1.
有言実行のため、がんばるぞ!回です。
やってみせます、を実現できているかはなんとも言えない。
少なくとも、七月頭はプレプリントを受信して、消費税の中間申告は一番にやったから、先月のような漏れはないはず。
いや、はずではない、ない!
ただ、やっぱり言われたことというのはふとしたときによみがえる。
きゅうっと、哀しいとも悔しいともなんともいえない、苦しい気持ちになる。
そんなことがしばしばあって、ああ、私は引きずるタイプなんだな、と改めて思った。
だいたいのことは一晩眠ればそんなに気にならなくなるのに、不思議なものだ。
それだけ印象が強く、衝撃も大きく、自分の頑固さゆえに受け入れられない部分もあって、自責の念にかられることもあって、とにかく複雑だったから……なんだろうな。
今もすべては消化できていないけど、人生の先パイからのアドバイスをもとに、精進しようともがき中。できているかどうかなんて、他の人の目で見て言ってもらわないと、わからない。
今の私、どうですか? なんて聞けないよ。
現在の評価はどん底以下、マイナスなんだ。それなら行くのは上しかない。
注意された点について、気を付けていると見えていればいいんだけど……
ぷるるるる、と電話が鳴った。私の机からは少し遠くにある受付用の机にいる狭川さんが、「少々お待ちくださーい」と言うのが聞こえた。
と、ぷるる、と私と沖さんの間にある子機が鳴った。
内線がここにまわってくる場合、隣に沖さんがいるときは九割がた沖さんへの電話だ。だからいつも沖さんが受話器をとる。
「はい、ん? はーい、はい、はい。……はい、八幡さんだって」
「はい」
受け取って耳に当てると、
『鬼押出し園の大西様からお電話です』
「はい」
ぽち、と外線ボタンをプッシュ。
「お電話変わりました、八幡です」
『おー、えりちゃん、書類こさえたから、取りにきな。今日は暇だろ?』
月の頭は仕事量が比較的少ない。
やることないなー、と、なにをしているのが正しいのかわからなくなる。これも、私なんかに任せられる仕事がないからだ。
仕事というのは自分で見つけるもので。早め早めにできることから準備しています。
たしかに手は空いている。暇、という単語は、使いたくないけどね。特に今は。
そういうときに連絡をくれるのはわかってるんだけど。
「お世話になっております。今週はいつでも大丈夫です。ご都合のよろしい日に伺います」
前ならつい声を高くしてしまったところだが、落ち着いた対応を心がける。二つ隣にいる白石さんに、ほんとに些細だけど、私の意識の変化が伝わってるかな。
『んじゃ今日の二時ちょっと前に来ぃや。ちょいと話が長くなるから』
珍しいな、いつもはだいたいおやつの時間なのに。
「承知いたしました。二時前に着くようにいたします。いつもありがとうございます」
鍵を持つ私は、一瞬で「鬼押出し園」へ行ける。
が、それは内緒。運転のできない私は、職員さんがこのあたりを通ったついでに拾ってくれている、という建前になっている。だから逆算して、一時半より前には出発アンド到着、ということだ。
てなわけで、一時半より前には準備を整える。私は単なる窓口だから、持ち物はメモ用の便せんと筆記用具、と身軽でOK。
さて、その時間になりました。
「鬼押出し園さんに行ってきます」
ホワイトボードの帰所時刻を四時半としておく。話が長くなると言っていたから、長めに設定。
「いってらっしゃいませ~」
小さく、ぽつぽつと返事が届く。
靴を履いて外側のドアを出る。
鍵を取り出して、穴などあるはずのない空中に差し込むつもりで。
かちり。
九十度回し、
「地獄へ」
開けた視界には、こっちとは違った空気が流れている。
初めて会ったその日に見た光景は、地獄そのものだったんだと思う。でもその後からは、地獄にある先生たちの自宅に繫がれる。なにか術をかけているのか、ごくごく一般的な家なんだよね。
園長先生たちと一緒にいるとつい、親戚のおじさんに会いにきた気分で気楽にお話してしまう。用意して待っていてくれたおやつを食べながら歓談だ。バイト募集の張り紙でよく見る、“アットホームな雰囲気の職場です”というのは、こんなかんじを言うんだろうな。
先の件がある私は、どう振る舞うべきかまだ決めかねている。
銀さんたちは、少なくとも妖怪に対しては素でいい、と言ってくれた。
でももし、素でいたら、いつもどおりにしゃべったら、園長先生たちは必ず気付くだろう。電話の向こうの私との違いに。
それでまたこの間みたいに洗いざらい話す事になってしまうかもしれない。
どうしよう。
悩んでいる暇はない。もういつものそこは、目の前だ。
ひえ―――――
ぶっつけ本番、上等!!
とか、かっこよく言えるといいのにな。こんなとき。