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あけぼの税理士事務所のあやかし担当  作者: ぬりえ
あさまのいたずら
3/199

2.

 鋭い双眸がぎょろりとこちらへ突き刺さる。


「お、おおおおおおおおに、つのぉぉぉぉ……?!」


 声に出てしまった。

 なにかあると、顔や声に思い切り出てしまうのが私の悪いところで。


「八幡さ」


 所長が険のある声音で私に呼びかけたときだった。


「がっはっはっはっは!!」

「わ――っははは! くくっ」


 二人分の、野太く豪快な笑い声が応接室に響いた。

 室内が揺れるかと思った。私も所長たちも呆気にとられている。


「姉ちゃん、わしらの名を知っとんのかい!」

「初めてだいなぁ? 超能力でも使えんのか?」


 そしてまた、がははと笑う鬼のお客様は……って、あれ?! 鬼じゃない! 角は?

 ごく普通のスーツ姿の、五十代くらいの男性だ。


 あれ? あれれ?


 混乱していると、


「おれぁ大西」

「わしは角田」


 おじいちゃんのような親しみやすい口調と笑顔で名乗ってくれた。


「あ、あの……」

「八幡さん、お茶お願いしていい?」


 お客様が気を悪くしていないことがわかったからか、私の不審な態度は今のところはお咎めなし、副所長からお茶を出すことを求められた。

 混乱から解かれた私はどうにかお茶をお出しし、そそくさと退散。失礼しました、とドアを閉めるときにはもう、所長たちの会話は始まっていた。


 ドアを閉める直前、オオニシ様とツノダ様と目が合った気がしたけど……気のせいだよね。うん、気のせいだ。

 さっきのは幻覚だ、気のせいだ。と自分に言い聞かせながら台所に戻り急須を洗う。私、そんなに疲れてるのかな……。そういや今日はずっとパソコンの画面とにらめっこしてたし、目が疲れてるのかもしれない。うん、きっとそうだ。


 コーヒーメーカーに四人分のコーヒーがあるかどうかも確認する。一時間くらい話が続いているときは、新しくコーヒーをお持ちするのだ。

 コーヒーは十分にあったので、席に戻る。


 ああ、さっきの言動については注意されちゃうだろうなぁ。

 それは私が悪い。どんなことにも動じずに対応できなければだめだ。

 中断していた月次入力をする手だけは、動きは変わらない。しかし気持ちはずっしりと重たい。



 オオニシ、と名乗った鬼さんは角が一本の赤鬼だった。

 ツノダと名乗ったもう一人は、二本の角の青鬼だった。

 ……気付けばスーツのおっさんだったけど。

 どうなってるんだろう。



 私にはそこまで難しい処理は任されていない。もう三月決算の確定申告の最終的な処理も終えて、そこまで忙しくないし、疲れのせいで幻覚を見るとか、私に限ってありえない。

 って、ありえないじゃない、たまにはあってもいいでしょ、たまには。

 もしかしてもしかすると……?

 わぁ、そうしたらなんだか楽しくなりそう。

 なんて思っちゃったりして。


 入力しながらちらちら時間を確認する。

 コーヒーは必要になるかな。お帰りになるときは、こっそりお姿を見ておこう。



 がちゃ、という音の後、「ではお待ちくださいねー」と所長と副所長が応接室から出てきた。資料か書類かなんだかを用意するのだろう。

 まっすぐに自分のデスクに向かうと思いきや、所長たちはすたすたと私のほうへやってくる。コーヒー淹れてってことかな?


「八幡さん」

「はい」


 声をかけられる心の準備はできていたので、落ち着いた返事ができた。


「さっきのお客さんがね、八幡さんと話したいんだって」

「えっ」


 驚き。なぜ。


「さっきの、失礼を、お詫びしなければ……?」


 恐る恐る尋ねると、「そうじゃないから」と副所長が否定してくれた。

 あ、違うのね。ちょっと安心。

 ん? じゃぁなんで?


「なんかね~、三人で話がしたいんだってさ」

「三人、ですか」


 お二人なしで、お客様二人対私オンリーってことですか?


「とりあえず、コーヒー持って行ってきて」

「はい……」


 コーヒーの準備に急いで台所へ。

 やらかしてしまったことに対するお叱り、ではなさそうだけど、鬼じゃなくてもやっぱり、初めてのお客様と理由もわからずに応対するなんて、怖いよぉう。

 残念ながら、怖くても助けてくれる人はいないのだ。


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