1.
おなじみの黄色いバスが、山を登っていく。
そのバスからは、目的地はいまかいまかと窓の外を見つめる子供たち。
今日は、年中さんの秋の遠足だ。
赤鬼で一本角の園長と青鬼二本角の理事長は、目をキラキラ輝かせるこどもたちを見て目を細める。
「ほうれ、もうすぐ着くから、しっかり座ってりぃ」
景色は紅い。
紅葉の季節、真っ最中。見事に赤く染まった葉が、子供たちの頬も染めていく。
「いいか、いっちゃんは神社のお参りだ。神様にご挨拶すんだぞ」
「「はーい」」
黄色のバスから降りると、そこには「妙義神社」と書かれた石があった。
今回の遠足の目的地は、妙義山。紅葉で有名なところだ。
「本殿までゆっくりでいいかんなー」
はりきって進んでいく子供たちの背中に向かって声をかけるも、その背中はどんどん小さくなっていく。
「おれたちも行くべかの」
「そっさな」
全員バスから降りたことを確認し、鬼たちも進む。
ぐんぐん離れていく子供たちは、さして気にならない。
周囲に迷惑をかけないようにきっちり言いつけてあるし、子供たちは先生を怒らせると雷が落ちて涙がちょちょぎれる程度ではすまないほど怖いことを知っている。そのへんの心配はない。
それに、すぐに集合することになるだろうから。
歩いていけば、途中で子供たちを追い抜くことになる。いくら子供で元気いっぱいだとはいえ、体力は大人と比べて雲泥の差がある。
そう、妙技神社の本殿への階段は、けっこうきついのだ。
ふぅふぅ、と途中で呼吸を整える園児に「先行くぞー」と伝えながら抜いていく。
あとから負けじと走ってくる子もいれば、自分のペースで上ってくる子もいる。階段の数を数えながらくる子もいる。それぞれあって、面白い。
「あいつらがいねぇな」
「もうついてるかもしれんな」
さて、本殿に到着。立派な彫刻の本殿は、国の重要文化財。
階段の下を見ると、ぽつぽつと園児の姿が見える。一緒に真っ赤に染まった紅葉。美しい景色だ。
「いいながめだいなぁ」
園児たちの護衛ならぬ監視は、とある伝手に依頼済み。こうして景色を楽しめるのは嬉しい。
園長と理事長はお参りを。
「鬼が神さんにお参りってぇのも、変な話だいな」
「今は子ども園の先生として来てんだ。世話ぁねぇやい」
神さんはおれたちの願いを聞き入れてくれるだろうか。
この光景をえりちゃんが見たらどんな顔をするだろうか。
大人の鬼といえど、ちょいときつい階段で疲れた体を癒しながら、真っ赤に萌える紅葉を見て、子供たちの到着を待つ。
「そおいや、あいつら見てねぇな。まだ」
「いっちゃん先についてると思ったんだが」
「せーんせーえ!」
「まってたよーお!!」
噂をすればなんとやら。
彼らは一足も二足も先に、ここへ来ていたらしい。
「お、やっぱり先頭はおめえらか、雷、風太」
「うん」
「おう」
呼ばれた二人は誇らしげに胸を張る。
「どぉこ行ってたん」
「みはらしだいってとこ行ってみようと思ったんだ」
狸と狐のこの子たちにとって、あの階段はさして辛くはなかったのだろう。だからこそ一番手だと思っていたのだが、なのにいなかったのは、さらにその先の下見に行っていたからだったのだ。
「ほぅ、どうだった」
得に咎めはなし。こうして集合場所に戻ってきていることだし。
「へんなおっさんに会ったぞ!」
「へんなおっさん?」
「うん! おれたちがもっと向こうに行こうとしたら、進めなくて」
「よっぱらいのおっちゃんに止められたんだ」
ほう。監視は機能しているのか。