この婚約の裏側
この結婚には裏があるな。
そう思った。
明日にでも結婚して領地に来て欲しいと言う一言を聞いてそう思った。
これはお断り案件だと思いながら、自分のしでかしたスタンピードの討伐という尻拭いから帰宅した俺はこの結婚の裏を探ろうと父の書斎に行く。
「お父さん、討伐から帰りました」
「おぉ、よくやってくれた。お前は我が家の誇りだ!」
やめてくれー! 褒め言葉が耳に痛い!
「褒められて嬉しいのですが、討伐は日頃から行なっているので、その延長線にすぎません」
「そうか、それに冒険者としての報酬は受け取らないと小耳に挟んだが本当か?」
もう話がここまで届いてる。
「今回は貴族として戦ったので報酬は必要ないです。僕が受け取るはずの報酬は城壁の修理や他の冒険者達の報酬に上乗せする形でギルドの職員さんに話してきました」
俺が魔獣を引き寄せたなんて知られたら、領民が暴動を起こしかねない。
何せ領主の息子だ。
そんな立場の人間が魔獣を引き寄せ街を危機に晒したと知られるのはまずい。
第一自分の尻拭いなわけだし。
「早速で悪いんだが、少し話がある。メアリーさんも呼んでもらえるかな」
そう言われてメイドがメアリー令嬢を呼びに行く。
「伯爵様お待たせいたしました」
そう言いメアリー令嬢は部屋の中へ入ってきた。
「ちょっと重要な話だ。侯爵令嬢のメアリー様との婚約と繋がってくる話でもあるんだが、早速公爵領に行ってはもらえないか?」
おや? 早速と来た。
これは絶対に何かある。
「詳しく話を聞いてもよろしいでしょうか?」
「もちろんだ。侯爵様の領地は元々は魔獣の生息域の近くだ。それを討伐して領民は素材を売ったり加工したりして領地の経済は繁栄していた。ただし10年ほど前まではの話だ。だが何故かこの10年は侯爵領にいた魔獣が大移動してこちらの我が領地に移動してきていることは知っているだろう」
「もちろん知っています」
知っていて当然だ。何せ尻拭いとばかりに俺が討伐しに行っているのだから。
「ただ、問題はそれだけではない」
「それだけではないというと?」
「実はこの領地から侯爵領へ向かいさらに侯爵領の更に先にいる魔獣がこちら側へと移動してきている様なんだ」
「それは厄介ですね」
絶対に元凶は冷蔵庫女だ。
「それでその移動している魔獣の討伐なのだが、侯爵領には元々魔獣の生息も含まれる。それらを討伐する戦力はあった。のだが今回侯爵領のさらに向こう側にある魔獣の人の手のついていない魔獣の生息域から侯爵領へと移動してきている魔獣というのがドラゴンやフェンリルといったつまりは上位魔獣だ。侯爵様も自領内での討伐は騎士出身の貴族だけあってその家臣達は並みの魔獣なら討伐可能だが、相手が上位種となると話が変わってくる。それでお前の出番というわけだ。ドラゴンを一撃で蹴散らした実力を発揮して欲しい」
な、つまりアイシーこと冷蔵庫さんの影響は侯爵領の向こう側まで出ているということだ。
これはあれだ。尻拭い案件だ。
いや、報酬は貰った上でこの街の防衛戦力を高める為に城壁の強化や修復にその報酬を使うのもありか。
ん、でもちょっと待って?
聞き逃しそうになったけど、ドラゴンやフェンリルといった上位魔獣って言わなかったか?
「つまり、侯爵領の防衛戦力として婿を取ると」
「それもある。それに加えて我が領地は元々は食糧生産地でもある。今となっては魔獣との戦いだらけだが、我が領地の領民は農業や食糧生産に秀でた人達だ。侯爵様と手を組み。魔獣討伐のノウハウを侯爵様からいただき、農業に関するノウハウを我が領地から侯爵領に提供する。というのが侯爵様と私の考えだ」
つまりは家の繋がりがほしいということか。
厄介な時代に産まれたもんだ。
でも、上位魔獣のドラゴンやフェンリルなどってまさか複数体の上位魔獣、モンスターなんじゃ?
「ちなみになのですが、上位魔獣って大体どれくらいの数の相手何でしょうか?」
「ドラゴン4体、フェンリル一体、その他中級モンスターが確認されているだけで100体程、それに加えてそれら上位モンスター中級モンスターに引き連れられているのか上位モンスターから逃げているのかはわからんが群れをなして侯爵領に向かっている下級モンスターが調査不能な程の魔獣の大軍勢だ。おそらく魔獣達の移動方向から考えて向かっている先は」
なっ!
俺はそれを聞いて固まった。
父の伯爵領に隣接する侯爵領は魔獣と生息域、そしてさらに向こう側は人の手さえつけられない程の大魔獣の生息域。
その魔獣達が群れをなして侯爵領に移動して来ている。
移動している方向から考えて、魔獣の目指している場所はこの伯爵領。
つまりアイシーである。
恐るべき魔獣引き寄せ能力。
「結婚はお断りします。食糧生産のノウハウと魔獣討伐のノウハウでしたら、婚姻無しで提供し合えば良いのではないですか。それと侯爵領の魔獣に関してですが、なぜ私が婚約して討伐に行かねばならないんですか」
「それはまぁ確かにそのとおりではあるのだが、いや侯爵様は騎士の家系だそれなりの実力のある人物でなければ娘の結婚は認めないと言っているのだ」
家の繋がりが欲しいのは貴族としては当然の発想だが、なぜそんな危険な場所に婿入りしなければならないんだ。
「それは侯爵様のお考えでしょう」
「それが貴族という物だ」
ふむ困った。どうしよう。
「婚姻に関してはメアリーさんとお互いに友人から始めるとして、侯爵領に向かってきている上位種の魔獣は討伐に参加しましょう。それと上位種ともなるとそれなりの準備や装備が必要です。その準備資金を出してくださるのなら婚約せずとも討伐に行きましょう。あと、冒険者として討伐に赴くので報酬は頂きます。報酬の使い道はこの街の城壁の強化などでどうでしょう。それと討伐魔獣ですがフェンリルやドラゴンといった上位種と聞きましたが、何体ぐらいなんでしょうか? 上位種の数が多ければそれだけ報酬は多くなります。城壁の強化にも今回の討伐で得た報酬を使うつもりではいますが、侯爵領を食糧生産地に変えるというなら、それなりに資金が必要なはずです。城壁の強化などに報酬を使い余ったお金があったのなら侯爵領の農地開拓にも資金を回しましょう」
父はそんなことまでやってくれるのか、という驚いた顔をしている。
メアリーさんも同じように驚いている。
「エイチ殿、我が領地のために討伐報酬を使われてもよろしいのですか? あなたの受け取るべき報酬ですよ」
言えない。魔獣引き寄せ冷蔵庫をこの世に召喚して尻拭いやってるなんて言えない。
「い、いいんです」
こうして侯爵領へ討伐へ赴くことが決定した。




