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天使の子供  作者: 夢乃間
第2章 野良犬
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死線の先で身に着けた強さ

戦闘がある話は三人称になってます。

 二匹の獣が森の中を駆けていた。一方は逃げる者、もう一方は追う者。しかし、追う者は知る由もない。逃げる者が、同じ捕食者のレインズだという事に。 

 レインズは後方から放たれる矢を回避する為、適度に木を盾にしながら、開けた場所まで駆けていく。レインズを追いかける襲撃者は追いつくために矢筒と弓を捨て、全速力で走り始めた。襲撃者の足の速さは凄まじく、みるみるうちにレインズとの差が縮まっていく。

 開けた場所に出るや否や、追いかけてきていた襲撃者がレインズに飛びかかる。レインズは前方に跳びながら後ろへ振り向き、振り向きざまに放った蹴りで、飛びかかってきた襲撃者を蹴っ飛ばした。

 蹴りを喰らった襲撃者は地面を転がっていくが、すぐに立ち上がって体勢を立て直し、まるで手品のように手裏剣を指の間に出して、レインズへ投げた。レインズは飛んできた四つの手裏剣を避け、その内の一つを手にし、投げ飛ばされた物が有名な日本人の武器である手裏剣だと知り、興奮した。

 

「手裏剣! ワォ、ニンジャ!」


 襲撃者はジャケットの内からクナイを取り出し、レインズが投げ飛ばした手裏剣をヒラリと躱し、軽快な動きで繰り出す蹴りでレインズに襲い掛かった。レインズは腕で襲撃者の蹴りを防いでいき、隙を見つけて攻守を入れ替えようとする。

 襲撃者がクナイで突き刺そうとしたのを隙と見て、レインズはクナイを持つ手を掴み、伸び切った腕の肘に自身の肘を打ち込む。痛々しい音と共に腕が曲がらない方向に曲がると、これまで寡黙だった襲撃者も悲鳴を上げてしまう。レインズはこのまま一気に畳み込もうとするが、襲撃者は叫び声を上げながら、折れた腕を折り畳みこんでレインズを背負い投げる。

 しかし、数々の死線を生き残り続けてきたレインズが、黙って投げられる事はなかった。投げられる最中に襲撃者に三角絞めを決め、地面に投げ落とされた時には完全に極まっていた。レインズの長い足と強い脚力で絞められる三角絞めは骨を軋ませ、襲撃者の首の骨が折れるまで秒読みであった。

 砕ける音が鳴り響くと、襲撃者の体から力が抜け、見開いていた目が閉じる事はなかった。関節技を解くと、襲撃者はドサリと地面に倒れていった。

 レインズは襲撃者の服のポケットを探り、何か手掛かりがないかを探していると、携帯電話を見つけた。携帯の連絡先を開き、直近の通話履歴から通話をかけ、携帯を耳に当てる。


『……どうだ? 逃げた奴は始末したか?』


 レインズは電話に出た男の声を憶え、何も言わずに通話を切った。見上げると、木の葉の隙間から見える空の色が薄い赤に染まっており、夕方の訪れを予感させた。周囲の光景も暗くなり始めており、今すぐ出なければ暗闇の中を彷徨う事になる。レインズは記念として手裏剣を一つ盗み、再び森の中を駆けていった。

 真っ直ぐ突き進んでいき、運良く暗闇に覆われる前に抜け出せる事が出来た。森から出れたレインズが次に向かったのは、宮田の家。目的は冬美の処遇。冬美を殺すかどうかはその場の自身の判断で決める事にした。

 そして、殺される直前に男が話していた通りなら、宮田の保護も重要であった。例え冬美が無害だと判断出来ても、宮田が冬美の近くにいる限り、未だ謎がある第三者の計画に巻き込まれ続けてしまう。

 他の地方にいる部隊員に連絡を取ろうとも考えたが、それは最終手段。全てに確信が持てた時にだけ取る選択だ。

 とにもかくにも、レインズは宮田の家であるマンションの3階に辿り着いた。宮田の家に辿り着いた頃には夕方が過ぎ、辺りはすっかり夜に包まれていた。

 レインズは宮田の家の前に立ち、インターフォンを押す。少し待っていると、扉の鍵が開けられた音が鳴り、扉を開けて宮田が出てきた。


「はーい、どちら様……レインズ」


「どうも」


「……さよならじゃなかったの?」


「そのつもりだったが……腹が減ってな」


「ふ~ん。それだけの理由で戻ってきたの?」


「そうだよ」


「そう……別に私は何とも思ってないから。私の言葉を聞かずに出ていった事とか、私の体を好き勝手したくせに責任を取らずに帰っちゃった事とか。全ッ然! 気にしてないから!」


「気にしてんじゃん。それに好き勝手じゃなくて、あれはお前が求めて―――」


「ッ!? うるさい!!!」


 先日の夜の行為を思い出し、宮田は赤面しながら扉を勢いよく閉めた。


「余計な事を言わない方が良かったな」


 気を取り直し、レインズはもう一度インターフォンを鳴らした。しかし今度は扉が開く気配が無く、扉が開くまでレインズは何度もインターフォンを押し続ける。

 すると、扉の奥からドタドタと足音が聴こえ、扉が勢いよく開いた。


「うるっさい!!! 一体何度押したら気が済むのよ!? こっちは今包丁使ってるんだから静かにしてよね!?」


 慣れない怒号を飛ばし続けた所為で、宮田の呼吸は荒々しくなってしまう。明らかに怒っている宮田に、レインズは突拍子も無くキスをした。キスは5秒程続き、その後レインズはあっさりと宮田から離れた。


「…………へ? え、え!? 今、キスしたの!?」


「分かんなかった? なんなら、もう一度しようか?」


「え……ぅぅ、もう!……ほら、早く入って。このままじゃ、近所迷惑になるから」 


「はーい。それじゃ、お邪魔しまーす」


「お邪魔します、じゃないでしょ」 


「え?」


「……ただいまって……言ってよ」


「……ただいま」


「うん……おかえり」


 互いの目を見つめる二人。まるで磁石のようにレインズの体は宮田に引き寄せられていき、再び宮田の唇に自身の唇を重ねながら、後ろ手で扉を閉めた。

次回は再び一人称、レインズ視点です。

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