大人と子供
キッチンにある黒い固形物を処理し、二人分のコーヒーとオレンジジュースが入ったコップをお盆に乗せ、リビングへと運んでいく。リビングへ行くと、まるでコアラの子供のように冬美が宮田にしがみついていた。それに対し宮田が迷惑そうな様子は無かったが、何かを気取られないように焦っているように見える。おそらく昨日の夜の事についてだと思うが、そんな事を気取られただけで何を焦る必要があるのだろう?
「はい、宮田。コーヒーだ」
「あ、ありがとう」
「ほらガキンチョ。オレンジジュースだ」
「ん」
「冬美ちゃん、ちゃんとお礼を―――」
「京子さん。この人、何?」
「こ、この人は、レインズっていう人で―――」
「そうじゃなくて。この人は、京子さんの何?」
「え、えっと……」
宮田は助けを求める目でチラチラとアタシを伺ってくるが、それに合わせて冬美も視線をこっちへ向けてくる。
別にここで助け舟を出してやってもいいが、宮田の可愛らしい姿をもう少し見ていたいから、黙っていよう。そう思い、アタシはコーヒーをゆっくりと飲み始めた。
「レインズ~……!」
「京子さん、言ったよね? 私の全てになってくれるって」
「い、言ったけど!」
「じゃあ、なんで私以外の人がここにいるの?」
「私だって、お友達を家に招くくらいあるわよ!」
「ただの友達じゃないがね……」
「ただの友達じゃない?」
「ちょっ!? レインズ!?」
「おっと、口が滑った」
宮田が冬美を騙そうとするから、思わず口を滑らせてしまった。その所為で場の雰囲気が一層不穏になり、アタシを見る冬美の目が睨みに変わった。
「ねぇ、ただの友達じゃないってどういう事?」
「言葉通りさ、ガキンチョ。友達ってのは、一緒に遊んだり、一緒に飯を食べたりするだろ?」
「そうなの?」
「そうなの。だが時として、友達以上の行為が存在する。一夜の過ちと呼ばれる行為だ」
「一夜の過ち? それってどういう事をするの?」
「それは言えないな。アタシと宮田は大人で、お前はまだガキだ。ガキはガキの領域で楽しんでればいいんだよ」
「なんだか私だけ蚊帳の外。私も一夜の過ちを京子さんとしたい」
「ぶっ!? な、ななななにを言ってるのよ冬美ちゃん!?」
「アッハハハ! 負けず嫌いなガキは嫌いじゃない! 宮田、冬美ともしてあげたらどうだ?」
「ちょっと! 冗談でも言い過ぎよ! この子は私の生徒で、それにまだ子供だし―――」
「京子さん、私じゃ駄目なの?」
「うっ!? そ、そういう訳じゃ……」
なんか面白いな、この二人。というか私の生徒って言った気がするが、生徒が先生の家に気軽に来るのはいいのか? 同性とはいえ、くっつき過ぎだと思うし、どういう関係なんだ?
アタシがそんな事を考えている間に、宮田は自分のコーヒーを飲んで苦い表情を浮かべた。すると、冬美が颯爽とキッチンへと向かい、砂糖が入った小瓶を持ってきて、スプーン一杯分の砂糖を宮田のコーヒーに入れた。
「京子さんは砂糖を入れないと飲めないんだよ?」
まるで知っていて当たり前かのように、冬美はアタシに言うと、宮田に頭を撫でられて嬉しそうにした。段々と冬美が可愛く見えてきた。容姿の可愛らしさという意味ではなく、構って欲しそうにしている所が可愛らしい。懐いてくれれば尚良しだが、どうやら無理そうだな。アタシに対しては敵意がある。
ここいらで退散するとしよう。いつまでもここでお茶会するのも悪くはないが、アタシには任務があるしな。
「ま、何はともあれ、邪魔者はここで退散だ。世話になったな、宮田」
「え……もう、行っちゃうの?」
「アタシにはやる事があるんだ。それにいつまでも厄介になる訳にもいかない」
「別に私は構わないよ? 今日も、これからも―――」
「じゃあな」
宮田の言葉を遮って、アタシは玄関へと向かった。あれ以上聞けば、この家から出ていく気がしないからだ。
外に出ると、雲一つない晴天がアタシを待ち構えていた。アタシの心は曇りがかっているというのに。
気持ちを切り替え、早々とマンションから離れていき、当初の目的である救済者の捜索を再開した。救済者を抱えた男は追われる身だ、人気の無い場所に隠れているだろう。この町には人が少ないが、その中でも人が寄り付かない場所はある。
手始めに、アタシはとある廃墟を調べる事にした。そこは森の中にひっそりと建っている。隠れ蓑にするなら、もってこいの場所だ。時間はまだ11時前だが、夕方になれば森の中は暗くなる。調べるなら、早い方がいい。
人の手が入っていない森を進んでいくと、目的地である廃墟がポツンと建っていた。中の様子を探る為、廃墟の周りを一周していくと、廃墟の裏の草むらに誰かが踏んだ跡があった。跡はまだ新しく、その跡を辿っていくと、森の中にある川に出た。
川の前には一人の男と思われる人物が座り込んでおり、あの日研究施設から逃げ出した男と同一人物に見える。
アタシは音を立てないようにゆっくりと男に近付き、動き出しても対処出来る位置につく。
「おい」
「っ!? だ、誰……?」
「スカルフェイス」
「ひっ!?」
アタシが自分の部隊名を口に出した瞬間、男は怯えだし、逃げ出そうとした。アタシは男の腕を掴み、そのまま川の方へ投げ飛ばし、男の上に馬乗りになって取り押さえた。
部隊名を聞いた反応と逃げ出そうとした事実、確信だな。この男が、救済者を抱えて逃げ出した男だ。
「アタシらスカルフェイスから逃げ続けられると思ってたか? さぁ、質問の時間だ」




