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討伐任務

 朝目が覚めるとなかなかに気持ちよくものすごい早起きできた。


 起きているのは俺とアイシーさんだけだ。


 昨日、いきなり決闘を挑まれ、戦い、婚約を誤魔化して疲れたからだろう。


 今日の朝は清々しいまでに晴れている。


 実に気持ちよく朝食までの時間をティータイムとして過ごしている。


「それにしてもエイチさん。気持ちのいい朝ですね」


「そだねー」


「二人っきりなんでいろいろ話もできますし」


「そだねー」


「でもいきなり隣の侯爵領の領主様の令嬢さんが決闘挑みに来るわ婚約者だわ大変ですね貴族は」


「どこかの魔物引き寄せ体質のなんでも氷漬けにしてしまう人間冷蔵庫の影響で産業が破壊されて、一筋残された再興の希望も誰かに引き寄せられ俺に目の前で討伐され、せめて一矢報いるためにと決闘を挑みに来た親公認の婚約者さん」


 そんな中、いきなり警報が鳴った。


「魔獣です! 緊急の魔獣の討伐です!」


 侯爵令嬢が我が家に滞在することになった次の日、いきなり朝から緊急クエストが発生した。


 飛び起き、慌てふためく父。


 父は急いでギルド職員から話を聞き始めた。


「それが魔獣の大量発生です。この規模の大量発生は前例がありません!」


 市街地を取り囲む様に建てられた城壁に向かって大量発生した魔獣の群れが向かっているらしい。


 ただし一つだけ問題がある。


 この城壁はまだ建設途中なのである。


 そりゃそうだ。


 俺が生まれる前まで平和な農村地帯だったのだから、城壁の建設なんて考えてもいなかった。


 しかし、天より食糧貯蔵用の冷蔵庫が降臨なさった。しかも、食糧になる魔獣まで引き寄せると言うおまけ付きの冷蔵庫である。


 協会職員からの連絡を聞いて俺は即座に討伐の準備をする。


 ということではない。


 連絡が来たのはこの人、メアリーさんにだ。


 討伐対象は中級モンスター、ブルーベアの大群。


 大群ということで領主である父の息子の俺のところにまで話が来てはいるが、俺は魔法職つまりは後衛だ。


 よって役に立てることは少ないと思いますと全面的には強力はできないと言ってはいる。


 まぁ、1人で魔獣狩りしてたくらいだからギルド職員も俺の実力は知っている。


 そして討伐討伐と歓喜の声を上げているのはというと。


「ブルーベアの大群! これは是非行かねば!」


 目を爛々と輝かせたメアリーさんだ。


 顔が赤いのはきっと隣の領地とは言え領民の生活が脅かされているからだろう。狩れば素材になり

金になる。


 騎士の血と侯爵家の血が騒いでいるのだきっと。


 隣にいるアイシーさんが耳打ちしてくる。


「メアリー令嬢、少し顔が熱っている気がするのですが気のせいでしょうか? よっぽど討伐したくて仕方がないって雰囲気を感じます。あれは相当に自分の冒険者としての腕前に自信があるように見えるんですが」


「騎士の一族なんだから戦闘訓練くらいは受けてるんだろう」


 二人で少しばかりまじめな雰囲気で話をしているが、気になることをアイシーさんは行ってきた。


「でも、あんなに顔を赤らめて嬉々として討伐に行こうとするでしょうか?」


 ふむ。確かに気になる。


「魔獣引き寄せ冷蔵庫のおかげで領地も経済壊滅してるみたいだし、前衛で討伐しまくって領地復興のために素材集めをし金を稼ぐのだろう。一応、婚約者みたいだし念のために見に行くとしましょう。侯爵家令嬢になにかがあったら問題になりそうな気もするし」


 メアリーさんの様子を見るために俺も魔法職として後衛に出るだけではなく。普段の討伐のように

最前線で討伐するか。


 そう思い、俺は武装を前衛用を身に着け討伐へ赴くことにする。様子も見るために顔を隠す道具も

身に着けていこう。


 という経緯で今この討伐に参加しているわけなのだが。


 身体強化の一種で聴覚を強化し地獄耳と化している俺とアイシーさんの耳に最前線で戦う人たちの声さえ聞こえてくる。


「おらおらおらおらー! 泣け叫べー!」


 と叫び声をあげ、目を爛々と輝かせて討伐する俺の婚約者が最前線で暴虐の限りを尽くしている。


「あれはいったい」


「エイチさんの婚約者さんって戦闘狂か何かでしょうか?」


 人の婚約者をどんな目で見ているのか。


 と言いたいが、俺も同じ目で見ている。


「どこからどう見ても喜んで戦ってるようですね」


 と、冷蔵庫。


「あれを喜んで戦っていると言えるのか? どちらかと言うと別の言い方の方が相応しいような」


 そう答える俺。


 どこからどう考えてもあれは。


「痛ぶってますねー。ドSかなにかなんでしょうか?」


 見ればわかるメアリーさんの持っているあの剣、かなりの切れ味だ。


 並の魔獣や魔族程度なら簡単に両断できる。硬い鎧のような皮膚を持つ相手であったとしてもそれなりに深い傷くらいなら簡単にあたえることもできるだろう。


 決闘の時に何せ俺の魔術で出現させた檻、あの檻はかなりの強度があるにも関わらず。剣でつけられた傷が無数にあった。しかも切断されそうな深い傷だらけだった。

 そしていま今、彼女の状況はと言うと


「あの人、何体もの中級魔獣を相手に一歩も引かずにたった1人でたたかってるぞ」


「騎士の鑑だ! 俺たち冒険者も負けられない! 騎士様の援護に向かうぞ!」


「うおー!」


 冒険者達は雄叫びとともにメアリーさんの元へと駆けつけようとしている。


 魔獣に斬りかかろうとした冒険者達に対してメアリーさんは一喝。


「邪魔するなー! 私の享楽の時間を奪おうと。じゃなかった。危険だ下がれー!」


 聞こえた。聴覚強化で地獄耳になってる俺とアイシーさんには聞こえたー。享楽って聞こえたー。「俺達も冒険者だ。いくら騎士様といえど1人に任せてはおけない! 加勢する!」


 そう言い、さらに前進する冒険者達。


「ダメだ! いかに冒険者と言えど領民は領民! それを守るのが騎士だ!」


「おお! 隣の領地の領主様の御令嬢が俺達を守ってくださってる! まさに騎士の鑑! 真の騎士だ!」


「それに引き換え俺達の領主様の息子さんはいったいどこで油売ってるんだ! 見かけてさえいねえぞ!」


 あれ? 俺の株価が下がってない? さっきから認識阻害のローブつけて遠距離から援護してるが、認識阻害の効果で俺の存在は気づかれていない。


「決闘を行ったが彼の戦い方は中々にグッとくるものが。じゃなかった。彼は魔術師どこからか援護してくださっている!」


 メアリーさん今何か言いかけだぞ。


「そんなことより折角の享楽の時間だ。私はもっと前に出る」


 そう言い残し、さらに前に出る婚約者さん。


「後ろにも我らが領主様の息子さんはいなかった。ドラゴン討伐もどうせでまかせだろう。騎士様に続けー」


 これはヤバイ、俺の偉業がでまかせにされそうになってる。


「どうします? このままじゃエイチさんの評価が下がっちゃいますけど、ローブ脱ぎ捨てて戦った方が良いんじゃないですか?」


 隣にいるアイシーさんに促される。



「確かに前線に出た方がよさそうだ。いやでも待てよ。ここで、俺が出なかったらドラゴン討伐できても領民の為に戦わない跡取り息子として侯爵様も婚約破棄の方向で考えてくれるんじゃ」


「何言ってるんですか? ドラゴン討伐も成し得た男が戦わなかったら、ドラゴン討伐する実力あるのに自領が襲われた時に戦わない援護もしないクソ跡取り息子と思われて領民が暴動起こしますよ」


 婚約者破棄の方向性を模索する俺にアイシーさんはくぎを刺してきた。


「な、それは勘弁いただきたい。仕方がないので行ってきます。アイシーさん、このローブを預かっ

ておいて下さい。それと安全なところにいて下さいね」


 仕方ないローブの内側は前衛用の装備だ。俺も前に出て戦おう。


 俺は認識阻害のローブを脱ぎ捨てて、今まで密かに魔獣狩りをやっていた時に使用している前衛用の装備を持ち出す。


 左手に杖、右手に剣だ。


 最前線はメアリーさんが引き受けてくれている。


 俺はメアリーさんの撃ち漏らしてこちらに向かってくる魔獣を討伐しよう。


 そう思い全力で身体強化を行い前に踏み出し、アイシーさんを置き去りにしてメアリーさんのいる最前線ではないものの前線まで一瞬で移動したところ。


 あれ? メアリーさん、孤立してない?



 と言うより前に出過ぎて囲まれてるんじゃ?


 メアリーさんの騎士団はどこにいる?


 メアリーさんから遥かに離れた地点にいる。


 お下がり下さいメアリー様と騎士団が叫んでいる。


「しまったメアリー様の悪い癖が」


 と騎士団から声が聞こえてきた。



 悪い癖とは?


 完全にメアリーさんは囲まれてる。


 これはヤバイ、前衛よりさらに先に電撃戦の如く踏み込んでいるメアリーさんの周りに仲間はいない。


 このままじゃメアリーさんがやられる。



「仕方がないそれなりに本気で行くか!」


 俺も電撃戦確定だ。



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