺たちのことを決死隊、死にに行くと思って会話してるってことも聞こえてきた。それに討伐に参加する侯爵家の騎士団もそう思ってるみたいだ」


「だからどうするのよ?」


 そう言い窓を開けるアイシー。


「なぁアイシー、この前作った氷の城壁って俺のエクスプロージョンぐらいじゃ壊れないよな?」


「全力のエイチさんの全力のエクスプロージョンなら壊れるのは間違い無いけど、手加減に手加減したエクスプロージョンなら壊れないわ」


「な、あの突然現れた氷の城壁はアイシーさんが作ったのですか?」


「その通りです。エイチさんに言われて作ったんです」


「俺たちのことを死にに行くと思ってる奴らに一発、見せてやらないといけないと思ったな」


「あぁ、そう言うこと。いいわ、広範囲で索敵するからちょっと待って。エイチさん、いけるわ氷の城壁から離れた場所なら人も家畜もいないわ。いるのは魔獣だけ。あと氷の城壁に直撃させちゃダメよ」


「おう!」


 俺は開け放たれた窓に足をかけ外に出て屋根に登る。


 俺たちを死に行く討伐隊だと思っている連中に一ついいものを見せてやろう。


 馬車の屋根に登り仁王立ちして俺は宣言する。


「今この場で宣言させてもらう! 我々は今から上位魔獣フェンリル及びドラゴンの討伐に向かう。ただし決死隊ではない。討伐し必ず帰ってくる!」


 そう高らかに宣言した後、俺は一撃を氷の城壁の外側に向けて撃ち放つ準備に入る。


 普段なら無詠唱で技名だけを口にするが、今回は雰囲気を出す為に詠唱をする。


 体内から膨大な魔力が湧き出てくる。


 俺達決死隊を見送りに来た街の人たちも口を開けて驚いている。


 もちろん手加減した一撃だ。


 ただしその一撃は今までにしてきた手加減よりも遠慮のない一撃だ。


 もちろん人のいる場所、氷の城壁、街に被害が出る範囲内には落とさない。


 それなりに長い詠唱を唱えた俺は完全に人の領域を超えた魔力を完璧に制御下に置いている実感がある。


「エクスプロージョン」


 全てを破壊する魔術を氷の城壁の外側に放った。


 凄まじい光と爆風が街まで届く。


 それを見た街の人達はただ黙っていた。


「もう一度言う。決して死にゆくのではない! 討伐に行くのだ!」


 そう言い残し、俺は馬車の中に戻った。


「おお! あれがドラゴンキラーのエイチ様の一撃! 勝てるぞ! あれなら勝てる! あれならフェンリルも一撃だ!」


 と外から歓声が上がっている!


 騎士団の人達も勝利の可能性を感じて喜びの声をあげている。


 一発撃った甲斐があると言うものだ。


「み、見事な一撃です」とロクサーナさん。


「あれほど理不尽なまでの暴力を見たことがありません」とメアリーさん。


 その様子を横から見ていたアイシーさんは一言。


「ねえ、エイチさん。馬車の屋根に仁王立ちしてあんな宣言して恥ずかしくないの? もし情けなくフェンリルの餌になっちゃったりしたら恥ずかしくないの? もしそんなことになったら後世にまで語り継がれる伯爵家の恥晒しになっちゃうわよ」


 なっ!


「人がせっかく騎士団やら街の人達の士気を上げようとしたのに何だよその言い方」


「本当にそうかしら? あんな大魔術使えるのにドラゴンも倒せない情けのない魔術師って後世に語り継がれて笑いものにされる未来が私には見えるわ! ぷーくすくす」


 確かに、今の一撃だけじゃ騎士団の指揮は上がりきっていないようだ。


 俺の聴覚強化で聞こえてる。あの一撃だけじゃ倒せない。良くて相打ちだって声が騎士団の中から聞こえてる。


「あまり人前に出たくない俺がせっかくこのパーティのお膳立てしてやったのにその言い方はねえだろ」


「そ、そうですよアイシーさん。私も今の一撃を見るまで完全に死にに行くと思ったました」


 とメアリーさんはフォローを入れてくれた。


「あんなちっぽけな火の玉じゃドラゴンどころかトカゲも燃やせないわよ。どうせ街の人達も私達に気を使って勝てる勝てるって言ってくれてるだけでしょう。仕方ないわね、私も一撃見せて本気で討伐する気だと騎士団の人達にみせてくるわ」


 さてはアイシーのやつも聴覚強化してるな。


 騎士団の中から今の一撃だけじゃ倒せないって声が出たことに気付いたんだろう。


 窓から外に出て屋根に登ったアイシー。


「今の一撃は見事だったわ。でも残念あの一撃だけではフェンリルは倒せないわね! でも見ていなさい私の一撃を」


 そう叫ぶと手を高く空に向かって伸ばす。


「ice star」


 巨大な氷のボール、いや気球の数倍の大きさの氷の塊が空に出現して地面に向かって落ちて来る、爆音を出して地面と衝突したそれは俺がエクスプロージョンを撃ち放った地点に見事に重なるように落ちた。


「おお!! 大火力持ちが2人も」


「これは本当に倒せるかも知れない」


 どうやら騎士団の士気も上がったようだ。


 屋根から戻って来たアイシーはどんなもんよと言うドヤ顔をしている。


 聴覚強化で聞こえてくる声の中にもう弱腰に死にに行くと言っている連中はいない。


 がしかし問題が発生した。


「どうよ! これで少しは本気で勝ちに行く気になったかしら!」


「あ、あんな無茶苦茶な火力持ちが2人もしかも疲れた様子さえ御二方にはみられません」


「これは勝てるかも知れません」


 メアリーとロクサーナさんも本気で勝てると思い始めたようだ。


 ただし問題が発生した。


 聴覚強化した俺の耳に外の人たちの声が聞こえてくる。


「もしかして、最近いきなり現れた氷の城壁を作ったのってもしかして」


 バレたかも知れん。


 氷の城壁を造った人物が。



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