協力者
寝ていると、真正面から視線を感じた。距離はすぐ傍、目と鼻の先だ。目を開いて見ると、宮田がアタシの顔を見ながら笑っていた。
「……なんだよ」
「フフ。あなたって、いつも私を置いていくわね。今だって先に寝ちゃうし」
「時間を見てみるか? ほら、もう3時だ、深夜のな。学校じゃ、夜更かしをしろと教えてんのか?」
「子供にはそう教えるけど、私達は大人でしょ?」
「悪い大人だ」
ベッドから起き上がってシャツを着て、ベランダへタバコを吸いに行く。ベランダに出ると、気持ちのいい夜風が肌を撫で、疲れが少しだけ和らぐ。タバコを口に咥え、火を点けようとした時、隣に宮田がやってきた。
「……吸うか?」
宮田に一本渡し、アタシ達はベランダの柵に寄りかかって、一つの火を使ってタバコに火を点けた。
「……ゲホッ! ゴホッ、ゴホッ! よくこんなのを平気で吸えるわね!?」
「中毒なんだよ。これ無しじゃ生きてけないくらいにな」
「ふーん。私とどっちが大事?」
「そういう面倒なのはやめてくれ。お前を傷つけたくない」
「それって、タバコの方が大事って言ってるようなものよ?」
「察しが良いな」
「最ッ低……フフ」
本当は、宮田の方が大事だ。大事だからこそ、選ぶ訳にはいかない。思わせぶりな事を言って期待させて、傷付かれるのが嫌だから。まぁ、もう二度も寝た癖に、何言ってんだって話だが。
アタシは迷っている。宮田をアタシの任務に巻き込むか、否か。宮田を利用すれば、事態はスムーズに進む。敵の正体、冬美の身柄の確保、敵の殲滅。
だがそれによって、宮田を危険に巻き込む事になる。森の中で戦ったニンジャ野郎には勝てたが、少なく見積もって同程度の奴が10人はいるはず。アタシはまだしも、宮田には戦う力は無い。万が一宮田の方を狙われれば、宮田は殺され、最悪人質にされてアタシも殺される。
やはり巻き込まない方がリスクは少ない。でも、冬美と深く関わっている人物は宮田だ。宮田の協力が無ければ、アタシはこの町の隅から隅まで調べなければいけない。それでは時間が足りず、敵の計画が完了してしまう。
「……ねぇ、レインズ。何か、あった?」
「え?」
「なんとなくね。なんとなくだけど……凄く、悩んでいるように見えて……」
「……迷ってるんだ」
「迷ってる?」
「お前を巻き込むか、巻き込まないか」
「それって、この前言ってた事と同じ?」
「そうだ……なぁ、宮田。アタシは嘘が嫌いだ。他人のも、自分がつく嘘も。だからもう、嘘は無しにする。だから聞いてくれ。そして答えてくれ」
隣にいる宮田に顔を向けると、宮田は真剣な表情でアタシの話を聞いてくれていた。
「アタシはこの国に持ち出された兵器を追ってきた傭兵だ。今朝この家に来た冬美がその兵器だ。そして冬美を所有する何者かが、その兵器を使おうとしている。協力してくれるか?」
「……」
「……フッ。やっぱ無しだ! 一般人のお前を巻き込む訳には―――」
「ちょ、ちょっと待って! 勝手に話を進めないでよ……!」
「なんだ? 悩んでたのか?」
「ええ、頭を悩ませてたの……えっと、つまり。レインズは傭兵で、冬美ちゃんは兵器。で、冬美ちゃんを悪用しようとしている人達が、この町にいるって事?」
「ああ、そうだ」
「……ごめん、スケールが違ったわ……てっきり、密入国か何かだと」
「そっちの方がヤバいだろ」
「どっちもどっちよ!!! 私は今まで平凡に生きてきたの。それが夏休みの、しかもまだ1週間も経たない間に、傭兵と関係を持ったの!?」
「映画みたいでロマンチックじゃないか」
「それだけじゃない! 冬美ちゃんが兵器!? あんな可愛らしい子供が!? 確かにお父さんは怪しげで、何か隠してそうだったけど……けど……私、もう巻き込まれてない?」
宮田は引きつった笑顔を浮かべたまま、固まってしまった。正直、予想外だった。アタシの話を信じないか、冬美を兵器扱いした事に怒って追い出されるのだと思っていた。
だが、実際はどうだ。案外アタシの話を真に受けてる。つまり、宮田にも思うところはあったという事か。
「ね、ねぇ、レインズ。冬美ちゃんを悪用しようとしてる人達って、ヤバい?」
「ああ。今朝森の中で、冬美をこの町に連れてきた研究員を手下の奴が殺した。恐らく、10人以上はそういう奴らがいる。安心してくれ。少なくともソイツは始末しといた。アタシの事はまだ、この町に旅行に来た外人って事で通せる」
「殺した……そ、そっか……人が、死んだのね……!」
宮田は柵におでこを当てながら、身を震わせていた。明らかに恐怖を覚えている。無理もない。人が死んだんだ。例えその場にいなくても、人の死に慣れていなければ、恐怖を覚えてしまう。
「……冬美ちゃんは」
「冬美?」
「……あの子は、どうなるの……?」
「奴らが冬美の能力を使って事を成そうとしているのは分かるが、アタシの勘じゃ、能力はまだ開花されていない。能力が開花されないままだと、最悪の場合、殺される」
「っ!? 駄目よ!」
宮田はアタシの肩を掴み、鋭い眼光でアタシを睨みつけてきた。鬼気迫るとは、この事だ。さっきまでの宮田とは、別人のようだ。
「ねぇ、レインズ。私はどうすればいい?」
「その言葉の意味、分かってるのか? お前は今まで、平穏な道を辿ってきた。ここでアタシと手を組めば、死地に赴く事になるぞ?」
「冬美ちゃんを死なせたくない! もちろん、兵器として利用される訳にも! だから教えて、私に何をすればいいか!」
凄いな、宮田は。さっきまでの恐怖を帯びた声や体の震え、それが今じゃ見る影もない。ここで拒否すれば、アタシを殺してしまう程の迫力だ。
見誤っていたよ。宮田は思ったよりも、アタシら側だ。死線に立つ側の人間だ。
「……分かった、教えるよ。ただ一つ先に言っておく。アタシが手遅れだと判断した場合、冬美を殺す。もちろん、手遅れになる前に解決するつもりだ……覚悟は出来たか?」
「……信じる」
「よし。それじゃあ今をもって、お前はアタシの協力者だ。よろしく、宮田京子」
結局こうなってしまった。もう後戻りは出来ない。アタシと宮田は、この町で、冬美を利用する奴らを殺す。例え冬美を救えたとしても、その先にあるのは後悔と悲しみだけだと知りながら。
きっと宮田は、アタシを許さないだろう。
次回新章です。そして三人称になります。




