2.
十二月、最盛期になるのはえりの事務所の年末調整だけではない。
この時期、だるまの生産が最盛期を迎える。
「おおーっ、こんなふうに作るんだぁ」
「おかおができてく!」
流れるように筆をすべらせる職人の姿を見て、雷、風太たちは歓声を上げた。雪は寒い季節になったからか、普段は表情の変化の乏しい目を真ん丸にしている。梅子と桃子は繁盛しても怠けず努力を続けるこの製造者さんの工房が居心地良いらしい。顔のまわりにお花が咲いている。
本日、子ども園「鬼押出し園」のだるまを買いにやってきた。毎年、頼んでいるのは「鶴亀工房」だ。
だるまといえば、有名なのは少林山。
鶴のまゆに亀のひげが特徴のこのだるまは、縁起物として有名だ。
少林山のお寺には、お焚き上げをするだるまさんが山のように積まれる。名入れの部分には、テレビで見たり聞いたりしたことのある名前があったりする。
「だるま、買いに行くべぇ」
いつも頼んでいるところへ行こうとしたら、たまたま雪がいて、珍しく一緒に行きたいと自分から言い出した。寒くなって活発になってきているのかもしれない。
「次の休みだが、いいんか?」
雪はこくん、とうなずいた。
雪ならあそこに行っても問題ない。
というわけでさぁ行くかと思った当日、
「ありゃ、顔が四つばかし増えてねぇか」
話していないはずの四人も行く気満々で控えていたのだ。雪が興奮して話してしまったのかもしれない。
忙しい時季に大勢の子どもが行ったら邪魔になるだろうと、雪以外には言わないでおいたのに、こうなってしまっては置いていけない。
「仕方ねぇ、この面子ならよしとすっか」
「おーか騒いだらつまみだすぞ」
というわけで、鶴亀工房に、集まった全員でやってきたところだ。
生地作りと色点けまでは終わっただるまがたくさん並べられ、顔を描いてもらうのを待っている。
顔を描いているのは二人の御老人。
一人はまゆを描いている女性、おばあちゃん。するりとひょろ長い体つき。
もう一つはひげを描いている男性、小柄だけどがっちりとした体つきのおじいちゃんだ。
「ほえ~、分担するんだね」
梅子の言葉に、
「ここはな」
と付け加えておく。桃子と二人の頭の上にはてながぽんと出た。
するすると慣れた手つきで顔描きが進んでいく。集中しているのが伝わるのか、感想は出ても声をかけたり騒いだりすることはせずに見学している。
「すごく早い」
「なのにまちがわないね」
「手が機械みたい……えっ」
「くち!」
「くちばし?!」
そうそう、だから連れて来たのは妖怪だけなんさ。
女性は鶴の姿となり、くちばしに器用に筆をはさんで、男性は亀の姿で口に筆をくわえている。
「集中しすぎるとなぁ、変化がとけちまうんだ」
もともと人間の出入りすることができないところにこの工房はある。千年、万年生きる人生大ベテランの二人は、人前での変化は完璧であってもここでは別の話。仕事優先なのだ。
「もうすぐあと二人も帰ってくるだろう。そしたらうちの受け取ってけえるぞ」
あとの二人というのは、この二人の旦那さんと奥さんだ。そちらは今販売のほうにまわっている。雷と風太の親のように、妖怪のなかにも人間と同じように働いたり店を出したりするものはいる。そこからの注文も多いのだ。
妖怪も縁起物とか気にするんだ、というのをあとからえりに尋ねられることになるが、妖怪だって生きている。安全や福を願ってもおかしいことなど、ひとつもない。
あとはだるま市に出すための準備。人数四人でまわしているこの工房のだるまは、そこまで多くは生産できない。しかし効果は絶大のため、大人気。
そりゃそうだいな、本物の鶴と亀が作ってんだから。