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天使の子供  作者: 夢乃間
第1章 特別学習
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離れても傍にいる

誤字があったらすみません

 今日は冬美さんのお父さんから許可を得て、近くの公園に来ている。外出の許可を得る際、冬美さんのお父さんは渋い顔をしていたけど、しつこく食い下がって何とかお許しを頂く事が出来た。ざまぁみろ。

 ここ鶴ケ丘公園は遊具が無い代わりに、大きな湖がある。そこでボートに乗ったり、湖の近くにあるベンチに座ってゆっくり出来る。私も来た事がなかったから、冬美さんと来れて嬉しいな。

 そして何より、初めて見る冬美さんの私服! 真っ白なワンピースに日差し避けの麦わら帽子! はぁ~、可愛い! どうしてこんなにも可愛いの!? これは罪よ!?


「先生? ずっと私の顔を見て、どうしたの?」


「あへっ? あっ!? ご、ごめんなさい! ちょっとボーッとしてただけ!」


「疲れてるの? じゃあ、今日は―――」


「大丈夫大丈夫! 全ッ然!」


「そ、そっか」 


 いけない、冬美さんの可愛さに正気が失われてた。夏の日差しを凌ぐ可愛さ……冬美さん、恐ろしい子!


「それで、先生。今日はどうするの?」


「今日はね、あれに乗ろうと思うの」


「ボート?」


「そう」


「先生はボートに乗った事があるの?」


「無いけど、やり方は分かってるつもり。さ、行きましょ」


 そうして、私達はボート乗り場へと向かった。係員さんから簡単にやり方や注意事項を教えてもらい、救命胴衣を着けて、ボートへと乗り込んだ。


「それじゃあ、いくわよー!」


「わっ!?」


 オールを使って漕ぎ出すと、ボートはゆっくりと動き出し、ボート乗り場から湖へと出航した。未経験ながらも必死に漕いでいると、ボートが進む速さは増していき、ゆっくりと漕いでも一定の速さを保てた。


「大分安定してきたわね! 冬美さんもやってみる?」 


「やってもいいの?」


「もちろんよ!」


 オールを冬美さんに渡すと、冬美さんは私の見よう見真似で漕ぎ始めた。天性の才能か、数秒経たぬ内に漕ぐ姿が様になり、私は前にしか進めなかったにも関わらず、冬美さんは左右に曲がる事が出来ていた。


「……冬美さん。本当に初めて?」


「うん。結構楽しいね」


「ねぇ、どうやったらそんな風に漕いでるの?」


「行きたい方向に漕げば出来るよ?」


「て、天才の発現……」


「ねぇ先生、少しお話しようよ。私、先生とお話したい」


「そうね。それじゃあ、お話しよっか」


 漕ぐのを止め、湖に浮かぶボートの上でお話をし始めた。


「冬美さんは、外で遊ぶ事は少ない?」


「うん。お父さんがあまり出してくれなくて。だから学校に行ける事や、先生とここに来れて嬉しい」


「そっか! もし行けるなら、どこに行ってみたい?」


「先生のお家!」


「あ、あはは……私の家なんて、何も面白い物なんか無いよ?」


「先生の家なら、先生の事をもっと知れるから」


「冬美さんは、私の事をよく知りたいの?」


「うん」


「そういえば、この特別学習に私を選んでくれたんだもんね。どうして私を? やっぱり、一番若かったから?」


「理由は分かんない……でも、先生が良いって思ったんだ」


 冬美さんが私を選んでくれたのは嬉しい。けどやっぱり、理由が気になる。直感だけで決めたにしては、私に対して興味を示し過ぎている。

 時々、冬美さんから不穏な雰囲気を感じてしまう。こんな事を思ったら駄目だけど、人間じゃないと思ってしまう事がある。多分それは、冬美さんのお父さんの事も影響していると思う。あの人は何かを隠している。隠し事がある父と不穏な娘。傍からすれば、関わろうとは思わない。

 でも、私は冬美さんの事を知りたい。知って、この子の支えになってあげたい。この気持ちは、何だろう? 最初の頃は恋だと思っていたけれど、少し違う。もっと寄り添うような……そう、母親のような。


「先生?」


「……ねぇ、冬美ちゃん。先生と連絡先を交換しましょ」


「携帯の?」


「こうして会ってお話する事は出来るけれど、会わない時間でもお話したいと思ってしまう事があると思うの」


「先生も思うの?」


「うん。だから、好きな時に連絡してきて。先生、冬美ちゃんの連絡になら、いつだって出てあげるから」


 私は自分の携帯電話を取り出し、冬美さんと連絡先を交換した。冬美さんは私の連絡先が追加された画面を見ながら、満足気に笑っている。

 すると、携帯から着信音が鳴った。こんな時に誰だろう? そう思いながら画面を見ると、電話を掛けてきたのは、今目の前にいる冬美さんだった。

 何故目の前で電話を掛けてきたのか分からないが、とりあえず私は電話に出る事にした。


「もしもし?」


『もしもし、先生』


「どうしたの? 目の前にいるのに」


『電話を掛けてみたかったの、先生に』


「そっか。それじゃあ改めて……もしもし。どうしたの、冬美ちゃん?」


『先生の声が聞きたかったの。先生は?』


「先生も冬美ちゃんの声が聞きたかった」


 目の前にいる相手との電話。普通なら体験する事も、する必要も無い。他の人が見れば、きっとおかしな事をしていると思われるだろう。

 でも、こうして面と向かっているから分かる事もある。電話をしている時の冬美ちゃんの表情、声、仕草。離れた場所からじゃ分からない事が、面と向かい合っている事で確認出来る。

 私は、そんな冬美ちゃんの姿を目に焼き付ける。多分、冬美ちゃんも今の私を目に焼き付けているだろう。

 そうすれば、今後電話をする事になっても、相手の姿を思い出して、離れていても傍に感じる事が出来るはずだから。

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