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天使の子供  作者: 夢乃間
第1章 特別学習
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時の流れの変動

誤字があったらすみません

 冬美ちゃんが家に泊った次の日の朝。外は未だに雨が降っているが、昨日と比べれば収まった方だ。これくらいの雨なら、冬美ちゃんを家に送り届けられる。

 

「今なら帰れそうね。冬美ちゃん、送ってあげるから行きましょ?」


「……もっと先生の家にいたい」


「そう言わないで。また泊りに来ればいいんだから。あ、でも突然来るのは駄目よ? 事前に連絡を入れる事。電話番号知ってるんだから」


「うん。じゃあ、そうする」


「よし! それじゃ、行きましょ」


 傘を手に取り、冬美ちゃんと一緒に家を出た。マンションの階段を下り、道に出る前に傘を開き、冬美ちゃんとくっついて歩いていく。

 

「家に着いたら、先生は帰っちゃう?」


「そうね、買い物に行かなきゃいけないから。何か冷蔵庫に入れておかないと」


「空っぽだったもんね」


「私もビックリ! 冬美ちゃんもこまめにチェックした方がいいかもね」


「うん」


 他愛のない話をしながら、雨の中を歩いていく。雨は嫌いじゃない。雨で変わる風景、いつもは沢山の人が歩いている道に誰もいない空虚感。見ているだけで、寂しさとか悲しさが込み上がってくる。

 普段ならそんなの感じたくないけれど、たまに独りでいる事を浸りたい時がある。いつも明るく楽しいだけじゃ、飽きちゃうから。

 でも今日は、冬美ちゃんがいる。寂しくて悲しい世界で、人の温かさを感じる。この温かさだけは、きっと飽きないだろう。


「……ねぇ、先生」


「ん?」


「昨日言ってくれた事、信じてていいんだよね?」


「昨日言った事?」


「お風呂で言ってくれた事。私の全てになってくれるって」


「そ、そういえば言ったわね……」


 思い返せば、私はとんでもない宣言をしたものだ。感情的になって、冬美ちゃんの全てになるだなんて言ってしまった。まるで、プロポーズの言葉みたいだけど、子供相手には重すぎる。


「先生は私の全てになってくれるんだよね?」


「……そんな不安がらなくて大丈夫よ、冬美ちゃん。あの時言った言葉や想いは、嘘じゃないから」


「そっか……じゃあ、ワガママを言ってもいい?」


「いいわよ? あんまり無理難題なのは断っちゃうかもだけど」


「……先生の事、名前で呼んでもいい?」


「そんな事? 全然いいわよ! 先生はもう名前で呼んじゃってるし!」


「いいの? それじゃあ……京子、さん」


「アハハ! 呼び捨てでもいいのに!」


「無理だよ。だって京子さん、大人だもん」


「歳の差があると遠慮が出来るものね。それじゃ、冬美ちゃんが大人になって、呼び捨てになる時を楽しみにしてる」


「ずっと先だよ?」


「冬美ちゃん。時間の流れって、目で見ると長すぎると思うけれど、体験してみると意外と短いものなのよ? だから冬美ちゃんが大人になるのなんて、あっという間よ」


「そうなんだ……じゃあ、しっかりとした大人になる為に、もっと京子さんの事を知らないと」


「それはどういう意味かな~!?」


「フフ、どういう意味だろうね?」


「この~! 傘から追い出しちゃうわよー!」


 体を押し当て、冬美ちゃんを傘から出そうとした。もちろん、本当に追い出す訳じゃなく、力も加減している。

 すると、冬美ちゃんは傘から追い出されないよう押し返してきた。そのやり取りがだんだん楽しくなってきて、気付けば私も冬美ちゃんも笑っていた。まるで子供のように、はしゃいでいた。

 冬美ちゃんと一緒にいると、本当に幸せだ。どんな話や遊びでも、冬美ちゃんが傍にいると心から温かくなる。こんなに幸せな時間、今まで一度も無かったな。

 普段は30分という時間が長く感じるけれど、幸せに包まれていると、時間の流れは早くなる。気付くと、私達は冬美ちゃんの家の前にまで辿り着いていた。


「あら? もう着いてたのね?」


「ほんとだ。もうここまで、来てたんだ」


「ね? 時間って、意外と早いものでしょ?」


「きっと京子さんがいたからだね」


「そうね、冬美ちゃんがいたからね」


 傘の中でお互いの微笑んだ顔を見つめ合ったが、冬美ちゃんはすぐに寂しそうな表情を浮かべた。


「そんな寂しそうにしないで。今日は無理でも、明日は会えるから」


「……明日も天気が悪かったら?」


「雨の中を走ってくるわ!」


「フフ、昨日の私みたいに?」


「そうよ。今度は私がびしょ濡れになるわ!」


「先生は大人でしょ?」


「アハハ! そうね、そうだったわね! なんでだろう……冬美ちゃんといると、子供っぽくなっちゃうのよ。しっかり大人らしくしようって思ってるけど、気を抜くとこうなっちゃう」


「私は京子さんのそういう所も好きだよ」


「ありがとう……私も、冬美ちゃんが好きよ」


「「フフフ!」」


 元々住んでいた場所からこの町に引っ越してきて、友達と呼べる親しい人はいなかった。というか、向こうでも親しかった人はいなかった。心から気を許せる相手との出会いがなかった。

 きっと、これは運命なのだろう。今まで独りだった過去も、この町に来たのも、冬美ちゃんと出会う為だったんだ。

 そんな事を思いながら、冬美ちゃんと玄関前にまで来ると、家の中から誰かが出てきた。冬美ちゃんのお父さんが出迎えに来たかと思ったけど、違った。

 その人物は、千田校長だった。


「校長先生……!?」


「おや、宮田先生……ほぉ」


 千田校長は、相合傘をしている私達を観察するように見ると、ニコッと微笑んだ。


「随分仲良くなられたようで安心しました」


「え、ええ」


「……順調だな」


「はい? 今、なんと?」


「それでは私は失礼します。今後とも、特別学習に励んでくださいね」


 そう言い残し、千田校長は傘をさして去っていった。千田校長が呟いた言葉、どういう意味だったんだろう? 私達の事をよく見てたし、千田校長に限って、下心があるとは思えない。


「……京子さん」


「ん?」


「……やっぱり、なんでもない」


 そう言った冬美ちゃんの表情は暗かった。冬美ちゃんが言いかけた事を聞き出そうとした矢先、冬美ちゃんは逃げるように家の中へと入っていった。


「冬美ちゃん……」


 忘れかけていたけど、冬美ちゃんのお父さんは何かを隠している。それに千田校長が関わっているとしたら、もしかすると……何の証拠も無しに、深く考えるのはやめておこう。でもいずれ、知らなきゃいけない。冬美ちゃんの為にも。

 冬美ちゃんの家の前から去り、私は一度自分の家へと帰っていく。その帰路は長く感じ、寂しさと悲しさで心が一杯になった。

 そうして実感する。私は、独りになってしまったんだと。

次回から新章です

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