2.
カンナさんは専従者給与でぇ
百合子さんは大手化粧品会社でバリバリ稼いでるから扶養には入らなくてぇ
あ、二人とも学資保険に入ってるんだ。ってことは普通に人間の学校に通うってこと?
イデコとかふるさと納税とか、いろいろ出てくんな。
……すごい、なんか一般の人間より多いぞ、やってることが。
「節税とかはあんまり興味ないんだけどね、ゆりちゃんが返礼品ほしいっていうから」
ついたくさんやっちゃった、てへ、と笑う銀さん。
ただ、金額が大きい。控除できる金額には限度があることをご説明。
それを伝えると、気を付けなきゃ、と銀さん。
私のうんヶ月ぶんのお給料手取り分をふるさと納税に……なんだか悲しくなった。
「カンナがなぁ、投資やってみてぇってな。ヒカゼイだからとかなんとか言って」
私もいつも年末調整で不足になっているから、なにかしたいのだけど、結局なにもしていない。
ふるさと納税は少し控除になったとしても、本当に返礼品が得なのかはよくわからないし、いまいちピンとこないだよね。
投資は委託するってのは嫌だ。それなら自分で口座を開設すりゃいいじゃん、ってはなしだけど、そこまで手が出ない。行動力がないってのもあるけど、損するのが怖いってのも大きい。
とにかくまぁ、この人たちは、人間のすることに寄り添おうとする一方、楽しんでいる様子もあって、なんだか結果的に○○控除というものがたくさん出るけど限度額以上にお金をかけすぎている印象。
それでも事業で利益を出しているからこそ納税になっているのはすごい。繁盛していますな。
申告するのは今回が初めて。だけど今までもやってきましたーってことになっている。繰越損金もなく、安定した収入を得ている。いいことだ。まだ幼いお子さんがいるご家庭には安心だ。
「なんか不思議です、こうしてお二人の確定申告するの」
「なんでぇ?」
「人間じゃないからか?」
「人とか妖怪とか、そういうのじゃないんですけど、なんというか、感慨深い? っていうのでしょうか……」
不思議なご縁でここまでやってきた。まだ一年経っていないのに、もう一年の締めの作業を行っているだなんて。
「まだ若いのに何言ってんだ」
「色々あったからねぇ、うんうん」
雷と風太が突然現れ、百合子さんとカンナさんは喧嘩し、屋台でお二人には励まされ。
他にももろもろ。
ぐるぐる巻き戻したテープを再生すると、あの日からの出来事がたくさん浮かぶ。おかげで、楽しいと思える余裕が、ほんのちょっと生まれたこともあった。
「最後まできちっとやらせていただきますね」
「最後ってぇ、もう新しい一年始まってんぞ」
「これからもよろしくだよぉ」
個人事業主さんは、一月一日から十二月三十一日までの収入で所得税を計算する。収入がお給料だけである私と同じで、年末調整と似たようなものかもしれない。
だからもう、新しい一年というのは確かに始まっている。担当を外されることのないよう、へましないよう、そしてこの人たちの力になれるよう、まずは初じゃないけど初の申告を終わらせよう。
「金額確定したら、ご連絡しますね」
「待ってま~す」
「おう」
お二人が帰ると、応接室はさみしくなった。
「感慨深いってのを、やりがいとは思わないのかなぁ?」
「えりちゃんにとっちゃぁちょいと違うんだろうな」
「だって一年のまとめをするんだよ。終わった時の達成感とかさ」
「誰かあそこの人間が、少しでも褒めたり労ったりしてやりゃぁそっちに考えがいくかもな」
「難しいねぇ」
「全部終わったあかつきにゃぁ俺たちが思いっきりお礼をしてやろうぜ」
「あけぼのじゃなくて、あかつき税理士事務所さんだったらなぁ」
「お、うまい!」
「お礼にはコラボ商品作ってみるとか?」
「そっちのほうがえりちゃんのほうより難しいだろ」
こっちの事情があるからな、と大人の二人は小さく笑ったのだった。