作戦開始
新章です
宮田と冬美は散歩をしていた。日曜日だというのに外には誰もおらず、宮田と冬美だけ。それは天候が理由であった。この日の天気は朝から曇り空で、昼頃になれば豪雨が降り始める予報であった。
何故そんな日に宮田が冬美を外に連れ出したか。それはレインズの指示からの行動であった。レインズの指示は耳にさしてある小型のイヤホンから出される。その指示に従い、宮田は冬美と手を繋いで歩いていく。
「ねぇ、京子さん。今日はずっと散歩なの?」
「ん? ん~、どうかしらね~」
「なんか今日の京子さん、隠し事してる気がする」
「えー、そんな事ないよー」
「その喋り方、そうだよ。天気も悪いし、京子さんの家に行きたいな!」
「いいわよ。でも、その前に聞きたい事があるの」
「聞きたい事?」
「うん……冬美ちゃんの事についてなんだけど……」
その時、宮田の右耳にあるイヤホンから、レインズの声が聞こえてきた。
『宮田。現れたぞ』
その言葉で、一気に宮田の緊張感が高まった。道端にあるミラーを横目で見ると、自分達の少し後ろから、レインコートを着た人物がついてきていた。顔はレインコートのフードで隠されているが、長身でガタイが良い体格から男と思われる。その男は、宮田達と一定の距離を保って歩いていた。
『続けて探りをかけてみろ。探るだけだぞ? ここで根掘り葉掘り聞かなくてもいいからな』
「……冬美ちゃん。冬美ちゃんが前にいた所って、どこかな?」
「前にいた所?」
「そう。思えば私、冬美ちゃんがどこの出身なのか知らないままだったの。生まれも知れは、より深く仲良くなれると思ってね」
「私の……生まれは……」
「冬美ちゃん?」
「私……私は……!」
出身の事を尋ねられた冬美は、目を大きく見開いたまま立ち止まってしまう。急変した冬美の様子に、宮田は冬美の前に立ち、しゃがんで目線を合わせた。目と目が合っているはずなのに、まるで冬美の目には自分が映っていないかのように、宮田は感じた。
すると、視界に映る冬美の背後の奥。さっきまで一定の距離を保っていた男が、早足でこちらへ向かってきているのを宮田は目にした。
『予定通りだ、宮田。お前達の隣にある廃墟の建物の4階に向かえ』
宮田はレインズの指示を聞き終えるとすぐに行動に移し、冬美の手を引っ張って廃墟の中へと入っていった。
廃墟の中は空っぽで、元が何の建物だったのかは分からなかったが、壁に地図は残されたままだった。その地図から階段の位置を把握し、階段がある場所へ走っていく。
二人が階段を上り始めた頃、廃墟の入り口から走ってくる足音が聴こえ、宮田は冬美の手を握り直し、階段を駆け上がる。
4階にまで辿り着くが、追ってきていた男は既に3階から上がり始めており、男の姿がハッキリと見える距離にまで迫っていた。宮田は恐怖ですくむ足を無理矢理動かし、4階の通路を走っていく。
予定していた合流地点である部屋の前に辿り着き、ドアを開こうとするが、ドアには鍵が掛けられており、開く事が出来ない。
「なんで開かないのよ!? ねぇ!?」
ドアノブを掴んで何度も押したり引っ張ったり、ドアを無理矢理開こうと肩からぶつかってみたが効果は無い。階段側の方を見ると、もう既に男は通路に来ており、腕を振って全速力で走ってきていた。自分よりも一回り大きな体で謎に包まれた人物が迫ってくる迫力は想像を絶し、宮田の鼓動の音は全身に響き渡り、目から自然と涙が流れてきた。
すると、男との距離がおよそ10メートル地点の所で、別の部屋から飛び出してきたレインズが男に襲い掛かった。男にとってレインズの登場は予想外だったのか、抵抗する間もなく殴られ続け、挙句には首を絞められて意識を失ってしまう。僅か10秒の間に起きた出来事であった。
レインズは意識を失っている男をガムテープと縄で拘束し、自身が出てきた部屋に放り投げた。
「ふぅ。上手くいったな、宮田」
「いや、傭兵だから強いってのは分かってたけど……って、そうだ! ねぇ、ここ鍵が掛かったままだったんだけど!?」
「しょうがないだろ、鍵が掛かってるんだから。ここの廃墟の鍵なんか持ってる訳無いしさ」
すると、レインズは鍵が掛かった部屋の前に立つと、勢いよくドアを蹴っ飛ばし、ドアを開けた。
「開いたぞ。それで、冬美どうした? なんか様子がおかしいように見えるが」
「そうなの。出身について聞いてみたら、急にこうなっちゃって……」
「まるで人形だな。おい、冬美! アタシが分かるか?」
レインズは冬美の目の前で指を二度鳴らすと、冬美はハッと我に返り、周囲を不思議そうな目で見渡した。
「ここ、どこ? さっきまで、私は外にいて……それで……」
何故自分がここにいるのか、どうやってここまで来たのか。思い出そうとする冬美だったが、ハッキリと分かったのは外にいた時と今の間にある空白だけだった。
困惑する冬美を宮田は前から優しく抱きしめて落ち着かせようとする。少しではあるが、そのお陰で冬美の表情が和らいでいった。
「宮田、後は任せたぞ。アタシは奴から色々と聞き出してくる」
「……うん、分かった」
レインズは男がいる部屋へと入っていくのを見送った後、宮田は冬美の手を引いて、ドアが閉じなくなった部屋の中へと入っていった。




