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あけぼの税理士事務所のあやかし担当  作者: ぬりえ
あさまのいたずら
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5.

「よし、そいじゃここにお願いすんべ」

「そっさな」


 決定、と満足げにうなずくお二人を見て、ん? と思った。


「まだ契約なさっていなかったのですか?」


 てっきり話がまとまったからお呼ばれしたものかと。


「いやさぁ、嬢ちゃんと話してから決めようと思ってたんさ」

「一篇鬼の顔見られてっかんな。来るたんびに怖がられちゃぁ、なぁ?」


 ひいいいぃぃぃっ!

 私の反応の如何でお客様の新規関与を揺るがすところだったのかぁ!!

 とりあえず安心しても、いいの、かな?


「すみません、一つ、質問が」

「「ん?」」

「なぜうちを選んでお越しになったのですか?」


 県内には会計事務所なんていくらでもあるし、嬬恋村はうちの事務所からはいささか遠い。


「郵便局の広告で見たんさ」


 ああ! そうだったのか!

 どんな要件で郵便局に行くんだろう。そこも気になる。


「そんでネットで調べてみたんさ。ほら、ここんちは“あけぼの”だんべ? おれの名は曙雄(あけお)だから」


 名前でぴんときたらしい。ちなみに苗字は鬼っぽく選んだそうだ。おかげで私の口からこぼれ出た悲鳴は誤魔化されたのだ。洒落がきいていてよかった。

 ネットまで使ってるんだな、と感心していると


「そしたらさぁ、ここんとこの所長さん、名前が(あずま)さんだんべ? おれぁ大西! 洒落がきいてると思ってなぁ!」


 お、園長先生もそう思ってるんですね。

 はっはっは、と笑うお二人。


「そんなんでここに来てみたんさ、正解だったいな」

「ほれ、そろそろおれの反対さん読んでこい。キリンになっちまう」

「はい!」


 そのときには、お二人はスーツのおじさんになっていた。

 さっきまで鬼と普通に会話していた自分が不思議。図太いな、と我ながら感心だ。順応性が高いというべき? うん、そっちのほうがいいな。

 応接室を出て所長たちを呼びに行く。



「失礼します。お話、終わりました」

「ん。なにしゃべってたの?」


 そこ、聞かないでぇ!


「えっとぉ、世間話? ……を」


 あの馬鹿でかい声は漏れていなかったのかな。


「それと、あの、契約、お願いしますだそうです」

「すぐ行く」


 必要書類っぽいものを抱えて応接室へ移動する所長と副所長。

 私は新しくお茶を淹れ直し、少し遅れて三回目の応接室。


「お、ちょうどいい、えりちゃん!」


 園長先生が歯を出してにかっと笑う。けっこう長く話していたから、喉が渇いていたのだろうと思った。すぐにお茶をお出しする。


「その契約の条件なんですけれども」


 理事長先生が所長たちに話しかけている。

 条件? そんなのがあるんだ。なんか裏取引の現場を見てしまった気分。

 話の邪魔になる前に、ささっと退散しよーっと。

 最後に副所長の横に湯呑を置こうとしたとき、園長先生と理事長先生が顔を合わせた。


「わたしらんとこの連絡係担当を、えりちゃんにしていただきたい」


 がこん!


 置こうとした湯呑が音を立てた。

 副所長、すみません。でもこぼしていないんで、セーフですよね。


 ……って、そんなとこじゃないでしょ!!


「あーっ、……ですが大西先生、八幡はまだ新人でして」


 もう新人じゃないんだよ、と前に言われた覚えがありますが……。

 そのときどきで変わるんですね。はい。そんなもんですね。


「三年目に入ったって聞きましたよ」

「事情があって、車の運転ができないんですよ」


 そうなんです。そちらまで行くのは、ちょっと。じゃなくても遠いです。


「世話ぁねぇです。先生方は忙しくて事務所にいらっしゃらないことが多いとか。そのときの仲介とでも思ってください。必要な場合は使いをよこしますんで」


 所長たちは黙りこくってしまった。

 園長先生と理事長先生の威圧感がすごい。さすが鬼、というべきか。

 かという私も動けなくて困ってる。


「わかりました」


 所長が了承した。

 え、待って、私に拒否権はないの?

 いや、するつもりもないけど……確認くらい、表面上だけでも、してほしいです。


「よろしくお願いします」


 椅子に座った四人で頭を下げている。私もワンテンポ遅れてそれに倣った。


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