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あけぼの税理士事務所のあやかし担当  作者: ぬりえ
らいとからっかぜ
8/199

1.

 大きくてずっしりと思い鍵をこっそりとしまい、


「ただいま戻りました」


 出先から送ってもらった(てい)を装い所内へ。

 出所時にホワイトボードに書いた出先と帰所時刻を消して、預かった資料を所長の机の上へ。メモ書きすれば任務完了だ。


 認定こども園「鬼押出し園」の園長先生と理事長先生のもと、地獄から帰ったところだ。

 二人は、所長と副所長の二人が外出していて、かつ私に外出予定がなく、受付当番でもお茶当番でもない日に突然電話をかけてきて、「今からおいで」と呼び出すのだ。

 鬼って千里眼でも持ってるの? それって天狗じゃなかった?

 私のことを考えて日を選んでくれているのは嬉しいけど、やっぱりそこらへんは気になる。


 そっちに職員が行くついでに拾う、という理由付けと、往復時間と向こうでのお話し時間とを考えれば、二時間くらいはけっこう簡単に過ぎる。

 でも実際は一瞬で移動、最初の三十分ほど――そんなにないかも――は仕事の話を聞いた後、おやつを食べながらのおしゃべりタイム。本日のおやつは原嶋屋の焼きまんじゅう! 幸せいっぱいおなかもいっぱいで帰ってきた! ありがとうございます!

 人間の社会についてやたら聞かれるけど、私には答えられないことのほうがずっと多い。お役に立てているかは不明。すみません。


 これじゃただの給料ドロボーだよなぁ。

 いや、私はいつもそうだし、今さら変わらないか……

 鬼の先生たちとのおしゃべりはとっても楽しいからよし。


「機会があったら子供たちに会わせてやっかんな」


 園長先生のお言葉に、二つの意味でどきどきだ。

 鬼の先生方との連絡係になったとはいえ、それ以外の仕事内容は変わらない。ひたすらパソコンの画面に向かい続ける。


 繁忙期である三月決算の時期は越えた。初年を除けば二回目。慣れてきたとは思う。だからこそ気を引き締めて、ミスのないようにせねば。


 沖さんと私の担当する関与先で三月決算のところは、延長企業を含めて八社。残業はそこそこあった。来年はもっと減らしたいな。目指せ、ノー、残業!

 六月に入り、だんだんと忙しさが薄らいでいく。どこの会社さんも、すべて納付書渡して資料も整えたし、できるところまでは終わっている、……と思う。


 ただ、延長しているところもある。延長って、原則の申告期限を一月先にしているんだ。申告を延長していても見込納付の納付期限は変わらないから、五月のうちに決算の準備は済んでいるけれど申告はまだだし、そういったところは大きな会社が多いから、まだほんのちょっぴり、忙しさが薄らいではいても忙しいかんじは気持ちの面で残っていたりする。申告延ばしていいなら納付期限も同じく延ばしてくれればいいじゃん!





 そんなある日のこと。


「八幡さん、新規のお客様のアポ受けた?」


 今日の受付当番、日向さんから尋ねられた。小柄でかわいらしい女性の先輩だ。川が違うから話す機会は少ない。だから話しかけられると、なにかやらかしたのではないかとつい構えちゃうんだよね。


「いえ……受けていませんが」

「そう? なんかね、八幡さんをお願いしますって、女性が二人来てるの」


 身に覚えがない。


「とりあえず応対してもらってもいい?」

「はい」


 入り口のカウンターに行ってみる。


「いらっしゃいませ。(わたくし)が八幡です」


 一人の女性はブランド物っぽいしゃきっとしたベージュのスーツをばっちり着こなした美人さん。

 髪型、化粧、ハイヒール、頭から足の先まで完璧なばりばり仕事人女性という印象。きりっとした目元がすきのないかんじ。


 もう一人は、清楚な和風の仕事着を来た女性。会社員というより、飲食店か旅館の従業員を思わせる。

 おっとりとした表情は、誰をも安心させる親しみやすさを含んでいるけど、身なりと雰囲気はてきぱき働く、清潔感のある印象。


 色々な面で正反対のこのお二方。一緒にご来所されたんだから同じ会社の人間かと思いきや、二人の間にはぴりぴりと火花が走っている。


 なんで?!


 薄らいできているはずの今の事務所の雰囲気を、一か月前に戻してくれちゃいそう!


「あらぁ狸塚(まみづか)さん、偶然ね。それにしても、いつもこざっぱりして、色気がなさすぎるんじゃなくて?」

「本当、どうしてこんなところでもお会いしてしまうんでしょうか。狐坂(こさか)さんこそ、ちょっと化粧が濃すぎるんじゃありませんか?」


 うふふふ、おほほほ、と笑っているのに火花がぱちぱちしている。

 女の人って怖い……、って私も一応女か。

 戦線離脱したいがそうもいかない。


 どなたかわからないけど、わかることを整理しよう。

 まずは、このお二方は全く別の要件で、たまたまうちで居合わせた、とても仲の悪い人同士ということ。

 そして、私の知らない人、ということだ。


 なぜに私を呼んだんだ?


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