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あけぼの税理士事務所のあやかし担当  作者: ぬりえ
あさまのいたずら
4/199

3.

 右手にコーヒーカップを乗せたお盆を持ち、左手で応接室のドアをノックする。


「失礼します……」


 そこにいるのは、お父さんより少し年上くらいのおじさん二人。今度はどう見ても人間だ。角はない。


「コーヒーをお持ちしました」


 上座に座るオオニシ様からコーヒーをお出しし、湯呑を下げる。お二人とも、「はいどぉも」と言って、砂糖を入れてすぐに飲み始めた。見た目によらず甘党らしい。いや、社会人男性のほとんどがブラック好きだというのは偏見か。

 私はブラックでも飲めなくはないけど、甘いほうがいい。というか紅茶党だから自らコーヒーは飲まない。自分のカップにはすでに砂糖を混ぜてきているから、ちょっと親近感がわいた。


「ちょっと姉ちゃん、いつまで立ってんだ」

「そいじゃ落ち着いて話もできねぇ」

「す、すみませんっ! あの、名刺を、と思いまして……」


 そしたら、はい、と手を出された。すぐに、ぐんまちゃん柄の絹製名刺入から名刺を出そうとすると、勝手に二枚持っていかれた。


「ふうん、えりちゃんね」

「かわいい名前(なめえ)じゃねぇか」

「ほれ、さっさとえんとしぃ」


 促されるまま向かいに座ると、「へい」と二人の名刺が机の上に滑った。


「おれらんだ」

「頂戴いたします」


 写真付きの名刺だった。お顔にはもちろん角はなく、日本人特有の黄褐色の肌。

 次に会社名を拝見。

 なになに、認定こども園「鬼押出し園」の園長先生に理事長先生か。

 こども園のわりには園名がちょっとアレだな、と思うのは私だけ? 口には出さないでおく。

 住所は浅間山のあるところ。そっか、それでか。ふぅん。

 で、私の右前が大西曙雄(あけお)園長で、左側が角田青二(せいじ)理事長。


「よろしくお願いします、大西様、角田様」

「ははは、かてェなあ。園長とでも呼んでくらい」

「わしは理事長でな」


 普段から子供と触れ合う職業柄からか、ずいぶんフランクでいらっしゃる。それとも、私もその“子供”に含まれているから?


「ところで、お話、というのは」


 園長先生と理事長先生が顔を合わせる。そして、にやっと笑った。叱責されるわけではなさそうだ。

 安心していると、


「わしらは今、なんに見える?」

「はい?」


 !!!!


 目が飛び出るかと思った。コーヒー飲んでるところじゃなくてよかった~、だったら吹き出してた~、などとおちおち考えてもいられない。


 二人が、鬼になっていた。


「あわわわわわわわ」


 驚愕でうまく言葉が出ない。口だけ動いて言葉といえる声すら出ていなかったかも。口をぱくぱくさせて、水槽の金魚はいつも驚いているのかな。


「ほれ見い! やっぱし見えてんべ」

「こりゃたまげた! 不思議なことがあるもんだいなぁ」

「なぁんでわしらのことがわかったんか、からっきしさ」

「面白えなぁ」


 かっちーん、と硬直している私をよそに、鬼さんたちはなんだか呑気な感じで会話を交わしている。まだ答えてないんだけど、私の眼にお二人が鬼として映ったことは丸わかりっぽい。そりゃそっか、この反応じゃ。


「なぁ嬢ちゃん」

「はいいいぃっ!」

「わしらぁ見てんとおり、鬼だがなぁ」

「はいぃ」

「おっかねかねぇんか?」

「はい?」


 ああ、そういや驚いたけど、


「怖くは、ないです……」

「へぇ!!」

「なんでぇ?」


 二人はどこか楽しそうだ。


「えっと? 優しい良い人に、見えるので?」


 こうして笑って会話してるとことか。悪人(悪鬼?)には見えない。


「こりゃいいや!」


 がっはっは、とこれまた盛大に笑い声が上がった。


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