表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使の子供  作者: 夢乃間
第2章 野良犬
14/27

一夜が過ぎ、朝へ

 目を開いた瞬間、眩い光が広がった。もう一度目を閉じ、今度はゆっくりと目を開いていくと、光の正体は窓から差し込む陽の光であった。体を起こし、隣で寝ている宮田を起こさぬようにベッドから降り、床に脱ぎ捨てていた服を着る。

 ベランダに出ると、雲一つ無い快晴に、夏にしては涼しい風が吹いていた。ベランダの柵に寄りかかり、ポケットにあるタバコを口に咥え、火を点けた。ゆっくりと深くタバコを吸い、寝ぼけを覚まして昨夜の事を思い出す。


「…………やっちまった」


 その場の雰囲気と昂る感情に身を任せて、アタシは宮田と一夜を過ごしてしまった事を思い出し、罪悪感を覚えた。

 別に宮田が嫌いだとか、寝た事を後悔している訳じゃない。ただ、アタシは任務があって日本に来ているのであって、任務が終われば日本を離れ、宮田とも二度と会う事は無いだろう。だというのに、未練が出来てしまった。会ったばかりの、それも女とだなんて、アタシはどうかしてる。


「いっそ宮田も仲間にさせちまうか……なんてな」


 一瞬でも考えてしまった自分が嫌だ。宮田は学校の先生なんだ。学校の先生は子供に学を与え、品行を指導し、将来の道を手助けするもの。アタシらのような暴力で正す汚れ者とは真反対の人間だ。

 それに、宮田が人を殺す所を見たくない。人を殺しても何の感情も持たない宮田なんか、宮田じゃない。宮田は良い奴だ。良い奴には、花畑の中で笑っていてほしい。


「時間が戻せたりすれば、こんな事にならずにすんだのに……ま、無能力者のアタシじゃ叶えられない願いだがね」  

 

 タバコの火を指で消し潰し、もう1本吸おうとした。その時、ふとマンションの前に目がいった。マンションの前には、一人の女の子が立っていた。長い金髪、白い肌、三階のここからでも分かる綺麗な青い瞳。今まで色んな国で美女と呼べる奴を見てきたが、そんな奴らとは比較にならない程、その女の子は美しく、異様だった。

 そんな女の子が何をしているかというと、見下ろすアタシに対し、ジッとアタシを見上げているだけ。


「なんだアイツ?」


 しばらく様子を伺っていると、女の子はマンションの中へと入っていった。このマンションの住人だったんだろうか? だとしたら、感じ悪い事をしたな。宮田に影響がなければいいが。


「なにしてるの?」


 後ろから宮田の声がすると、アタシの肩に顎を乗せて宮田が抱き着いてきた。 


「いや、別に」


「そう」


 淡白なやり取りだが、何故か嫌な気分じゃない。むしろ良い気分だ。何も話さなくても、姿を見て考察しなくても、気持ちが分かる感じがする。

 常時警戒。それがアタシの生き方であり、生き抜く上で大切にしている事だ。でも今は、宮田がいる間は忘れられる。それが幸せであり、アタシを蝕む毒でもあった。


「……ねぇ、レインズ」


「ん?」


「ほんとは、何をしに日本に来たの?」


「……」


「旅芸人って言ったけれど、今の時代、余程の有名人でもなければ明日のご飯さえ食べていけない。第一、旅芸人にあんなに筋肉が必要かしら? それに体中にある傷も、普通じゃないわ」


「……」


「言えない事なの?」


「……言えば、巻き込んでしまう」


「こんな関係になって、まだ巻き込まれてないのね」


「ぅ……」


「フフ。ま、いいわ! それより時間見た? もう10時よ? 朝ご飯の支度するから! 今日は卵焼きにチャレンジするからね!」


 宮田はそう言って、アタシの背中を一叩きしてキッチンへと駆けていった。またタマゴ料理かと思いながら、火を点けずにそのままにしていたタバコを箱に戻し、部屋の中へ戻る。

 部屋に戻ると、早速宮田は朝食に挑戦していた。遠目から見ても、朝食を作る動きじゃない。あれじゃボクシングだ。

 そんな事を思っていると、玄関からチャイムが鳴った。


「ごめーん! 代わりに出てくれる!?」


「分かった」


 キッチンで悪戦苦闘している宮田を横目に、玄関へと向かう。鍵とドアチェーンを外し、扉を開けると、さっきベランダから見た女の子が訪ねてきていた。改めて近くで見ると、人間とは思えない程の美しさだ。


「何か用か?」


「……あなたは、誰?」


「あ?」


「あなた、誰?」


 なんだ、コイツ……何も読み取れない。声色からも、表情からも、何一つとして読み取れない。不気味、という言葉で片付けられない何かがある。


「アタシはここの住人の知り合いだ」


「どんな知り合い?」


「大人の知り合いだ」


「大人の知り合いは、どういう知り合い?」


「……それで? 訪問の理由は?」


「私は京子さんに会いにきたの。京子さんも私に会いたいと思ってる」


「京子さん、ね……」


 名前で呼んでいる事から、交友があるのだろう。だが言い方が引っかかる。【会いにきた】ならまだしも【会いたいと思っている】と断定するのは、何か変だ。相手の意思も分からないまま、ここまでハッキリと言うのは、深い関係、もしくは……。 


「ねぇ、誰が来たの―――って、冬美ちゃん!?」


「冬美ちゃん?」


「京子さん!」


 冬美と呼ばれるコイツは、アタシにぶつかりながら通り過ぎ、宮田に抱き着きにいった。宮田は少し戸惑いながらも抱きしめ返し、アタシに苦笑いを浮かべた。 

 何故かは知らないが、気まずい雰囲気が漂い始めた。アタシにぶつかって宮田に抱き着くガキと、そんなガキを抱きしめながら苦い表情を浮かべる宮田、そんな二人に困惑するアタシ。


「なんだこの状況」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ