約束のおまじない
誤字があったらごめんなさい
今日は引き続き冬美さんの事を知るべく、ある物を家から持ってきていた。それは自分の趣味や特技を書くメモ用紙だ。家の机を整理していた時、昔やってた物の残りがあったので持ってきた。私が小学生の頃に流行った物だけど、今の子は絶対知らないだろうなー。
「ねぇ、冬美さん。これ知ってる?」
「……メモ用紙?」
「そうだけど、ただのメモ用紙じゃないの。ほら、ここに自分の名前と、好きな物とかを書く欄があるでしょ? これはね、友達同士で交換しあう友達作りのメモ用紙なの」
「友達同士で交換するのに、友達作り?」
「友達になれたからといって、まだ分からない事だってあるわ。何が好きで、何が得意か。そういうのを知る為の物なの」
「先生、私とやってくれるの?」
「もちろんよ!」
私はメモ用紙1枚とペンを冬美さんに渡し、自分にもメモ用紙を1枚取った。名前を書いて、下の欄にある好きな物とかを書いていく。こうして久しぶりにやってみると、なんだかワクワクしてくる。相手の事を知るのもそうだけれど、自分の事を知って、相手がどういう反応をするのかが楽しみ。
とりあえず、自分の分を書き終え、冬美さんの方へ視線を向けた。見ると、冬美さんは名前を書き終わった所で、手を止めていた。
「冬美さん、どうしたの? 何でもいいのよ、書く事なんて」
「……先生、私……」
「大丈夫大丈夫! 私、絶対笑ったりしないから!」
「……うん」
やや不安そうな表情で、冬美さんは止めていた手を動かし始めた。それから数分が経って、冬美さんは再びペンを置くと、メモ用紙を手に取った。それを見て、私も同じようにメモ用紙を手に取る。
「それじゃあ、いい?」
「……絶対、笑わないでね?」
「よーし。それじゃあ、はい!」
「……ん!」
私の合図で、一斉にメモ用紙をテーブルの上に置いた。私は冬美さんのを取り、冬美さんは私のを手に取る。
「先生のから見てもいい?」
「いいわよ。でも、あんまり面白いものじゃないわよ」
「えっと、宮田京子先生……好きな食べ物は、お煎餅……趣味は、散歩……特技は、10秒ピッタリに時計を止められる事……フフ」
「あ、笑ったな~!」
「だって! 先生が書いたの、なんだかおばあちゃんみたいで!」
「おばぁっ!? こ、これでも20代前半!? まだまだ若者なのよ!?」
「フフ」
「また笑った……もう! 今度は冬美さんのを見るからね!」
手に持っている冬美さんが書いたメモ用紙を上から順に見ていく。名前は【月宮冬美】好きな食べ物は【ゼリー】趣味は【先生とお話する事】か。私とお話する事が趣味だなんて、なんだか嬉しいな。
そして最後の特技は……【人の心を見る事】……え?
「冬美さん、この特技の所に書いた、人の心を見る事っていうのは?」
「そのままの意味だよ。私、人が何を考えて、何をしようとしているかが分かるの。でも、お父さんから止められてて、今はやらないようにしてる」
「……そう」
「先生……やっぱり、楽しくないよね。私の事なんて」
「違うわ! ただ……ねぇ、冬美さん。冬美さんのお父さんは、普段何をしてるの? お仕事は?」
「……よく分からない。いつもお父さんの部屋にあるパソコンで仕事してる。聞いても、教えてくれない」
「そっか……ごめんね、いきなり変な事聞いて。私と冬美さんの仲を深める為にやってた事なのに、急にお父さんの話を出したりして」
「いいよ。それより、もっと先生の事が知りたい! 先生はお休みに何をしてるの?」
「休み? そうね~」
休みの日か……正直、ずっと寝てるんだけど、だらしない大人だと思われちゃうな。他に何かやってた事といえば……そうだ!
「絵を描く事かな?」
「へぇー! 上手?」
「う~ん、人並かしら? 先生、学生の頃は美術部にいたの。体を動かさない部活がそれしかなくてね」
「どんな事をやってたの?」
「ひたすら絵を描く……だけだったら良かったけれど、何故か筋トレやランニングがあったのよねー」
「絵を描くだけなのに?」
「絵を描くのに筋肉や忍耐力が必要だって言って、毎日筋肉痛だったわ。お陰で、少しは運動音痴がマシになったけどね」
「じゃあ私、美術部には入らない」
「でも、他の子達と一緒に絵を描いたりしたのは楽しかったわ。お互いをモデルにして、相手の絵を描いたりとか」
これは半分嘘で、半分本当だ。美術部の部員達からモデルを頼まれ過ぎて、気付けば私を中心にして、皆が私の絵を描いてた。モデルにされるのは嬉しかったけど、なんだか輪の中から外されているみたいで、少し寂しかった。
「それじゃあ、明日は絵を描きたい」
「絵を描くって、お互いの?」
「うん。私が先生を描いて、先生が私を描くの」
「いいわね! 確か、家に画材がまだ残っていた気がしたから、明日持ってくるわ」
「……やっぱり、いい」
「え?」
「私、絵を描いた事なんて、今まで一度も無かったから……先生の絵を描くんだもん。上手になってから描きたい」
「冬美さん……分かった。それじゃあ、冬美さんが上達したら、お互いの絵を描きましょう」
「うん!」
「それじゃ、約束ね」
私は冬美さんの前に小指を突き出した。冬美さんは困惑しながらも、私と同じように小指を出し、私の小指に触れてくる。冬美さんの小さな小指と包み込むように結び合い、約束を交わした。
「これはね、約束のおまじない。約束を絶対に守るっていう誓いよ」
「約束を守れなかったらどうなるの?」
「針千本飲ます」
「千本も口に入らないよ」
「アハハ! 大丈夫よ、実際には飲ませないから! でもそういう罰があった方が、約束を守らなきゃって思うでしょ?」
「なんだか、ズルい……フフ」
冬美さんの笑った顔を見つめていたら、結んでいた小指が自然と解けていった。私の小指に、まだ冬美さんの小指の感触が残ってる。冬美さんに触れた証拠が肌に刻まれたようで、少し嬉しくなってしまう。こんな事を考えてしまうなんて、自分が気持ち悪い。
でも、しょうがないわよね。だって、冬美さんはとっても可愛くて、まるで天使のようなんだから。