表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使の子供  作者: 夢乃間
第1章 特別学習
10/27

絵に込められた想い

誤字があったらすみません

 お昼になっても、外は相変わらずの豪雨だ。ニュースからの情報では、これから更に雨風が強くなるらしい。この様子じゃ、今日は三食カップ麺ね。冬美ちゃんが来ると分かっていれば、色々と買っておいたのだけれど……いや、これは言い訳だ。冷蔵庫の中にマーガリンしかないなんて、いくらなんでもマズいでしょ。 

 

「先生、これって何の絵?」


 そう言って冬美ちゃんが持ってきたのは、私が学生時代に描いた人物画だった。人物画と言っても、普通の物じゃないけれど。


「冬美ちゃんは、それがどういう風に見える?」


「どういう風?」


「その絵に描かれた人は、どういう表情をしていると思う?」


「う~ん……悲しんでる?」


「悲しんでる、そっかそう見えるかー」


「違うの?」


「ん~、違うといえば違うし、違わないといえば違わないかな? それはね、人によって表情が違うように見える絵なんだ」


 作品の題名は確か【他人】だったかな? 今思えば、この絵を描いた時の私は、結構心を病んでたな。

 でも、この絵だけが他人から評価された絵だった。何を描いても見てもらえなかった私が描いた最初で最後の傑作。コンクールに出されると聞いて、急に恥ずかしくなったから、深夜に学校に忍び込んで盗んだ。それから少しの間、私の絵が盗まれた事が学校で話題に上がってた。

 その犯人が絵を描いた本人だなんて、誰も信じないし、予想もしないだろう。


「この絵、凄いね……」


「でしょ~。色とか、塗り方とか、結構大雑把に見えて、意外と繊細に描かれてるんだ」


「そうじゃなくて……この絵から、先生を感じる。怒ったり、泣いたり……先生がこの絵の中にいる」


「……そっか……絵は時に、想いを表す。意識がキャンパスの中へ入り、キャンパスの内から描く。手や足で描く、肉体を使ったものには表現の限界がある……だから、私はこれを描けたんだ……」


 何の才能も無い私が突然こんな絵を描けた理由に、今更気付いた。もし、学生時代に気付いていたら、私の今は違ってたんだろうか? 学校の先生じゃなくて、絵を仕事に。大きな美術館に展示され、沢山の人に見られ、評価され、また絵を描く。そんな毎日を過ごしていたのかもしれない。別にガッカリはしていない。だって、先生になりたかったのは本当で、事実、私は先生になれた。

 それに、先生になれた事で、冬美ちゃんと出会う事が出来たんだ。こんな天使のような子に出会えただけで、先生になった甲斐がある。


「先生? 大丈夫?」


「え? ああ、ごめんね! 懐かしくて、つい思い出に浸ってたの! あ、そうだ! 今から、冬美ちゃんの事を描いてもいいかしら?」


「先生が私を描いてくれるの!?」


「ええ……といっても、もうしばらく描いてなかったから、下手くそになっちゃってるかもだけど」 


「全然いいよ! 先生が描いた私、見てみたい!」


「そう? じゃあ、早速描こうかしら!」


 机に行き、鉛筆とキャンパスノートを手に取り、床に座る。久しぶりの人物画が冬美ちゃんだなんて難題だ。

 でも、自分から言った事だし、なにより冬美ちゃんが嬉しそうにしているんだから、頑張って描かないと!


「それじゃあ、冬美ちゃん。そこのベッドに座って」


「うん。どういう風に座ればいい?」


「う~ん……なんか、こぉー……自然の中にいる感じに?」


「ここ、先生の家の中だよ?」


「そうだけど! それじゃあ、ちょっと想像してみて……今、冬美ちゃんは広大な草原にいるの。そこは穏やかな風が吹いていて、人の生活音が何も無い静かな場所。そこに冬美ちゃんはいるの」


「先生はいないの?」


「じゃあ私もいるとしましょう。とにかく! 冬美ちゃんは今、私と一緒に草原の上で休んでいる! はい復唱!」


「私は今、先生と一緒に草原の上で休んでる」


「はい! じゃあ、よろしく!」


 自分で言っといてなんだが、これから描く絵の情景なんて、被写体が考える事じゃないな。なんにせよ、まずは描かないと。描いて、今の自分のレベルがどれ程のものか、早い内に知っておきたい。

 そうして、体感で1時間くらいの時間が流れた。想像していた風景は描け、私と冬美ちゃんの絵も順調に描けていた。正直、ブランクがある中で、ここまで描けるとは思いもしなかった。何故だろう、手が迷いなく動く。描いた事も無いのに、描いた憶えがあるような気がする。 

 そうか、今の私は、あの頃の私と同じなんだ。【他人】を描いた時の私と同じで、意識が入り込んでいる。

 でも、あの頃の私とは抱えている想いが違う。悲しみや怒りなんかじゃない。穏やかで、幸せな気持ちだ。まだ絵は完成していないけれど、きっと良い絵になる。見るだけで、私と冬美ちゃんが幸せになる絵が。

 

 それから時間は流れ、遂に絵は完成した。時計を見ると、もう午後16時。4時間も描いていた。


「冬美ちゃんお待たせ。絵が―――」 


 冬美ちゃんに絵が出来上がった事を教えようと目を向けると、冬美ちゃんはいつの間にか眠っていた。途中から絵を描く事に夢中で、冬美ちゃんが眠ってしまった事に気付かなかった。

 ベッドへ行き、冬美ちゃんを起こさないようにして、私もベッドに横になる。冬美ちゃんがベッドから落ちないように抱きしめ、描き終えた絵をベッドの隣にある小棚に置く。

 出来上がった絵の中にいる私達は、とても穏やかで幸せそうにして身を寄せ合っている。まるで、今の私達のようだ。


「絵みたいに、このまま時間が止まれば……フフ、そんなの起こりっこ無いわよね。おやすみなさい、冬美ちゃん」


 現実の世界は絵のように時間が止まる事は無い。ならせめて、夢の中だけでも、冬美ちゃんと二人でいたい。私達以外の生物がいない、穏やかで平和な場所へ。

 そう願いながら、私は目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ