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冷凍庫の性能

「そんなこんなで討伐に行くことになりました」


 と恒例とティータイム中にアイシーさんに話をする。


「そこまでの影響が出ているだなんて」


 顔を青くして聞いていたアイシーさん。


 これは完全なる尻拭い討伐、報酬受け取らない理由も納得してもらえてる様だ。


「それは私もついて行ったほうが良さそうですね」


「えっ? ついてくるんですか? って言うか戦うんですか?」


「もちろん戦います。ちなみに得意な魔術は氷系です」


 氷系が得意なのはもちろん知っている。


 もっと言うと何でもかんでも氷漬けにするしか能がないと思っていたくらいだ。戦闘もできるのは知っていたが、あたり一面氷漬けにするとかじゃないよな?


「ちなみにどんな侯爵領では戦い方をしようと思ってるんですか?」


 一応そう聞いてみるが辺り一体を氷漬けにする姿しか思い浮かばない。


「戦い方は氷の槍を前に飛ばすとか氷の剣と氷の盾を作って敵に突撃するとか、あたり一面の敵を氷漬けにするとか氷で城壁を作って敵の進撃を阻止するとか氷の槍の雨を降らせるとかです」


「僕が予想してたより控えめな戦い方ですね。ってあれ? 氷の城壁って言いました?」

「えぇ、氷の城壁ですっ!! 私がどれくらい凄いのかこの機会に教えてあげましょう。伯爵領のこの街の周りの今建設している魔獣対策の城壁程度ならいとも簡単にも作ることが可能です!!! それも魔力さえ注げば溶ける心配さえありませんっ!!! もっというと氷の城壁って普通は冷気を周りに発すると思っているのでしょうが、私が造ればその城壁から冷気が漏れ出て街を冷やすことなんてことはあり得ませんっ! さらにすごいことに、例え私がこの街を離れたとしても、他の誰かが魔力を注げば氷の城壁は崩れることさえありませんから心配する必要さえありません!! どうですか? すごいでしょう」


 と胸を張ってドヤ顔しているアイシーさん。


 この女、今ものすごいこと言ったぞ。


 生態系まで変えて魔獣がこの領地目指して移動してくるのに備えて顔を真っ青にして城壁の建設費捻出していた父とその家臣達の顔を見せてやりたい。


「その氷の城壁、作るのにどれくらいかかります?」


「普通なら城壁の大きさは使う水の量にもよります。まぁこの街くらいであれば半日もかからずに作れると思います。私程の実力者になってくるとまあ水は大した量必要ありません」


 ・・・・半日と言ったぞこの冷蔵庫、いや冷凍庫。


「ちなみに今の街の城壁なんですが、虫食い状態で作られてます。魔獣の出現しやすい場所は城壁は優先的に作られてますが、出現しにくい場所は城壁はまだ造られていないんです。まだ造られてない城壁が完成するまで氷の城壁を作って街の守りを固めるということは可能なんですか?」


「あたりまえでしょう!! もちろん可能です」


「ちなみにもし城壁を作って、アイシーさんをこの街から連れ出して侯爵領に行ったとしても氷の城壁は溶け出さないし冷気も出さない。ということで間違いないんですね?」


「その通りです。どうです、私の聖なる力、少しは知りましたか?」


 ・・・・・・・。


 つまりあれだ、天より降臨せし冷凍庫は魔獣をこの街に引き寄せ、さらに父が顔色を真っ青にして捻出した城壁の建設費用により建造途中の魔獣対策の城壁もこの冷凍庫は格安で造れてしまうということだ。


 俺は昔のことを思い出す。


「わ、我が領地が・・・破産してしまう」


 とは父の言葉だ。


 毎日毎晩、城壁建造費を捻出するために書類仕事との戦いに明け暮れ顔を真っ青にして掠れる様な声で呟いていた父と泣き崩れそうな財務担当者達のことを思い出す。


 結果、一度で多額の城壁建造費は捻出できず。


 毎年可能な限りの予算を割き少しずつ城壁を造るという方向で話がついた。魔獣が多く出る地域を優先して城壁を建造、現在は城壁が虫食い状態で造られまだ完成していない城壁部分には木材を利用したバリケードで固められている。


 これは仕方ない。


 泣く泣く領地の資産を整理し、無駄を省き、美肌効果や滋養効果のある冷水と化した温泉を飲料水として販売して手に入れた資金をもとに何とか建造費を捻出したあの城壁がいとも簡単に作れてしまうと知ったら父と家臣は泣くことだろう。


「アイシーさん、今この街の城壁は虫食い状態です。その部分をアイシーさんの力で城壁が建造されるまでの間、城壁が建てられる建設予定地を覆う様な形で造れませんかね?」


「もちろん可能です。さらにいうなら今作られている城壁より大きなものを作れます」


 胸を張って言う彼女。


「一応言っておきますが、胸を張って言っちゃダメですよ。魔獣引き寄せ冷蔵庫の尻拭いなんですから」


「な、冷凍庫なんて言わないでください。そりゃ私だって城壁建造の話を聞いた時、氷で城壁を勝手に作ろうと思いましたよ。でもそんなことしたら、この世界の人達は私を怪物か何かかと思っちゃいます。そこまでの力を持った氷系統の魔術師なんていないわけですから」


「そりゃそうだ」


「そうそう、だから手出しできなかったんです」


「ただ、一つ聞きたいんですが、真夜中にこっそりと城壁を建造することってできなかったんですか?」


「なっ! その手がありましたか!」


 思いつかなかったのかよ。


「でっ、でも今から建造すればまだ間に合うかと。城壁も未完成ですし」


「ちなみに、今の城壁より一回り二回り大きな城壁って作れます?」


 絶対に無理だろうと思っていることを聞いてみた。


 さすがに天より降臨せし聖なる冷凍庫でも不可能だろう。


「簡単です! 城壁の虫食い部分を氷で造るより、今建造中の城壁丸ごと覆うほうが簡単にできます」


 さすがは天より降臨せし冷凍庫、簡単だと言い切った。


「では僕が侯爵領に行っている間、この街の防衛のために氷で城壁を作って防衛を固めましょう。それとパーティメンバーが欲しいのでアイシーさんも侯爵領についてきてください」


「承知致しました」


「あと他にもパーティメンバーが欲しいところではあります。できれば後衛のデバフとバフに特化したヒーラーとかがいい。ギルドに行ってパーティメンバーを募りましょう」


 そうしてギルドへとやってきてはみたものの。


「誰も参加してくれませんね」


「そりゃそうだ。報酬は領地防衛の費用にするって言っちゃってるし。今回の討伐で得られるものといえば名誉くらいなもんだ。そして冒険者は名誉にあまり興味がない。どちらかというと討伐報酬を得てその後はそれなりの暮らしをするっていうのが普通の冒険者の思考回路だ。さらに言うと討伐対象はドラゴンやフェンリルの上位モンスターだ。募集に来ないのも頷ける」


 どうしたものかと2人でテーブルに着き、飲み物を注文した。


「で、どうするよ」


「どうしようも何もヒーラーがいないんじゃ。ポーション頼みで回復するしかないんじゃない。ポーション買っときましょうよ」


「それもそうだな。デバフで相手を弱らせられないのは痛手だが仕方がなさそうだ」


「ちなみに伯爵領から正規兵って出せないんですか? 一応領主の息子なわけですし」


「相手は上位モンスターだぞ、いくら訓練を受けた正規兵でも戦力にならない。せめて後ろに隠れてヒーラーとして動ける人材が正規兵に居れば話は違ったんだけど、そもそもこの領地はもともと食料生産地の側面が強かったんだ。上位モンスター相手に戦える正規兵なんて居ない。それに侯爵領の騎士団の中にも上位モンスター相手に戦えるような戦力なんて殆どいない」


 そう、今回派遣される正規兵、もっとわかりやすく言うと家臣の騎士の中にヒーラーはいないわけじゃないが、後衛として援護するようなヒーラーではなく。前線で戦った兵士が傷付き後方へと搬送されそこで治療を行うような医者みたいな役回りのヒーラーだ。


 そんな医者みたいなヒーラーが戦闘の前線で後衛として戦うなんて無理ゲーだ。


「あの、ちょっとよろしいでしょうか伯爵様」


 話しかけてきたのはこの前に大爆発する魔術を教えてくれと頼み込んできた女の子だ。


「伯爵じゃなくて伯爵の息子だよ」


 と訂正を加えておく。


「し、失礼しました。以前、破壊魔法を教えていただいた時はありがとうございました。それに初めて会った当時は高貴な方だとは知りもせずに失礼な話し方をしてしまい申し訳ありません」


「気にしなくて構いません。それにお互いに名前も教えてなかったし。今日は半分は冒険者として生活しているわけでもあるし、楽にしてもらっていい。ところであの魔術、会得はできたのかな?」


「お恥ずかしい話、会得はまだできていないのですが、コツは掴めてきたかと思います」


「そう、そりゃよかった。でも会得できたとしても街中や人の多いところでは使わないように、何でもかんでも破壊しちゃうからね」


「それなんですが、直接教えて頂きたいのですがよろしいでしょうか? お忙しいところ恐縮ですが依然渡された使い方について書かれたメモ書きだけでは理解しきれない部分がありまして」


 そう、俺はこの女性に直接あの魔術を教えてはいない。一度か二度見せて、その時に使い方に関するメモ書きというより俺の手書きの本を渡したのだ。


「それは構わないけど、俺たち今パーティメンバーを探してるんだ。遠征して討伐に行かないといけない。それが終わって無事に帰って来れたらでもいいかな?」


 事情はもう街の人にも伝わっているだろう。何せこんな辺境の伯爵の息子とは言え、貴族が上位モンスターを討伐しに行くのだから話が広まらない訳がない。


 もっと言うと、危険な討伐だと知られているから誰もパーティに参加してくれない訳だ。


「その話についてなんです」


「もしよかったら、私をヒーラーとして雇ってくれませんか? もちろん後衛としてのヒーラーです」


「それはありがたいんだけど、報酬はそんなに多くならないと思うよ。もしかしたら赤字かも知れない」


「報酬に関してもお金としてではなく、例の破壊魔術の手解きと他の魔術を教えて頂くという条件でどうでしょうか? 討伐に向かう際と帰還の際の費用は侯爵様持ちと聞いております。私にとっては今回は金銭的な報酬より魔術の手解きの方が余程価値があります」


「そんなことでヒーラーが手に入るなら願ったり叶ったりだよ。でも、ヒーラーとしての能力ってどれぐらいのものなのか見せてもらってもいいかな。適当に僕にバフをかけてもらってもいいかな?」


「はいでは身体強化をかけます」


 そう言って彼女は俺に身体強化を施す。


 なんだこの程度かというのが俺の感想だ。


 何せ自分で自分に身体強化をかけているのだから、その時ほどの強化はされてはいない。


 がしかし、俺から見るとこの身体強化は普段俺が使っているチートじみた身体強化程ではないが、他の冒険者や棋士から見ればかなり有能な分類だ。


「回復もできるんですか?」


「もちろんです」


 俺はナイフで自分の体に少しだけ傷をつけた。


「ではそれもお願いする」


「はい」


 見事に傷が癒やされていく。


「いいんじゃない。後衛のヒーラーはこの女性で」


 とアイシーさん。


「じゃあ一旦、パーティの戦力見るためにちょっとした討伐でも行ってみようか」




 俺と2人は後日、戦力確認のために討伐に向かうことになった。



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