レイド
誤字があるかも
拘束を解かれたレインズは、アキラが言っていた最下層を目的地として、椅子から立ち上がった。しかし、三日間飲まず食わず、更には腐敗臭漂う部屋に監禁されていた事もあり、自身の体重を支える余力が残っておらず、前のめりに倒れてしまう。
再び立ち上がろうとした際、暗闇でよく見えないが、グチャグチャと粘り気のある何かが見えた。集中してよく見てみると、それが人の目玉だという事が分かった。
「くそっ……!」
レインズは根性で立ち上がり、未だおぼつかない足取りで部屋を出ていく。部屋から出ると、眩い光が視界一杯に広がり、手で光を防ぎながら目を慣らしていくと、さっきまで自分がいた場所とは真逆の清潔感のある通路が奥のエレベーターまで続いていた。壁に寄りかかりながら通路を進んでいき、エレベーターの前にまで辿り着き、扉のボタンを押してエレベーターに乗り込んだ。
エレベーター内に乗り込むと、閉鎖された空間から感じる安心感からか、レインズは座り込んでしまう。ポケットの中を弄り、グシャグシャになったタバコを取り出し、口に咥えて火を点けた。久しぶりに吸うタバコの味は、凄腕の料理人が振る舞う至高の料理がカスに思える程に、味わい深いものだった。
レインズはエレベーターの階層ボタンを横目で見て、二つの階層しかない所から、この施設が複雑に入り組んでいるのだと理解した。どうやら、最下層に行くには他のエレベーターを使う必要があるようだ。
吸っていたタバコを投げ捨て、まもなく開くエレベーターの扉の前に立ち、ゆっくりと深呼吸をする。扉が開けば、そこから戦闘が始まると、直感がレインズに囁いていた。
エレベーターの扉が開いたと同時、正面から矢が放たれ、レインズは前転で矢を避けながらエレベーターから出ていく。立ち上がると同時に前へ走り出し、前方から弓を構える敵に迫る。放たれる矢を躱しながら徐々に距離を縮めていくと、敵は弓を捨てて刀を手にし、レインズを待ち構えた。
レインズは敵が首を斬る為に刀を横に振ると予想し、実際その通りに動いたので、頭を下げて躱し、脇腹にパンチを入れてよろめかす。よろめいた敵の背後に回って腹に手を回し、後ろへ投げ飛ばした。敵は壁に頭を激突して意識が朦朧となっており、手に持っている刀を奪う事は容易であった。
刀を奪ったレインズは間髪入れずに敵の喉元に刀を突き刺し、引き抜く際に首の半分を切り裂いた。
刀を手にしながら通路を進んでいくと、横にある部屋の扉が勢いよく開き、現れた敵がレインズに襲い掛かった。レインズは刀で斬ろうとするが、握っていた手を蹴られてしまい、その際に刀を手放してしまう。敵から三発のパンチを喰らってしまうが、すぐに反撃に出て、攻守を逆転させるのも束の間、反対方向の部屋からも敵が現れ、羽交い絞めにされてしまう。レインズは羽交い絞めされた状態で、正面の敵に蹴りを放ち、後ろにある実験室の仲間で下がっていく。
実験室の中に入り、羽交い絞めしている敵の股間を蹴ってよろめかせ、振り向きざまに裏拳を叩き込んだ。追い打ちを掛けようとした瞬間、後ろから突き飛ばされ、倒れたところを馬乗りにされてしまう。
敵が拳を振り上げた瞬間、レインズは敵の目玉に指を突っ込み、痛みで叫ぶ敵の口に手を入れ、無理矢理こじ開けた。乗りかかっている敵をどかして立ち上がると、もう一人の敵が実験室にあったメスを手にしてレインズに突き刺しにかかるが、レインズにその手を掴まれて、自分の首に刺されてしまう。
二人の敵を倒したのも束の間、通路から何人もの足音が向かってきているのを耳にし、レインズは手術台に置いてあるメスを手にし、部屋の入り口から姿を現す敵に投げ飛ばして、四人の敵を殺した。
メスが無くなると、今度は手術用のノコギリを手にし、入り口のすぐ横に息を潜める。敵の顔が見えた瞬間にノコギリを敵の顔に喰い込ませ、ノコギリ本来の使い方で敵の顔面を削っていく。
ノコギリが見えなくなるまで削り続けていると、敵は力尽き、レインズは部屋から出た。通路に戻ると、これ以上の増援の気配は無く、レインズは走り出した。
通路を走り続けていたレインズだが、最下層へ行くエレベーターが見当たらず、そうして迷っている間に、また敵が現れてしまう。
レインズは隣にあった部屋に入り、武器になりそうな物を探す。しかし、その部屋は研究員の休憩室のようで、ソファと販売機しかない。違う部屋に移動しようとするが、敵が部屋に入ってきた為、素手で戦う事となった。
最初に向かってきた敵を投げ飛ばし、他の敵が来ないように扉を閉めて鍵を掛けて一対一の状況を作る。
一体一の殴り合いに持ち込んだが、レインズに変化が起きていた。立て続けに起こる戦闘の疲れから、レインズは敵の攻撃が避けられなくなってきていた。万全の状態なら余裕の相手が、今は苦戦を強いられる相手と化していたのだ。
しかし、レインズは負けず嫌いであった。目の前の敵に対し、今にも倒れそうな自分に対し、負けてたまるかと闘志が燃え、放つ一撃に重みが増していく。レインズは、敵を倒しては扉の前にいる敵を部屋に引き寄せ、一人ずつ処理していった。
そうして30分後、休憩室の部屋の床には、十数人の敵の死体が転がっていた。レインズは足元にある適当な死体を販売機の前に持っていき、販売機から飲み物が吐き出されるまで、死体の顔面を何度も販売機にぶつける。
すると、販売機から大量の飲み物が吐き出され、その中の缶コーヒーを一つだけ手に取って、休憩室から出ていく。
缶コーヒーを飲みながら通路を進んでいくと、正面の突き当たりから、千田が拍手をしながら姿を現した。
「凄いじゃないか! 君は、アキラ君の部下達をたった一人で倒してしまった! とても人間とは思えない! あぁ、申し遅れた。私は―――」
呑気に自己紹介をしようとする千田の顔に、レインズは缶を投げ飛ばした。缶が顔に当たって目を瞑っていた千田が再び目を開けた時に見えたのは、血と肌であった。
レインズがラリアットで千田の顔面を振り抜くと、千田の後頭部は背中にくっつき、そのまま力無く倒れていった。
「イカれたジジイが。ジジイらしく死んでろ」
気を取り直し、分かれ道の左右を見ると、左方向には出口のマークがあり、右方向にはエレベーターがあった。レインズは迷うことなく右に進み、エレベーターに乗り込んで最下層へと降りていく。
最下層に辿り着き、エレベーターから出ると、通路の照明が順々に点いていき、最後に点いた場所にアキラが立っていた。
「ここへ来たという事は、宮田京子を救う選択をしましたか」
「フッ。最初からこっちを選ぶと分かってた癖に、よく言う」
「さぁ、どうかな……僕の後ろにある扉、その先に彼女はいます。扉を開ける時に使うカードキーは僕が持っている」
「先へ進むには、テメェを倒せと?」
「その通りです。さて、お手並み拝見といきましょうか」
アキラは外した眼鏡をケースに入れて隅に置くと、レインズのもとへ歩き出し、レインズもアキラのもとへと歩き出す。
手を伸ばせば触れられる距離にまで近付くと、二人はそこで立ち止まり、戦闘の構えをとった。




